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第8話 枝


今日二話目です。


時系列で言えば、セナのところに辿り着いて、二人で暮らし始めたくらいです

アップルパイの夢のエピソードあたりです


みんながこういう話が好きだって言ってたから












◇◇◇



《願いの宝珠》

 あらゆる願いを叶えてくれるアイテムと言われている。

 この空前絶後の効果を発揮する宝珠を用いれば、異世界へと召喚された人でも、元の世界の元の時間軸に戻れるという。


 この宝珠の規格外れの効力によって、通常とは(こと)なる特異な形で一つの世界線が生じた。


 生じたのは、たった一つ。

 山田が異世界から帰還を果たせなかった場合の世界線であった。




◇◇◇




《鏡の迷宮》にて《水晶のヒトガタ》と相対した山田一郎。

 善戦するも、回復と致命傷のいつ終わるともしれない繰り返しの中、精神に深刻なダメージを受け、発狂。

 魔力暴発を起こし、ボスモンスターと共に散る。

 




◇◇◇




《光の迷宮》にて《天使》と相対した山田一郎。

 終わることのない《天使》の連撃をガードし続けるも、アンジェリカの《ナルカミ》が間に合わず心臓を拳で貫かれて死亡する。





◇◇◇




《不死の迷宮》にて《蘇生の宝珠》を見つけることなく《廻天屍人(リバースデッド)》と相対した山田一郎。

 千八十に及ぶ戦いにて、気の緩んだ瞬間背後からの不意打ちで心臓を破壊され死亡する。

 



◇◇◇



《氷の迷宮》にて単独で《氷結概念》と相対した山田一郎。予期せぬ概念攻撃を受け、擬似的永久凍土に囚われ、まずは緩やかに精神が死に、遥か後に肉体も滅びて完全に死亡する。




◇◇◇



《妖精女王》と相対した山田一郎。

 全てを救おうと自らを犠牲にし、その命を散らせる。



◇◇◇



《炎の迷宮》にて《炎の精霊身体(エレメンタルボディ)》と対峙した山田一郎。

─────────────────────────────し死亡する。



◇◇◇




──────────────────────────────

─────────────────────

───────────────

──────────

──────



◇◇◇





 隠れ山にて白い少女が間に合わず、山田一郎は一人孤独に毒死する。





◇◇◇




 山田一郎の死という事象。

 死のパターン自体は両の指で数えられる程度であったが、それでも決してゼロではなく、目をつぶって無視してしまうには躊躇われるほどには有り得た確率であった。


 またどのパターンの死であっても、地球には山田一郎という少年が、始業式の日に、通学中に行方をくらませたという事象へと帰結する。

 そしてこの場合、彼が戻ってくることは、二度とない。



◇◇◇



 その家族からはまるで灯りが消えたようだった。

 あの日から一月(ひとつき)ほどが経過していた。

 少年が学校に登校していないとの連絡を受けた家族は当初、「どこ行ったんだ」「入学式早々からやらかしたな」などと事の重大さに気付かなかった。


 叱るために何度も電話を掛けたがいずれも電波圏外であった。

 そして夕飯の時間になり、太陽が沈み、街灯が点灯し始めたころ、連絡を取れない少年の身に何かがあったのではとようやく思い至り、警察へと駆け込んだのだった。


 元々具合の悪かった祖母はその日を境に一気に体調は悪化した。そして一日のほとんどを孫の捜索に費した祖父は、無理が祟り、倒れ、そのまま入院となった。


 母は目の下に隈を作り、毎日を義理の両親の世話と、息子の写真が印刷されたビラを配りに家を出た。

 父は仕事が終わり次第、母と合流し、日付が変わるまで捜索に励んだ。


 今朝、家を出る前に、青褪めた表情の母から「ヒカルも、学校が終わったら三つ隣の駅前にこれを配りに行きなさい」と言われた。


 温かかった食卓には、今や食事が並ぶことはなく、兄の写真の入ったビラの束が積み重ねて置かれていた。


 直感的にこんなことをしても兄は帰ってこないということを、妹であるヒカルは気付いていた。


 兄がいなくなったことで、家族はみんな疲弊していた。

 家族が近い内に崩壊するのは、火を見るより明らかだった。

 手に取ったビラに映る兄がピースして笑っていた。


 ヒカルは、どうしても立っていられなくなり、その場に崩れ落ち、一人膝を抱えて涙を流した。


 いつだって彼女の味方になって、いつだって助けてくれたのは兄だった。


 ヒカルが普通とは違う道を夢見たとき、やさしく背中を押してくれたのは兄だった。

 堅実な道をと主張する両親を、何とか説得してくれたのも兄だった。






 にいちゃん、帰ってきてよ。

 にいちゃん、助けて。

 









◇◇◇



 青年は叫び声を上げて、目を覚ました。

 気が付くと、涙を流していた。

「何だこれ」と目元を袖で拭うも、涙はどうしても止まりそうになかった。


 その内に、胸まで苦しくなり、嗚咽を漏らした。

 う、う、ううという声がどうしても抑えきれなかった。

 白い少女が目を覚まし、青年を抱きしめた。触れた所から彼の震えを感じた。

 少女は彼の背中を何度も、何度も、優しく叩いた。


「大丈夫よ、イチロー、大丈夫だから」


 白い少女は青年が泣き疲れて、眠るまで、休むことなく、彼をいたわり続けたのだった。








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[良い点] 104話 いま読み終えました とてもおもしろかったです 更新楽しみにしています
[良い点] 召喚もので元の世界の描写があるのは好きです。絶対に帰らなきゃと意識を強くするエピソードも大好物です。 主人公が心折れつつもヒロインの助けで癒されるのもフェイバリットです。 リクエストに応え…
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