第9話 プルミー・エン・ダイナスト①
面倒見のいいお姉さんみたいな
超美形エルフさんです
◇◇◇
プルミー・エン・ダイナスト。
当初山田一郎が"エルフのギルマス"と心の中で呼び、新造最難関迷宮に初めて挑戦するにあたって最もお世話になった人物だ。
彼女は今では賢者と称される女傑アンジェリカ・オネストの保護者であった人物でもある。
アンジェリカが賢者と呼ばれるようになってからは、彼女の才能を見抜いて育て上げたという功績ばかりが注目されがちであったが、そもそも彼女自身も優れた魔法使いであり、少しでも魔法を齧った者ならばプルミー・エン・ダイナストの名を知らぬ者はいない程度にはその名を轟かせていた。
そういった実力が評価され、彼女は王都に最も近い迷宮とされた《鏡の迷宮》とそこから比較的近いとされた《光の迷宮》の間に存在する街───グリンアイズに存在する探索者ギルドのマスターを務めていた。
グリンアイズは、二つの凶悪な迷宮から万が一スタンピードが起こった場会に備えた王都の防衛拠点としての役割を備えており、つまるところプルミーは、王都防衛の重要拠点とされたその街の要となる人物の一人であった。
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プルミー・エン・ダイナストはあの騒がしくも幸福だった日々を思い返す。
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かつての話だ。
プルミーは、一人の少女を引き取った。
話は少女の境遇に遡る。
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少女は魔法の名家の生まれであった。
生まれつき莫大な魔力量を保持していた少女は、一族を築き上げた初代と同じ真紅の髪色も相まって、その生まれ変わりと持て囃され、一族の期待を一身に受けていた。
しかし少女が初級魔法しか扱えないことが判明するや否や、両親をはじめとした一族全ての者達から無能の謗りを受け、家を放逐されたのだった。
かねてより神童と噂され、十歳のときに赤髪の少女を見て以降、個人的にも目をかけていた彼女が放逐されたとの報を受けたとき、プルミーは驚きのあまり目を剝いた。
あり得ないと思った。
魔力線も、あの年齢で既に優秀とされる大人と比べても遜色のないものであり、魔力量に至っては比べるべくもない。
それに何より───
プルミーが部下に少女の行方を探させると、すぐさま居場所が見つかった。少女は王都から離れた場所に位置する町の食事処にて、住み込みの従業員をしていた。元来貴族であり、まだ幼い年齢の彼女にとって辛い生活だったことは想像に難くなかった。
プルミーは数日の徹夜を重ね仕事をこなすと、すぐさま少女のもとに赴いた。
そこで見た少女は、みすぼらしい服を身にまとい朝から晩まで休むことなくせかせかと一所懸命に働いていた。
食事は十分だったのだろう。だから少女が痩せているということはなかった。しかしそれでも少女からは、隠し切れない疲労の色が滲み出ていた。プルミーはまずはただの客という体で食事処に訪れたが、そこで見た少女の表情は、どう見ても十を越えたばかりの少女がしてもいいものではなかった。
少女は覚えていないだろう。
あの日あの場所で、プルミーと目線を交わしたことを。そもそもの話、仕方のないことだと思う。プルミーはフードを被っていたし、何年も前のことなのだから。
しかし、少女が覚えてなくともプルミーは決して忘れない。
あの日見た、絶え間ない訓練を続けた者のみになし得る、少女の全身を走る強烈で精緻なまでの魔力線を。そしてそれ以上に、どれだけくたくたになろうがそんなものは関係ないとばかりに燃え盛る、彼女の瞳の中に迸る絶対的な意志の炎を。
◇◇◇
苦難に身を浸した少女は、一つたりとも諦めていなかった。労働に、学びに、鍛錬に。少女は何一つ妥協していなかった。
似た性を持つ者同士のシンパシー故か、どうしてかプルミーにはそれが理解できた。
ならば話は早いと、プルミーはすぐさま食事処の経営者夫婦に、真紅の髪の少女を引き取るために相談を持ちかけた。
しかし、結果は予想外に芳しくはなかった。
少女を住まわせ、働かせている食事処の夫婦は、プルミーの「彼女を引き取らせてはくれないか?」という頼みをにべもなく断った。
彼ら曰く「ここで働いた方がアンジェリカちゃんにとっても幸せだ」とのことであった。
どうしても首を振らない夫妻を前に、プルミーは仕方無しと、金貨の入った袋を取り出して見せた。そのときばかりは彼らの決意も揺らいだように感じたが、それでもしばし悩んだ後、彼らは告げた。
「聞いたところによると、あの子は有名な魔法貴族の生まれで、落ちこぼれってんで捨てられたそうじゃないか」
「そうさ、捨てられるような才能ってことは、才能がないってことだろ? それなのに努力を続けるなんて馬鹿げている。魔法を学んだところで将来性がないのなら、そんなものはとっとと捨てて、普通の生活を送る方が良いに決まってる。現にあっちを見てみな。アンちゃんは立派に働いている」
終始がこのような感じで、夫妻は頑なにプルミーの提案を受け入れることはなかった。
なるほど。経営者夫婦は確かに少女のことを考えているのだろう。けれど全く彼女のことを理解しようとしていなかった。
プルミーのできることは───
「ああ、これはさっきの話とは関係ない。料理が美味しかった心付けとでも思ってくれ」
取り出した金貨は仕舞わずに、袋ごとそのまま夫妻に渡した。
「できればで構わない。余った分は貴方達の自由にしていい。だからあの子にはもう少し休みをあげて、良い服を着せてやって欲しい」
少しでも少女のためになるようにとの願いを託し、店を後にしたのだった。
◇◇◇
プルミーが再び店を訪れたときには、「しつこいな! また来たのか! アンちゃんはウチで面倒見るってのがわからないのか!」とそのまま店を追い出されそうになったが、客として訪れたと伝えると、店主夫婦はしぶしぶ「あの子には接触しないでおくれ」という条件の下、入店を許可したのだった。
そうしてプルミーは何度となく少女の働く食事処へと足を運んだ。
彼女が店を訪れる度に、経営者夫婦は眉をしかめ、赤髪の少女をプルミーに極力会わせないようにと意図して遠ざけていたが、店の客入り如何によってはやむなく、少女にプルミーの頼んだものを配膳させることもあった。
店を訪れ、少女を見る度に、彼女の魔力量が増え、魔力線がより洗練されていくのがわかった。話しかけずとも、少女の成長を確認することが、プルミーにとっての楽しみであり、喜びですらあった。
◇◇◇
それから二年近くが経過し状況が変わった。
件の町からアンジェリカが出奔したとの知らせがあった。
どうやら経営者夫婦の一人息子が借金をこさえたことが原因で彼らと少女との間に金銭的な問題が発生したことが原因のようだった。
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それから誤字報告毎回本当にありがとうございます!
プルミーは初期からずっと話に絡む予定でした
今回の閑話後にももちろん登場します
また割烹にて新人技術者さん様のレビューにお礼をさせていただいておりますので、よろしければそちらもお目通しいただけましたら幸いです。




