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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
二章

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84/351

D級クエスト:オーク

 


 ――二十八度目。


 目を覚ました明は、既知のイベントをすべて終えて病院を後にした。

 奈緒には、会わなかった。

 いや、会えなかったといった方が正しいのかもしれない。

 どうしようも無いこととはいえ、死に戻ることによって奈緒は、強制的に戦場へと引っ張り出されてしまう。それが彼女のトラウマを引き起こす原因になることが、明には分かっていた。

 彼女にとって辛いことをしていると自覚があったからこそ、明は奈緒に合わせる顔がなかった。


 インベントリによって手元に戻って来た斧を手にして、明は街中を進む。

 そうして、まっすぐに隣街へと足を進めて、明は単独で行動するそのモンスターと遭遇した。


 ――チリン。




 ――――――――――――――――――


 前回、敗北したモンスターです。

 クエストが発生します。


 ――――――――――――――――――


 Ⅾ級クエスト:オーク が開始されます。

 クエストクリア条件は、オークの撃破です。


 ――――――――――――――――――


 オークの撃破数 0/50


 ――――――――――――――――――




 表示された画面に、明は息を吐き出した。



(やっぱり、そうだ。間違いない。そもそも、このクエストが〝わざと〟負けた相手には発生しないんだったら、ミノタウロスを相手に初めからクエストが発生していたことがおかしいんだ。自殺なんて手段でクエストの発生の有無が変わるんだったら、あの繰り返しの中でミノタウロスのクエストなんて発生するはずがない。だって、あの時の俺は……。逃げることに必死で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺が、アイツに立ち向かおうと決めたのは、奈緒さんに言われたあの瞬間からだ。――――戦う意思がクエスト発生に関わるなら、ミノタウロスのクエストなんて、初めから発生しているはずがない)



 では、なぜあの繰り返しの最中、ブラックウルフを相手に自殺を選んだ際にはクエストが発生しなかったのか。

 その答えは、このクエストが発生したことで明らかになった。



(……ブラックウルフが、あの時点で俺よりも格下だったから、だな。思えば、クエストが発生したタイミングはいつも、俺と同格かもしくは格上のモンスターに殺された時だった。このクエストは、自分より格下相手には発生しない。だから、あの時点でブラックウルフよりもレベルもステータスも高かった俺は、クエスト発生の条件を満たせなかった)



 クエストというよりはこれは、一条明に与えられる試練と言ったほうが分かりやすいのかもしれない。

 死ぬことを契機として、その時に殺された相手が同格か格上ならばクエストが発生し、仮に格下ならばお前が悪いとばかりにクエストは発生せず無駄に死に戻る。



 これは、そういうシステムなのだ。



(気になるのは、モンスターが強化されていくことで、現段階では格下のモンスターを相手にしてもいずれクエストが発生するのかだが……。まあ、それは今は置いておこう。ひとまず、クエストが発生して良かった。半ば賭けのようなものだったからな。これでクエストが発生しなければ、まあ、ただレベリングを行うだけだったが……。これで、地力を底上げするのももっと楽になる)



 心で呟き、明は表示された画面を見つめた。

 そして、そこに表示されたD級の文字を見つめて、息を吐き出した。



(……D級か。C級のミノタウロスをクリアした時に貰ったポイントが50だったから、D級ならそれ以下だろうな。……まあ、いい。それでも十分だ)



 気を取り直して、明は戦斧を構える。


 そうして、敵意を向けてくるオークへとその視線を向けると、静かに全身へと力を溜め込み、一気にその力を解放するように足を踏み出した。



「ッ、らァ!!」



 地面を滑るように駆け抜けて、オークの眼前へと迫った明はその手に持つ戦斧を振るう。

 オークは、明の斧に向けて鉄剣を合わせると、その刃を真っ向から受け止めた。


 ――キィイイン、と。


 甲高い金属同士がぶつかり合う高い音が周囲に響き渡る。同時に爆ぜた火花を目にした明は、その口元に小さな笑みを浮かべた。



「ミノタウロスの斧でも十分だけど、その剣も良いな。ぜひ、サブの武器用に欲しいところ、だ!!」



 叫び、明は地面を蹴ってその場を離れると、再びオークに向けて突撃する。

 オークも、駆けてくる明に狙いを定めて手にした鉄剣を振るうが、明の方が僅かに速い。

 明は、眼前に迫る鉄剣を寸でのところで躱すとオークの懐へと入り込んで手にした戦斧を振るい、オークの身体を引き裂いた。


「ゴァッ!?」


 オークが悲鳴をあげて、痛みで身体が仰け反る。

 その隙を逃すことなく追撃。明は全身のバネを使い全力のローキックをオークの太腿へと叩き込んだ。

 肉を潰す確かな感触。

 その衝撃と痛みに、数瞬だがオークの動きが鈍り、確実な隙が生まれた。

 明は、もう一度斧を振るおうと腕に力を込めるが、対するオークもそう何度も攻撃を喰らうわけではない。



「ブォオオオ!!」



 オークは叫ぶような声をあげると、懐に入り込んだ明を捉えようと掴みかかってくる。

 明はその行動に舌打ちをすると、オークの腕にむけて拳をうちつけると、背後へと向けて跳び退った。



「……さすが、同格だな。簡単には倒せないか」



 こめかみから頬を伝って流れる汗を拭って、明は息を吐き出した。

 これまで、ブラックウルフやゴブリン、ボアやグレイウルフなどといったいわゆる雑魚を相手にしていただけに、こうして全力で向き合っても倒せない相手だというのは久々だった。


「ふー…………」


 気持ちを切り替えるように、明は頭の中で、ミノタウロスとの戦いを思い出す。

 あの時の動きを、あの時の集中を、あの時の感情を。

 その全てを改めて引き出すように、明は自らの記憶を想起すると、手にした戦斧を腰だめに構え、真っ直ぐにオークを見据えた。



「けど、それだけ……。テメェを倒せば、俺のレベルが上がるってことだ」



 言って、明は乾いた唇を舐める。

 それから、両足に再度力を溜め込むと、一気に地面を蹴って飛び出した。


「ふっ!」


 息を吐き出すと同時に、腕に力を込めて斧を振るう。

 刃は真っすぐにオークの喉元へと迫るが、オークはその軌道を予想していたのか、すかさず身を引いてその刃を躱した。



「ブモォオオオオオオオ!!」



 体勢を戻したオークは鉄剣を振るった。

 明は、身を捻るようにして鉄剣を躱すと、伸び切った腕に向けて拳を叩きつける。


「ッ、ォオ!!」


 その衝撃に、オークの鉄剣を握る手が緩んだ。

 すかさず明はその手に向けて蹴りを放つと、オークの鉄剣を遠ざけた。


「ぁあッ!!」


 叫び、明は腰を捻った。

 繰り出したハイキックはオークの顎を正確に捉え、その脳を揺らした。

 ぐるりと、オークの瞳が白目を剥く。

 脳震盪により、気絶したのだろう。

 明確に出来たその隙に、明は手に持つ斧をくるりと回して構えると、深く息を吐き出した。



「終わりだ」



 呟き、明は腕を振るう。

 刃はまっすぐにオークの太い首へと迫り、その肉と骨を引き裂いて、その命を絶ち切った。





 ――――――――――――――――――


 レベルアップしました。

 レベルアップしました。

 レベルアップしました。

 ……………………

 …………

 ……


 ポイントを5つ獲得しました。

 消費されていない獲得ポイントがあります。

 獲得ポイントを振り分けてください。


 ――――――――――――――――――


 D級クエスト:オークが進行中。

 討伐オーク数:1/50


 ――――――――――――――――――




 その巨大な身体が倒れ、眼前に表示される大量のレベルアップ。

 同時に表示されるクエスト進行に、明は大きな息を吐き出す。



「モンスターの強化が起きて、オークとのレベル差があったおかげでレベルアップが早いな」



 本来ならば今のレベル帯でオークを倒すことなんて不可能だっただろうが、ミノタウロスを討伐したことで得たポイントによって強化された身体強化によるステータスがあってこそ成し得たことだ。


 ――初めて、モンスターの強化による恩恵をまともに受けたかもしれない。


 そんなことを思いながらも、明は手にした戦斧に付いた血糊を払うようにして画面を消した。



「次だ……」



 息を整えて、オークが落とした鉄剣を拾うと、明は歩き出す。

 それから、次の獲物を見つけるのは、そう時間は掛からなかった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 42、43あたりでオークやギガントに殺されてるのにもかかわらずクエストが発生していない。
[良い点] 数あるループ物を読んできたから分かる。こういうルートの進み方したルーパーは必ず録な目に遭わないワクワク [気になる点] バディが復活するか否か
[一言] 次だ… 次をよこせ…!!
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