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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
二章

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特別な力

 


 軽部は、床に置かれた戦斧へと感情の読めない視線を向けると、すぐに明へとその瞳を向けて、小さく頭を下げてくる。


「私、陸上自衛隊の幹部自衛官をしている軽部稔という者です。目が覚めたと聞いたので、一条さんにご挨拶へと参りました」


 その言葉に、明は小さく頷いた。

 それから明は、彼の語る言葉に耳を傾けていく。内容は、これまで聞いたものと変わりがなく、目新しさは何もない。

 明は、それらの言葉を半ば聞き流していたが、その中でふと、気になる言葉を聞いた。



「一条明という人は、我々にはない特別な力をきっと持っている。それを確信したのは、あなたが目覚める少し前のことです」

「……どういうこと、ですか?」



 それまで、適当な相槌を返していた明は、聞き覚えの無いその言葉に思わず聞き返した。

 すると軽部は、視線を動かすと呟くように言った。



「アレは、あなたの力ではないのですか?」



 軽部が視線を送った先にあったのは、床に置かれた戦斧だった。

 軽部はその斧を見つめながら言葉を続ける。


「我々が気付いた時にはもうすでに、この斧はこの病室に運ばれていました。いや、置かれていたと言ってもいい。身体強化を取得した、大の大人が四人集まってようやく持ち上がるかという代物です。その大きさも、大人の男性ほどはある。この斧を、誰にも知られることなくここまで運ぶのは、不可能と言っていいでしょう」


 そう言って、軽部は言葉を区切ると明へと視線を戻した。

 そして、じっと明の目を見つめると、溜め込んだ言葉を吐き出す。



「……これは、あなたが倒したミノタウロスの斧です。違いますか?」



 その言葉に、明は小さな息を吐き出した。



(……やっぱり、そうなるよな)



 ミノタウロスの死体が消える前に、その死体へと解析をしていた自衛隊ならば、その斧が傍に落ちていたことを確認しているはずだ。

 にも関わらず、その住宅街で目にした斧がいつの間にか病室の中に存在している。

 その事実に、彼ら自衛隊が疑問を持たないはずがなかった。

 結果としてそれは、一条明という男が持つ力の影響だと結論付ける材料になりうるだろう。


(仕方ない、か)


 当初の予定通り、明は黄泉帰りを繰り返していることを告げることに決めた。

 明が真剣な表情となったことで、軽部もまた、何か重要なことを話そうとしていることを察したのだろう。

 自然と背筋を伸ばす彼を見ながら、明はゆっくりと言葉を口にする。


「俺の力……。と、言えばまあ、そうですね。確かにソレは、俺の力による影響が大きいです。…………軽部さんは、タイムリープという言葉を知っていますか?」

「タイムリープ、ですか。そのあたりのSFの話題はあまり詳しくはないですが、人並みには」


 その言葉に、明はひとつ頷き、軽部に語り聞かせる。

 自身の持つ力を。幾度となくこの世界を繰り返していることを。その結果、あのミノタウロスを倒してここに居ることも。

 ミノタウロスの斧が今、自身の傍にあることはその力による影響だということを伝えた時、軽部は「やはり」と言って大きな息を吐き出した。その表情はまるで、長年溜め込んできた疑問が解消されたかのように晴ればれとしたものだった。


「それじゃあ、あなたが今、レベル1だということも?」

「まあ、その力による影響が大きいですね」


 明は軽部の言葉に頷いた。

 なるほど、と軽部は小さく頷く。それから少しだけ考え込むと、明へと質問を一つ繰り出した。


「これから、この世界はどうなるのか……。あなたは知っていますか?」

「…………それはまだ、俺にも分かりません。ですが、このままだといずれ、この世界が滅ぶことはまず間違いないでしょうね」


 その言葉に、軽部は深いため息を吐き出した。


「ええ、ですからまずは……。ボスを倒すことで世界反転率とやらの進行を抑えなきゃいけない。そしてそれが出来るのは、現時点では……一条さんしかいません」


 その言葉に、明は小さな頷きを返す。

 それから軽部が語った言葉は、以前にも聞いた内容だった。

 その全ての内容を聞き終えた明は、今度は逆に、これまで気になっていたことを軽部へと問いかけることにした。



「……すみません。ひとつ、教えていただきたいことがあるんですが」

「はい、何でしょうか」

「この病院に、七瀬奈緒という女性が居たはずです。彼女は今、どちらに居ますか?」


 その言葉に、軽部は目を見開いた。

 それから、一度口を開きかけるもすぐに閉じて、やがて考え込むような表情となると何かに気が付いたような表情となって、明を見つめた。


「なぜ、彼女のことを目覚めたばかりの一条さんが知っているのかと思いましたが……。一条さんは、この世界を繰り返しているのでしたね。それなら、七瀬さんがココに居ることも知っていて当然、ですか」


 呟き、軽部は言葉を止める。



 それから、長い空白の後にゆっくりとその言葉を吐き出した。



「…………七瀬さんは、今、眠っています」

「寝ている?」

「はい。一条さんが目覚める直前のことです。我々はキラービーを相手に戦っていたのですが、その最中に突然、七瀬さんは……声をあげて錯乱状態となってしまいました。モンスターの姿を見れば泣き叫ぶ状態でしたので、今は……薬を飲んで、眠っていただきました」

「…………ッ」



 その言葉に、明は声が出なかった。

 七瀬奈緒という女性の身に起きたその出来事の原因を、この世界でただ一人、知っていたからだ。

 ふいに、強烈な眩暈に襲われた。

 胃がぎゅっと締まる感覚と共に、キリキリとした痛みが襲ってくる。

 急速に視界の色が失われていくのを感じて、音さえも遠く消え行くのを感じた。


『一条さん?』


 と、音のない世界で、心配そうに明を見つめる軽部が、そう言ったような気がした。



 失われた色と聴覚は、やがてゆっくりと明の元へと戻ってくる。

 身体を襲っていた眩暈も、胃の痛みもやがて消え去り、そして一条明の中に残されたのは、自分自身に向けた怒りと、激しい自己嫌悪だけだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 死に戻り適正がないと、早期に心が折れる。 死に戻り適正があっても、一人ならどこかで心が折れる。 なんという心折設計(ωー
[気になる点] 奈緒さんシナリオのフラグが折れた? [一言] 嬲り殺しループよりは良いのですかね?なかなか茨の道ですね。
2021/10/21 01:21 退会済み
管理
[一言] 主人公と違って奈緒は再スタート位置も大変だよね。 戦闘中にいきなり戻されるわけだし。 とはいっても、奈緒が発狂しても部隊が生き残れる程度ぽいから、そこは何とかなるのか? 次は奈緒を慰める…
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