解析Lv3
それから、話題は自然とウェアウルフ戦で獲得したポイントのこととなった。
奈緒は大量に獲得したポイントの使い道に悩んでいるようだった。
これまで、レベルアップでしかポイントの獲得手段がなかった彼女だ。急に与えられた膨大な選択肢の前に、どれから手を付けて良いのか途方に暮れているようにも見えた。
明は、自分のポイントの使い道を考える傍ら、そんな彼女の様子を見て思わず声を掛ける。
「……ひとまず、自動再生でも取っておいた方がいいんじゃないですか? 初期取得ポイントは7で、スキルの効果を考えれば割と破格だと思いますし、シナリオで貰った固有スキルは、戦闘の意思がある限り死なないものですけど傷を癒すものじゃない。今も右腕が折れてるんだし、傷を治すスキルは必要だと思いますけど」
「うーん……。まあ、確かにそうだな。……よしっ、自動再生はひとまず取るか」
そう言って、奈緒は止まっていた手を動かした。
無事に自動再生を取得したようで、再び奈緒は残ったポイントの使い方を考え始める。
そんな奈緒から明は視線を切ると、眼前に広がる取得できるスキルの一覧へと目を向けた。
(ウェアウルフ戦を終えて、現在の保有ポイントは62。スキルのレベルアップをしようと思えば出来るが、あまり十分とは言えないな。……身体強化のスキルレベルを上げるために必要なポイントは……40か)
当たり前だが、スキルのレベルアップをしていけばいくほど、要求されるポイント数は多くなっている。その分、スキルによって得られる恩恵は大きいのだが、新たなスキルを取得する機会は減ってしまう。
(取得可能なスキルの中で気になるのは、ポイントを50消費して取得できる『命の覚醒』ってスキルかな。スキルレベル×50%分の数値が、このスキルを取得した時点のステータス値に加算されるってものだけど、元のステータスを参照にパーセントで上昇するのはかなり嬉しい。育てていけば、かなりの効果が期待できそうだ)
しかし、問題はスキル取得で消費するポイントの多さだ。
おそらくは、限りなく高いステータスとなった末に取得をすることで、大きな効果を発揮する代物だろう。これまで、幾度となくレベルアップを繰り返してきたが、この世界に現れたモンスターの強さから見ればまだまだ油断は出来ない。
今、この場でこのスキルを取得するよりも、今持っているスキルのレベルアップへとポイントを回したほうが良さそうな気もする。
「うー……ん」
レベルアップか、新規スキルの取得か。
そのことについて考え込んだ明は、やがて一つの結論を出した。
「……よし。とりあえず、魔力回復のスキルレベルを上げよう」
これまでに分かったことだが、魔力回復Lv1では魔力値を1つ回復させるのだけでも一日が必要だ。
ウェアウルフ戦で消費した魔力値は5つ。戦闘の途中でポイントを消費して魔力値を伸ばしているだけに、実際に消費した魔力はそれよりも多いだろう。
一体のボスを倒して、すべての魔力を回復させるために数日を要しているようでは、あっという間にモンスターの強化が行われてしまう。これでは、いくらボスを倒して世界反転率を低下させたとしても、稼いだ時間を次に活かすことが出来ない。
(魔力回復が次のレベルになるために必要なポイントは20だし、まだそこまで多くない。ひとまずLv2にしておくか)
心で呟きながら、明は魔力回復のスキルレベルを上げた。表示された画面を手で払い消すと、残りのポイントをどう使うかまた思考を巡らせる。
(そう言えば、ウェアウルフがスキルのような力を使ってきたんだよな……)
これまでの戦いでは見られなかった、モンスターによるスキルの使用。
今回はどうにかなったが、今後も同じように対応できるとは限らない。下手をすれば、ボスを倒すためにまず、死に戻りながらそのボスが所持するスキルを把握する――なんてことになりかねない。
(……解析のレベルを上げれば、アイツの持っていたスキルも見ることが出来たのか?)
事前にボスの所持するスキルを知ることさえ出来れば、ボスとの戦いの最中にスキルを使われても慌てることなく対応することが出来る。
そんなことを、明は考えた。
「…………上げるか」
少しばかり悩んで、明は解析のレベルを上げることに決めた。
解析Lv2にするために必要なポイント消費は5だ。無事にスキルレベルを上げると、次のレベルアップに必要なポイント消費は10になった。
(……他のスキルと比べると、解析はスキルレベルが上げやすいな)
明はさらにポイントを消費して、解析のレベルを上げる。
「……ん?」
すると、ふいに明の口から声が漏れた。それ以上のスキルレベルアップを示すポイント数が、スキルの詳細画面から消えたからだ。
(まさか、スキルレベルの上限になった?)
可能性として考えられるのはそれだろう。
明は詳細画面を手で払って消すと、ようやくポイントの消費を終えたのか、満足そうに息を吐き出していた奈緒へとその視線を向けた。
(ひとまず、これで相手のスキルが見られるようになったのか、お試しってことで……。『解析』)
心で呟き、明は奈緒のステータス画面を表示させる。
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七瀬 奈緒 27歳 女 Lv40
体力:42
筋力:83
耐久:81
速度:82
魔力:114
幸運:42
ポイント:0
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個体情報
・現界の人族。
・体内魔素率:0%
・体内における魔素結晶なし。
・体外における魔素結晶なし。
・身体状況:裂傷部位あり【額】、骨折部位あり【右腕】、打撲部位あり【右肩】【左腕】【両下肢】【腰部】
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所持スキル
・不滅の聖火
・身体強化Lv2
・魔力回路Lv2
・自動再生Lv2
・初級魔法Lv3
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これまでは見られなかったその項目が表示されて、明は解析相手の所持しているスキルが確かに見られることを確認する。同時に、その画面に表示された〝魔素〟という見慣れない言葉に、明は微かに眉根を寄せた。
(魔素? 初めて見る単語だな……。単純に言葉の意味を考えれば、魔力の素ってことだと思うけど……。俺たち人間には元々魔力なんてものがないから、この魔素とやらも無いってことで良いのか?)
〝結晶〟という言葉の意味は気になるが、〝0%〟や〝なし〟という言葉を見るに、今のところ何の問題もないのだろう。
そんなことを考えた明は、思考を切り替えると改めて奈緒のステータス画面へと目を向けた。
(ふむ……。自動再生を取得して、所持スキル全てのレベルを上げたって感じかな)
どうやら、奈緒は現状のまま後衛から魔法を放つ方向にしたようだ。
さらには、取得したポイントの多くを魔力値に注ぎ込んだようで、その値は三桁に突入していた。
(魔力値100越えか……。ただでさえ魔法の威力は大きかったけど、ここまで魔力を上げるといったいどうなるんだ?)
思わず、明はそんなことを考える。
これまで、奈緒の使用していた魔法はショックアローという衝撃を与える魔法だけだった。その威力は、少ない魔力でも十分と思えるほどに凄まじいものだっただけに、ここまで魔力が上昇した魔法の威力は想像もつかない。
更に初級魔法のレベルを上げたことで奈緒は新しい魔法を使えるようになっているだろう。
それが一体どんな魔法で、どんな威力をもたらすのか。
明は、この魔力値で放たれる未知の魔法を想像して、思わず身体をぶるりと震わせた。




