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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
三章 

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鑑定と攻撃力

 


(もしかして、現状で一番強いのはこの人なんじゃ……)


 そんなことを考えていると、自分に向けられるその視線に気が付いたようだ。奈緒は不思議そうな顔となって明を見つめると首を傾げた。


「顔が強張ってるけど……。どうした?」

「いや、なんでもないです」


 明は、さっと奈緒から視線を逸らす。

 以前に一度、奈緒のステータスを盗み見て軽く怒られたことを思い出したからだ。

 奈緒は、そんな明の様子にまた首を傾げたが、何かに思い当たったように表情を改めると、次いで大きな息を吐き出した。



()()、覗き見たのか」

「……すみません」

「ったく、お前は……。別に言ってくれれば、私はお前にならスキルもステータスも教えたぞ?」


 奈緒はそう言うと呆れたように笑った。


「それで、お前は終わったのか?」

「いえ、まだ少しだけ残ってます」

「それじゃあ、私はちょっと一服してるから。終わったら教えてくれ」



 言って、奈緒は部屋の窓をガラリと小さく開けると、懐からシガレットケースを取り出してその中身を口に咥えた。

 紫煙を燻らせ始める奈緒を横眼に、明はもう一度スキル取得の一覧へと目を向ける。

 そうして、明は気が付く。その一覧に、先ほどは無かったスキルが出現していることに。




 ――――――――――――――――――

 ・解析妨害Lv1 ―― 取得にはポイントを20消費します。

 ――――――――――――――――――




 名前からして、相手から受ける解析を防ぐスキルだろう。


「ッ!」


 明は微かに目を見開くと、すぐさまそのスキルの詳細を開いた。




 ――――――――――――――――――

 解析妨害Lv1

 ・パッシブスキル

 ・相手から受ける解析による効果を防ぐ。防ぐことの出来る解析範囲は、スキルレベルに依存する。


 解析妨害Lv1を取得しますか?  Y/N  

 ――――――――――――――――――




 どうして、このスキルが突然追加されたのか。

 その理由を、明はもう既に何となく察していた。


(解析のレベルを上げきったから、だよな。……まさか、スキルレベルを上げればそれに関連した新しいスキルが出てくるのか?)


 可能性はゼロじゃない。現に今、こうして解析のレベルを上げたことで新たなスキルが出現しているのだ。



(……それにしても解析妨害か)



 心で呟き、明は画面を見つめた。

 以前に一度、奈緒から自分を解析されないよう注意されていたことを明は思い出す。

 それは、解析を使われることで明自身の実力が簡単に露呈し、新たな厄介事を呼ぶ可能性があるというものだった。

 解析は現状、誰もが簡単に取得できるもので、防ぐことの出来ないものだ。

 しかし、だからといって。今さらステータスを見られたところで、何かがあるとは思えない。厄介事があるとすれば、軽部のように積極的にボスモンスターを倒して欲しいとお願いされるだけのことだろう。


(解析されれば、俺に与えられた固有スキル――『黄泉帰り』を知られるっていうデメリットもあるけど……。そもそも、クエストやシナリオなんかが無ければ、みんなレベルアップでしかポイントを取得することが出来ないんだし、解析のレベル上げにまでポイントを回してる余裕なんか今はないはずだ。もちろん、どこかには解析のレベルを上げてる人がいるのかもしれないけど……。これからすぐに会うのかも分からないし、()()()()を考えだしたらキリがないな…………)


 明は、心の中でそう呟いた。


(……それに。俺が戦っているところを見られれば、ステータスを隠していたところで意味が無いだろうしなぁ)


 今や、ステータス上での筋力は200に近い。試してはいないが、全力で殴ればコンクリートだって簡単に砕ける自信が今の明にはあった。速度にしたってそうだ。戦闘中、常人には目にも止まらぬ速度となっているであろう今の自分が、特別じゃないなんて言ったところで誰も信じてはくれないだろう。



(ひとまず、今は置いとくか。あとでまた、ポイントに余裕が出来た時にでもまた、考えよう)



 ため息を吐き出し、明は解析妨害を取得することを止めた。

 それから唸るようにスキル一覧を見つめた明は、さんざん考え込んだ後にある一つのスキルを取得することに決めた。


(よし、これにしよう)


 呟き、ポイントを3つ消費する。軽い鈴の音が聞こえて、明の眼前には取得を示す画面が表示された。



 ――――鑑定。



 それが、明が悩んだ末に取得したスキル名だった。



(これがあれば、ミノタウロスの斧やオークの鉄剣に〝攻撃力〟があるのかどうか分かるはず)



 モンスター相手では役には立たない現実の道具や武器。それらの耐久性の低さは、これまで散々悩まされてきた。その悩みが解消されたのも、ミノタウロスが使っていた斧を手にしたからだ。凄まじい切れ味を誇るこの斧に、何かしらのダメージボーナスが生じているのではないかと明は以前から考えていた。


(それじゃあ、さっそく。『鑑定』っと)


 明は取得した鑑定を、さっそく自身の戦斧へと向けて使用した。




 ――――――――――――――――――

 猛牛の手斧

 ・状態:不完全

 ・装備推奨 ―― 筋力値80以上

 ――――――――――――――――――

 詳細情報:レベル不足のため表示出来ません

 ――――――――――――――――――

 装備効果:レベル不足のため表示出来ません

 ――――――――――――――――――




 どうやら、ミノタウロスが所持していた斧の正式名称は〝猛牛の手斧〟というらしい。


(そりゃあ、アイツからすれば手斧ぐらいのサイズかもしれないけど……)


 判明した斧の名前に、明は心で声を漏らす。それから、眉根に小さな皺を寄せると、考え込むようにその画面を見つめた。


(不完全? どういうことだ? 出来が悪いってことなのか?)


 パッとした見た目では、何が悪いのかが分からない。

 素人目では、出来のしっかりとした斧だ。これまで何度も使ってきたが、その使い心地は悪くは無かった。



(……まあ、不完全でも今の俺には十分だな)


 そう考えた明は、思考を切り替えて改めて画面へと目を向ける。



(にしても、装備推奨が筋力値80以上か……。ミノタウロスと戦った時、俺の筋力は77だったから推奨外で持ってたってことだよな)



 その結果として、全身の筋肉がズタズタになったのは言うまでもない。今さらながらにその理由を理解して、明は深い息を吐き出した。


(ひとまず、鑑定のレベルも上げるか)


 Lv1では欲しい情報が得られない。

 明はポイントを消費して鑑定のレベルを上げていく。そうすると、解析と同じくスキルレベル3になったところで次のレベルアップに必要なポイント消費がなくなった。



(解析と同じく、鑑定も最大レベルに上げるまでに必要なポイントはたった15。やっぱり、取得ポイントが3だったスキルは、初めに取るように推奨されていた可能性が高いな)



 明は心でそう言葉を漏らすと、もう一度、鑑定を猛牛の手斧へと使用した。




 ――――――――――――――――――

 猛牛の手斧

 ・状態:不完全

 ・装備推奨 ―― 筋力値80以上

 ――――――――――――――――――

 ・魔素含有量:3%

 ・追加された特殊効果なし。

 ――――――――――――――――――

 ・攻撃力+75

 ・耐久値:37

 ・ダメージボーナスの発生:なし

 ――――――――――――――――――




 ――――思った通りだ。武器に攻撃力が存在している!


 その事実に、明は小さな笑みを浮かべた。

 しかし、その笑みはすぐに消えて口元は固く結ばれる。画面に表示されていた斧の攻撃力が、思っていた数値よりも少なかったからだ。

 おそらくは『不完全』であることが影響しているのだろう。想像していたよりも少ないその値に、明は思わずがっくりと肩を落とす。


(そして、また〝魔素〟か)


 解析と同じように、表示されたその文字。元はモンスターが使っていた武器ということも関係しているのか、猛牛の手斧に含まれる魔素の値は3%となっていた。


(鉄剣はどうだ?)


 心で呟き、明はオークの鉄剣へと鑑定を発動させた。




 ――――――――――――――――――

 豚頭鬼の鉄剣

 ・状態:不完全

 ・装備推奨 ―― 筋力値60以上

 ――――――――――――――――――

 ・魔素含有量:2%

 ・追加された特殊効果なし。

 ――――――――――――――――――

 ・攻撃力+53

 ・耐久値:29

 ・ダメージボーナスの発生:なし

 ――――――――――――――――――




(……こっちは、魔素2%か。やっぱり、格上であるミノタウロスが持っていた物だから、鉄剣よりも斧の方が魔素ってやつの量は多いのか? 耐久も攻撃力も、斧の方が断然いいな)


 明は難しい顔でそんなことを考えると、ふと何かを思い立ったように立ち上がると、部屋の中を漁り始めた。

 奈緒はそんな明の様子に驚いた表情を見せると、手にしたタバコを携帯灰皿へと仕舞いながら声を上げた。



「どうした? 何を探してるんだ?」

「いえ、実は鑑定を取得したんですが……。前に、武器ごとに攻撃力や耐久値があるんじゃないかって話をしたのを、覚えてますか?」

「ああ……。そう言えば、そんな話もしたな」

「それで、実際に鑑定を使ってみたんですけど……。思っていた通り、武器ごとに攻撃力や耐久値があったんですよ」

「本当に? だとしたら、いろいろと試したいな。武器ごとに攻撃力が違うなら、なおさらだ」

「ええ。だから、まずは現実の物とモンスターの武器がどれだけ違うのか確認しようと思ったんですが……」

「なるほど。それなら、これを使うといい。私の自前の物で恐縮だが、趣味のアウトドアで使っていたナイフだ。まだモンスターを相手に使っていないから、刃毀れもしていない。十分に戦闘で使える代物だぞ」

「ああ、すみません。ありがとう――――」


 と、言葉を口にしたところで明は動きを止める。

 奈緒との会話に、自然と混じってきたその声に聞き覚えがなかったからだ。


「ッ!?」


 勢いよく、明は背後を振り返った。

 すると、いつからそこに居たのだろうか。

 明と奈緒の間、ちょうど距離にして中間に位置するその場所に、一人の男が壁に背中を預けるようにして立っていた。



明日の投稿は夜になるかもです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] (解析と同じく、鑑定も最大レベルに上げるまでに必要なレベルは15。やっぱり、ポイント3つで取得できるスキルは最初から推奨されていた可能性が高いな) 取得ポイントと合わせて18必要なの…
[良い点] 戦士に魔法使いに斥候?と冒険者パーティー染みてきてワクワクしてきました! あとメイン盾とヒーラーが欲しいですね! [一言] 毎日楽しみにしております! でも無理なさらず頑張ってください!
[気になる点] 状態が悪いじゃなくて不完全な辺り活性化みたいな機能ありそうだなぁ…それはそれとして最後の男は一体…?
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