表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/357

第5話 陽キャ孔明(偽)①

俺は何を見せられてるんだという気持ちになるかもしれませんがあしからず。

◇◇◇



「ありがとうね」


 彼───竜宮院王子は自分のグループに入れてやったオタク少年から借りていた小説を返した。

 そのオタク少年こと斎藤栄助───彼は竜宮院達と友人として付き合うようになってから、一気に垢抜け、ショタ好き属性の女子生徒達から急激に支持を集めた。



「読んでくれたんだ! 早かったね! 昨日貸したばっかりだったのに!」



 斎藤栄助は、自分の憧れである竜宮院が、己の趣味を共有してくれたことに、目を輝かせ、捲し立てるように語り始めた。「貸してくれないかな?」と頼まれたので貸したが、心のどこかで、それは竜宮院の社交辞令に過ぎないのではないかと思っていたので、実際に読んでくれるとは夢にも思わなかったのだ。



「主人公のキリヒトには憧れちゃうよね!

 ぼくは今、異世界転移ものや異世界召喚ものにハマっててさ、やっぱり彼ら主人公には自己投影しちゃうよね!」



 竜宮院の目の前で熱弁している斎藤栄助は、いわゆるオタクという人種であった。

 また彼は、学生ながらそれなりに知られたゲーム大会の上位に顔を出すほどのゲーマーであった。それにPCの操作はお手の物で、ボカロで曲を自作したり、他にも竜宮院には理解出来なかったものの、プログラム言語がどうとかこうとか、とにかく、竜宮院にとって未知の分野での有能さを誇る少年であった。

 


「ああ、中々面白かったよ。異世界に召喚されて、反則級の強さを得て、無双。フィクションだけれども、実際に自分がその立場になったら気持ち良いだろうね」



 竜宮院は嫌な顔を一切見せずに微笑みを浮かべたまま斎藤栄助に共感の意を示した。



「竜宮院くん……ステータスオープン!! なんちゃって」



 気持ちの高まりを押さえきれずに斎藤栄助が作中のキャラの物真似を始めた。


「まったく……」


 竜宮院は呆れ顔を見せつつ、


「君は本当に何をしているんだ……ステータスオープン!!」


 などと調子を合わせ、二人して笑い合ったのだった。 



 それはいわるゆ学生二人の微笑ましい一幕にも見える。

 しかし実情は全くの別物だ。

 竜宮院にとって何より大事なのものは己の利益だ。だからいわゆるその分野の知識が、これから先に出会うかもしれないオタク属性を持つ人達とのコミュニケーションツールとなり得るかもしれないという損得勘定によるものだった。

 つまるところ、竜宮院にとって斎藤栄助とのこのようなやりとりをはじめとした、付き合いの全ては、そしてそっち(・・・)方面の知識を手に入れるための労力や時間のその全ては、冷徹なまでに単なる先行投資であり、それ以上でも以下でもなかった。


 そこに友情の介在する余地はない。



◇◇◇



 竜宮院は目を覚ました。

 彼は夢をみていた。

 過去の夢だ。


 彼はぼやける頭で周りを見渡した。

 そこは王公貴族御用達の宿舎であった。


 宿舎などという言葉を使ったが、建物の作りはもちろん、接客や食事や寝具から、何から何まで極上のものである。

 竜宮院は自身の有能さを知らしめるべく、この世界で素晴らしいと言われるサービスなんて大したことはないだろうという粗を探したが、残念ながらケチのつけようがないものであった。


「チッ!」


 彼はそのことに不満を感じ、顔を歪めて舌打ちをした。腹立たしい感情のまま時間を確認すると、待ち合わせの時間を大幅に超えていた。

 けれど彼は、


『まあ別にいいか。待つことで彼女達も幸福を感じているだろうし本望だろう』


 すぐにそう思い直し、急ぐという選択肢を全力で投げ捨てたのだった。


 起き上がった彼の背後───ベッドの上でモゾモゾと動く気配がした。一晩を共にした二人の女性のものだった。

 彼女達はこの辺りで最近出来た高級娼館のナンバー1とナンバー2であった。竜宮院が莫大な金と「僕は勇者だぞ」という、ある種の権力をちらつかせることで(くだん)の娼館から無理やり持ち帰ってきた女性だ。


「起きろ」


 彼の温度を感じさせない声。

 そこに肌を交わした男女の情は一片もない。


 彼の声で娼館トップの女性が目を覚ましたが、もう一人は未だに夢現であった。


「おい、お前が起こせ」


 彼の表情に危機感を抱いた女性が、急いで同僚へと起きるように声を掛けた。


「あのさ───」


 彼の言葉を聞いた瞬間虫の知らせか、彼女は ヤバいと感じた。


「この一夜は君達と僕とのビジネスなんだよ。僕は顧客(クライアント)で、君達は商品を提供する側だ。なのに君達は顧客(クライアント)が目を覚ましても、未だにぐーすかと寝こけたままだ。君達にプロ意識はないのかい?」


 一晩丸ごとの貸し切りだった。

 そもそも竜宮院の相手などしたくなかったが、拒否権のなかった彼女達は仕方なく、長い時間精魂果てるまで奉仕を求められた。


 そもそも、極度の疲労から起きれなかったが

それはお前も同じで、お前だって今起きたばっかりだろとは思えど、彼女は口にはしなかった。

 早く服くらい着させてよ、と竜宮院に対し女性は内心で毒づいたが、そんなことには全く頓着せずに、彼は執拗にいちゃもんを続けた。


 そうしてしばらくするとトップの女性は気づいた。

 眼の前の男は「ビジネスだ」とか「クライアント」がどうとかこうとか無意味な能書を垂れ流してはいるが、要するに彼は、この街でも一流とされている女性(私達)に対し、説教し優位に立つことで、何らかのとてつもない快感を得ているのだ───


 だって、昨夜から早朝に掛けて何度も何度も致したはずの彼の息遣いと、彼のソレ(・・)は、説教が長くなるに伴い、興奮に猛っていたのだから……。


 竜宮院の隠し切れない異常性に気付いたトップの彼女は背筋を震わせた。

 彼女は挨拶も早々に、やがて目を覚ました同僚をと共に、急いで着替え、竜宮院をそれとなく褒めそやし、彼の気が逸れた瞬間に、部屋から極力自然を装って立ち去ったのだった。





◇◇◇



 竜宮院は勇者パーティの三人と待ち合わせていた。場所はレモネギルドの一室である。

 彼はギルド内に部屋を一つ借りていた。

 施設内に借りるというおかしな話であったが、そんなもんは関係ないとばかりに彼は金も払わずに、この街にいる間は、いつだって自分の好きにして良いという契約を結んでいた。


 目の飛び出るような横暴な契約ではあるが、レモネギルドのマスターを務めるバレンは、竜宮院からの圧力で泣く泣くそれを認めたのだった。

 しかし当の竜宮院はそうすることが当たり前のことだと思っていた。というか、むしろ逆に『英雄を率いし勇者が使ってやってるんだから感謝しろよな』とすら考えていた。

 うーん、面の皮が厚い。


 しかし、『新造最難関迷宮を攻略するため』という大層な大義名分を唱えて、バレンからもぎ取った部屋であったが、悲しいか用いられることはほとんどなかった。用いられるとしても、パーティメンバーへの相談が必要なときに数回利用される程度であった。



◇◇◇



 竜宮院はギルドの自室(?)の扉を開けた。

 そこには、座りもせずにその場で(たたず)み、彼が来るのを今か今かとそわそわと待ちわびている三人がいた。

 その様子に満足し、満面の笑みを浮かべた彼は、


 「待たせたかな?」


 と髪をかき上げて声を掛けた。

 そのセリフ以上に無益なものはなかった。

 正確な待ち合わせ時間を、既に三時間は過ぎており、待ち合わせの予定より相当前から待っていた彼女達は、非常に長い時間をそこで無為に過ごしていたのだった。

 

 しかし竜宮院の問い掛けに、


「いいえ、今こちらに到着したばかりです」

「私も! 今来たとこ!」


 という彼女達は気遣いと微笑みを見せた。

 彼女のバレバレの言葉に、竜宮院は興奮し、再びズボンの前部を硬くした。


 彼女達はトロフィーだった。

 それも最高級のトロフィーだ。

 三人はこの世界の全ての人間が称賛する英雄であり、憧れの対象なのだ。

 そんな彼女達が自分を心から慕いご機嫌を伺っているではないか。

 考えただけで『頭がフットーしちゃいそうだよぉぉ』であった。


 それでも何とか興奮を抑え、竜宮院は、


「まあ立ち話もなんだし座りなよ」と彼女達へと上辺だけの気遣いを見せた。


「まあ、勇者様はお優しいですわ!」

「さすが勇者様!」と答えた二人にさらにさらに気を良くしたが───その隣のどこか心ここにあらずの剣聖の少女を見てその興奮が覚めてきくのを感じ、


「力しか能のないチビゴリラはこれだから困る」と眉を(しか)めて吐き捨てた。


 竜宮院は、その言葉を受けて俯いたエリスに、多少の溜飲を下げ、何とか気を取り直した。そして、


「そんなことよりも今日集まって貰ったのは───」と本日のテーマを話し始めたのだった。


 呑気なものだった。

 王都にいる宰相の怒りは、今この時点でピークに達しようとしていた。


 ここから彼が、もう少し慎みを持って、もう少し思慮深い行動を取っていれば、物語は大きく姿を変えたはずであった。




◇◇◇



 今回の話し合いのテーマはずばり、剣聖エリス・グラディウスが聖剣を使わなかったことであった。


「『使えなかった』んじゃなくて『使わなかったんだろう』?」


 竜宮院は(うつむ)いたエリスの顎を掴んで顔を無理矢理に上げさせた。


「無理というのは、途中でやめてしまうから無理になるんだよ。途中で剣を抜くのをやめなけば無理ではなくなるんだ」


 悪しきブラック企業の教えにも似た精神論オブ精神論であった。


「ここで聖剣を抜け」


「でき、ません」


「良いから抜けよ」


「勇者様、本当に抜けないのです!」


「俺がッ!! この勇者がッッ!! 優しくしている内にさっさと抜けッッッ!!!」


 竜宮院が甲高い奇声を発した後、隣の二人に顎で指示を出した。


「エリスさん、勇者様のご命令です。こればかりは仕方ありません」

「そうよ、単純な話よ。抜いちゃえばいいのよ。何かあっても私達がいるから問題ないわ」と二人はエリスへの圧をさらに強めた。


「うう、う」


 呻いて、震える様に柄を握り締めたエリスであったが、彼女は意を決し、


「ああ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」


 叫び声と共に聖剣を一気に抜き放ち───鼻血と、そして血を吐きそのまま意識を失ったのだった。







最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

『おもしろい!』

『続きが読みたい』

『更新早く』

と思った方は、よろしければブックマークや広告下にあります『☆☆☆☆☆』から評価で応援していただけたら幸いです。

みなさまの応援があればこそ続けることができております。

誤字報告毎回本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] これ、聖剣が認めた者しか使えない感じの設定ですか、ひょっとして勇者竜宮院も聖剣抜けば、鼻血垂れ流し昏倒コースなんじゃ?
[一言] 剣を捧げないという誓約に反したと見做されたんだろうなぁ。 ところであの時、クズに対しては何を誓約させたのか記載がなかったのがずっと気になってる。 これが致命傷のカギなんだろうと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ