第14話 剣士の名は
お久しぶりです
◇◇◇
「ラウラ様とお嬢は本当についてくるの?」
言外に『わたし一人で大丈夫だ。というよりむしろ足手まといなのでついてくるな』と含ませたにも関わらず、二人はそんなものは何のそのと、目をキラキラと輝かせながら何度もふんふんと頷いた。
二人護衛を請け負っている少女は仕方ないかと、溜息を吐いたのだった。
◇◇◇
お嬢こと、ソフィア・ゴア。
彼女はアルカナでも──とりわけこのボルダフではなおさら知らぬ者はいないとされる、ゴア商会会頭のハインツ・ゴアを父に持つ女性だった。
父顔負けの商才の片鱗を見せ周囲を驚かせることはあれど、未だに甘さが随所に滲み出ているため修行中の身である。
そして、ラウラ様こと、ラウラ・ボルダフ。
言わずと知れた辺境の街ボルダフ領主の三人娘の末っ子である。好き勝手に生きた姉二人のせいで彼女は「何とかこの娘だけでも」と願った両親によって、箱入り娘もとい、宝箱入り娘と揶揄されるほどに溺れるくらいに溺愛され、大事に大事に慈しみ育てられた娘であった。
ここに彼女達二人の性格を反映するエピソードがある。これは少し前のことだ。
ソフィアは「信の置ける者が直接出向く必要のある商談がある」と兄に頼まれ「私に任せてください!」っと何一つ疑うことなく、いざ出発!
途中で何故か護衛全員が逃亡し、間が悪くゴブリンの群れに囲まれた。
すわ苗床! という今際の際で、運良く通りかかった謙虚(?)でどこか陰のある青年に助けられ、何とか生き延びたという。
そして、ラウラにいたっては、スーパー過保護な生活に嫌気が差し、仲の良い侍女のアドバイスに従い屋敷から護衛の一人も連れずに「いきますわ!」っと大脱出!
やはりというべきかそこには当然むくつけき汚らしい男達が待ち構えており、阿吽の呼吸で拐かされた。
すわ傷物! どころか身体も心も人生もハチャメチャにされちゃう! というギリギリのところで運良く通りかかったカッコいい青年(想像)に助けられることで難を逃れたという。
これらの話を聞けば、もうお分かりだろうが、二十歳を超えたソフィアも、十代ではあるが貴族の娘であるラウラも、年齢に見合わずその場のノリで何となく生きている人種であった。
未だ十代の護衛の少女からすると、二人はまるでわがままな駄々っ子のようだった。
とまあ、ほぼ同時期に危機に陥り、ほぼ同時期に同一人物に助けられたという、不思議な縁もあり、彼女達が親しくなるのにそれほどの時間は必要なかった。
今では彼女達は親友となり、時間があれば集まってお茶をしばきながら様々な会話に花を咲かせていたのだった。
……それだけならば平和であった。
しかしそう簡単にはいかない。
そもそもアクティブであった彼女達が揃い、仲良くなるにつれ、二人の持つそのアクティブさは相乗効果を発揮し、類まれなアクティブさを持つ二人組へと進化を遂げたからだ。
その結果、元よりお転婆気質なラウラと、知的メガネキャラ(笑)のソフィアの二人は、何かと良からぬ計画を企てては、それらを実行に移してきた
しかし残念ながら、これまでは未然にゴアパパ、及びボルダフパパによって二人の計画は阻止されてきたが、懲りない二人の戦いは続くのだった。
その話を聞いたとき護衛の少女は「何をやっとるんだこいつらは」という気分になり、もう何度目になるかわからない溜息を漏らした。
要するに、護衛の少女がソフィアに雇われたのはゴアパパによる一つの妥協であった。
実績と信頼に足る護衛を付けることで、やんちゃな娘が暴走し、万が一それが上手く行ってしまったとしても最低限の安全は確保できるだろう───という、娘の暴走を阻止することを半ば諦めた上でのゴアパパによる次善の策とも言えた。
さて、そこで問題になってくるのが、護衛の少女の実力である。
彼女の実力が並み以下では話にならない。
それどころか、そこそこ腕が立つ程度では超VIP二人を護りきるには全くの力不足であった。
ならば彼女の実力は───
「隠れ山の麓に行くのは良いんだけどさ」
護衛の少女が街を出たところで、後ろの二人へと顔を向けた。
「絶対にわたしから離れないでね。約束できる? ここで約束出来なきゃ連れていかないわよ」
「ええ、大丈夫よ。ねぇラウラ」
「あったりまえよー!」
少女の念押しに、理知的な眼鏡美人のソフィアが楚々として頷き、見た目だけは100%天然物のお嬢様然としたラウラが指を鳴らした。
不安しかなかった。というかそもそもお嬢様は了承するときに指を鳴らしたりはしない。
ラウラも大きくなったら話に聞いた姉の如く、自由に生きるのではなかろうかという予想を抱かせるには十分な振る舞いであった。
「はぁ、わたしの約束は軽くないわよ。もし破ったら、そこで護衛契約は終わり。肝に銘じていてね」
「「はーい!」」
護衛の少女は顔をしかめたのだった。
◇◇◇
麓から少し行った街よりも近い所に、ギルドから造られた建築があった。
そこで、様々なパーティが定期的に住み込んでの生活を順繰りすることで、山から降りてきたモンスターを討伐するための居住地としての役割を果たしていた。
隠れ山特有の強力なモンスター達から手に入る純度の高い魔石や素材などは貴重な物であったため、どこのクランやパーティも率先して受けたい仕事であった。
ただ、生半可な実力のパーティだと、パーティに被害が及ぶだけでなく、モンスターが降りてきた先々で被害が拡大してしまうので、ギルドも実力があり、心の置ける探索者達に、贔屓だ不公平だと不満が出ないように、一定期間の順番制として、仕事を割り振っていたのだった。
そして、彼女達はその建物よりも、もっと先のいわゆる山の入口の直下に馬車を停めて、これからのことを話し合っていた。
「ここまで来てから聞くのも今更だけど、あなた達の探し人が隠れ山に住んでるってのはちゃんとした事実なの?」
「貴女を雇う前に、何度か部下に彼のあとをつけさせたのね。彼は街を出ると隠れ山に入っていったそうなの」
馬車の中でソフィアが茶を用意しながら、少女の質問に答えた。優雅なものである。
「街にいないのなら、ここで待ってれば会えるかもってことか」
けど、探し人を探すのは並大抵の苦労ではない。
それほど上手くいくかしら。
わたしだってこんなに───。
「来たわ」
「「えっ!?」」
少女の注意喚起に、待ち人来たりと喜色に沸いた二人。
「違う。来たのはモンスター」
目に見えてがっかりした二人を背に、
「中で待ってなさい」
少女は走り出した。
◇◇◇
霧を呼ぶ角兎。
姿形は、人の半分くらいの高さの巨大な角兎であり、Aランク相当のモンスターとされる。
複数で現れ霧を生み出し、気配を隠して目標を死角から高速の攻撃で暗殺するというのが特徴の、油断して相手の術中にはまればたとえ上級パーティでも全滅必至の相手であった。
「三匹……か。すぐに終わらせるわ」
辺りを濃霧が包んだ。
けれど別に構わない。
気配を読めば何も問題はなかった。
少女は両腰に掛けたそれぞれの鞘から、すらりと剣を抜いた。
角で突き殺さんと高速の体当たりを仕掛けた一匹を極限まで身体をしならせて躱し、
「《弓》」
その姿勢から、下から剣を鞭のように振るった。
「まずは一匹」
彼女の呟きと同時に、交差した一匹が縦に分割されどしゃりと転がった。
「《必傷剣》」
ついで軽く振るった双剣は置き土産。死角にいた二匹が飛び掛かると同時にその足は刃へと突き刺さり両の後ろ足を切り落とすはめとなった。
抵抗をせずに諦めた一体の首を落とし、欠損にも関わらず執念を見せ牙を向け飛び掛かった最後の一匹を、
「《鋏》」
蟹のハサミに見立てた双剣は、モンスターの身体を抵抗させる間もなく胴体から真っ二つに掻っ捌いた。
彼女は全く危うげなく、数瞬で凶悪なモンスターを仕留めたのだった。
霧が晴れると、馬車から二人がひょこりと顔を出した。「無事でしたか?」と尋ねたソフィアに、
護衛の少女───オルフェリア・ヴェリテは双剣を鞘へと戻し、「当たり前じゃない。わたしを誰だと思ってるの」と応答したのだった。
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最近誤字報告くださる人、本当にありがとうございます!助かります!
多分凄いお時間をおかけしたと思います。
本当にありがとうございます。
次から本編に行くか
この3人の話をあと一、二話するかなんで
気長にお待ちくださいー




