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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
二章

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83/351

自死の謝罪


 

 斧を携えて、明はウェアウルフとは反対の方向へとまず逃げて、十分な距離を取った。

 もしも気付かれていれば、まず間違いなく殺されていただろうが、双眼鏡を用いて遠目からその姿を確認したことが功を奏したのだろう。

 無事、明はウェアウルフが現れたその場所から逃げ延びることが出来た。


「…………さて、と。問題はここからだ」


 呟き、明は足をオークが支配する隣街へと向ける。

 道中に現れるモンスターその全てを経験値へと変えて。そして、明はその街へと足を踏み込んだ。


「…………」


 慎重に、街の中を進んでいく。

 他の街とは違って、この街に出現したモンスターはボスを除けば一種類のみだ。ボスも、この街に出現したモンスターの上位種と思われる、ハイ・オークというモンスターだったことを、明は鮮明に覚えていた。

 この数日の間に、オークが暴れたのだろう。ヒビ割れた舗装路や折れた電柱、穴の空いた家屋や破壊された車両などを横目に明は街中を進んで、ようやく、そのモンスターを発見した。


 住宅街の中に建つ一軒家。


 その家屋を荒し、半ば倒壊させて、そこに隠れていた()()を貪り喰らうその二匹のモンスターは間違いない。オークだ。

 よほど腹が減っているのか、互いに奪い合うようにして口元を真っ赤に汚すその姿は、いくらこの世界を繰り返そうが見ていて気持ちの良いものではなかった。

 明は眉間に深い皺を刻み込むと、ヒクつく胃を抑え込むようにゆっくりと息を吐き出した。



(……さっさと済ませよう。こいつらの強化後のレベルはどうだ?)



 心で呟き、明は解析を発動させる。




 ――――――――――――――――――

 オーク Lv59


 体力:131

 筋力:157

 耐久:174

 速度:147

 魔力:50

 幸運:40

 ――――――――――――――――――

 個体情報:レベル不足のため表示出来ません

 ――――――――――――――――――

 所持スキル:レベル不足のため表示出来ません

 ――――――――――――――――――




(……ふむ。だいたい、今の俺と同じぐらいか。レベリングするにはちょうどいい相手だな)


 明は、オークのステータスを見て口元を綻ばせた。

 それから、意を決するように生唾を飲み込み、拳を固めると、そっと物陰から姿を現して、注意を引くように声を張り上げた。



「おい、豚ども!!」



 その声に、オークたちの手がピタリと止まる。

 それから振り返ったオークたちは、まさか自分たちにわざわざ声を掛けてくる人間が居るとは思わなかったのか、明の姿を見つけるとキョトンとした顔になった。

 かと思えば、オークたちはすぐに醜悪な笑みを浮かべて、聞き覚えのない言葉を明に向けて吐き出す。


「――。――、――――!!」


 何を言われたのかは分からなかった。

 だが、好意的な言葉ではなかったことはすぐに分かった。

 一匹のオークが口にしたその言葉に、仲間のオークがゲラゲラとした笑みを浮かべる。

 それから、オークたちは傍に置いていた鉄剣を手に取ると、ゆっくりと明の前へと歩み寄って来た。


「――――!!」


 オークは、さらに何かを言った。

 だが、やはりと言うべきかその言葉は分からない。

 だから明は、小さく鼻を鳴らして侮蔑の笑みを浮かべると、オークを睨み付けた。



「俺は、豚の言葉は分かんねぇんだよ」



 明が吐き出した言葉の意味は、オークたちには伝わらなかったはずだ。

 それでも、明が自分たちを馬鹿にしたことは伝わったのだろう。

 オークたちは空に響くような怒りの声を上げると、その手に持つ鉄剣を振り上げる。

 明は、その鉄剣へと視線を向けると、逃げることも迎え撃つこともせず、ごく自然にその身体を預けた。



「ブォオオオオオオオ!!」


 オークの咆哮と共に振るわれたその鉄剣は、明の腹を斬り裂いた。



「ッ、ァ!!」



 全身を襲う激痛に、明の口から声が漏れ出る。

 だが、一撃で死ぬことはない。以前とは違って強靭な肉体となったその身体は、鉄剣で斬り裂かれながらも身体を両断されるまでには至らず、肉を斬られるまでに留まっている。

 加えて、自動再生を取得していることが影響しているのだろう。

 普通ならば身動きすることも出来ないはずのその攻撃を受けてもなお、明は口元に笑みを浮かべる余裕すらあった。



(……身体強化のレベルを上げたのは失敗だったな。これじゃあ、死にたい時にすぐ死ぬことも出来ない)



 だが、そう思ったところでもう、どうすることもできない。

 明は小さく息を吐き出すと、その手に持っていた戦斧をオークたちに向けて放り投げると、笑いながら言った。



「そんなナマクラじゃ、人を殺すことも大変だろ? その斧、貸してやるよ。切れ味だけは保証するぜ?」



 その言動に、オークたちは戸惑っているようだった。

 まさか、この世界で自分達に斬られても死なないヤツが居るとは。さらには、手持ちの武器を渡してくる。

 そんな人間に出会ったことがないと、そう言いたそうな表情をしていた。

 明は、そんなオークたちに向けて冷ややかな笑みを浮かべると、さらに言葉を発した。


「いいから、殺せよ。テメェらが俺を殺せるのも、今だけだ。次は無いんだからな」


 その言葉の意味を、オークたちは理解出来なかった。

 だが、殺せと言うのならばその願い通りに殺してやろう。

 そう言いたげな表情をしてオークたちは笑みを浮かべると、明の放り投げた斧を手に持ち吼えた。



「ブォオオオオオオオォオオオオ!!」



 斧を持ったオークが大きく振りかぶり、今度こそと明に向けて振り下ろす。

 その軌跡を見つめながら、明は心の中で奈緒に向けて謝罪の言葉を口にした。



(……すみません、奈緒さん。これから、少しの間だけ……耐えてください)



 そして、一条明は。

 オークが手にしたミノタウロスの戦斧によって、頭蓋を割られて一撃の元に絶命した。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公が以前わざと負けたときはクエスト発生しないって判断してたけどどうなるんだろう…。
[一言] なんでレベリングせずにわざわざ死ぬのかな?って疑問に思ってて感想見たらクエスト発生させる為? でもわざと負けた時はクエスト発生しないって以前書いてあったので違うのでは… 確かカニバルプラント…
[一言] 正直あんまり面白くは無かった
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