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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
二章

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モンスタートレイン



「これで終わり、だッ!」


 叫び、最後の一匹であるグレイウルフに向けて刃を振るい、その首を落とした。

 そうして、無事に全ての狼を屍へと変えると、明は大きく安堵の息を吐き出す。


(なんとか無事、切り抜けることが出来たな。ミノタウロスの斧があったおかげで、戦闘もあっという間だった)


 これだけの数のモンスターを相手にしても壊れる様子すらない。

 間違いなく、現状で手にすることが出来る武器では一番まともと言える代物だろう。



(これがあれば、強化されたボスを相手でも楽に勝てるんじゃないか?)



 そんなことを考えながら、明は手にした斧を振るって、その刃に残る血糊を払う。

 そうしていると、後ろに下がっていた奈緒が様子を窺うようにして近づいてきた。



「平気か?」

「大丈夫です。奈緒さんは?」

「私も無事だ」


 こくり、と奈緒は小さく頷いた。

 それからちらりと、明の手にした斧へとその視線を向ける。


「それにしても、凄まじい切れ味だな。ブラックウルフがまるでバターみたいだった」

「ええ、俺自身も、使っていてビックリしました。さすが、ミノタウロスが使っていた武器です。既存の、現実にあるどの武器とも違う。武器そのものにダメージボーナスが発生しているみたいでした」

「ダメージボーナスか……。ゲームとかだと、武器ごとに攻撃力が設定されていたりするが、モンスターの武器にもそういうのがあるのか?」

「どうでしょう? ありそうな気もしますが」


 言われて、明は考えた。

 もしも本当に、武器ごとに攻撃力が設定されているのだとすれば、モンスターのステータスを解析出来たように、何かしらのスキルでそれも確認出来そうなものだ。



「――――ぁ。なるほど、それが鑑定か」


 そしてふと、明はそのスキルの存在を思い出した。



「鑑定? どうしたんだ、急に」


 その言葉に、奈緒が首を傾げた。

 明は、奈緒へと視線を向けると口を開く。


「いえ、武器ごとの攻撃力があるなら、それを見ることが出来ないかなと考えていたんですが……。もしも、それを見ることが出来るなら『鑑定』のスキル以外に方法はないだろうな、と」

「鑑定か……。生物以外の情報を見ることが出来るスキルだったっけ? そう言えば、前に一度、自衛隊の誰かが鑑定スキルを持っているって聞いたことがあるな」


 記憶を遡るように、奈緒が視線を彷徨わせながら言った。


「それじゃあ、その人に頼めば、武器ごとに違う攻撃力を見ることも?」

「出来た、だろうな」


 含みのある言い方だった。

 明は微かに眉を顰めて言い返す。


「出来た? 過去形ですか?」

「ああ。その人はもう……亡くなったよ」


 静かに、奈緒はそう呟いた。

 明は、その言葉に一度開いた口を閉じると、ゆっくりと息を吐き出して言葉を返した。



「そう、ですか……。他に、鑑定スキルを持っている人を知っていますか?」



 その言葉に、奈緒は小さく首を横に振る。

 明は、また「そうですか……」と呟くと、口を噤んだ。



(直接戦闘に役立ちそうにないスキルを、優先して取得する人は少ないだろうな……。黄泉帰りで過去に戻るってことを逆手にとって、あの病院に残る誰かしらに鑑定を取得してもらって、どこかの人生で見てもらうのもアリだけど……。わざわざ鑑定を取得するように説得するのも大変だしなぁ)



 明を除く人々にとって、ポイントを得る手段はレベルアップしかない。ゆえに、ポイントは貴重だ。

 そのポイントをわざわざ消費するよう頼みこんだとしても、首を縦に振る人はいないだろう。それでもしつこく言えば誰だって、そこまで言うなら自分で取得しろよ、とそう言うに決まっている。



(……ひとまず、またどこかで大量にポイントを獲得したら自分で取得することも考えよう)


 そう明は結論を出すと、話を変えるように奈緒へと声を掛けた。



「ひとまず、攻撃力のことは置いておいて。この武器が〝使える〟武器であることは間違いないですね。今みたいに群れで襲われれば俺が相手をしますから、奈緒さんは、レベリングに集中しましょう」

「分かった」


 こくり、と奈緒が頷き、明達は再び街の中を彷徨い出した。




           ◇ ◇ ◇




 明達が黙々と行っていたレベリングの手をようやく止めたのは、朝日が昇ってからしばらく経った頃だった。


「そろそろ、休憩しましょうか」

「やっとか……」


 それまで、幾度となく魔法を使っていた影響だろう。

 額に浮かぶ汗に、べったりと前髪を張り付かせていた奈緒は、汗を拭って髪を掻き上げると、大きな息を吐き出した。


「まさか、数時間もぶっ続けでモンスターを狩り続けるハメになるとは思わなかった」


 げっそりとした顔で奈緒は呟いた、

 その言葉に、明もまた、額に浮かんだ汗を拭って口を開く。


「適度に休憩は入れてたじゃないですか」

「それは、私が魔法の使い過ぎで動けなくなるからだろ!」


 怒りを込めた奈緒の視線から、明は目を逸らした。

 確かに、多少はスパルタだったかもしれない。

 しかし、そのレベリングだって明にしてはまだ序の口なのだ。これまで、酷い時には夜中から朝までぶっ続けでレベリングをしていただけに、明はそのあたりの感覚がどこかズレ始めていた。



「ま、まぁまぁ。でも、そのおかげで結構レベルが上がったでしょ?」

「そりゃ、まぁ……。そうだけど」


 奈緒は明の言葉に唇を尖らせた。



 この数時間、延々とモンスターを狩り続けていた結果、奈緒のレベルは23にまで上昇していた。

 レベリングの相手をカニバルプラント中心にしていたというのもあるが、その最中に幾度となく襲いかかってくる狼系のモンスターの相手を、明と共にしていたというのがやはり大きかった。

 しかし、このレベルアップ速度もここまでだ。

 街の中に蔓延るモンスターの中でも、一番レベルが高いブラックウルフとほぼ同じレベルになったことで、奈緒のレベルアップ速度は徐々に落ち始めている。

 にもかかわらず、ブラックウルフよりも劣るそのステータスは、グレイウルフ以上のモンスターと一人で対峙すれば、あっという間に死に瀕する可能性が十分にあった。



(俺のように、クエストなんかがあれば良いんだけど、奈緒さんにはそれがない。現状、身体強化のレベルを上げないと、一人で行動するのはまず無理だ)


 明は心の中でそう呟くと、奈緒に気付かれないよう表示させていた、彼女のステータス画面を手で払って消した。



(かと言って、このままずっとレベリングしているわけにもいかないし……。反転率のことを考えれば、次にいつ、モンスターの強化が行われるのかを見てから死に戻った方がいいか?)



 そんなことを考え込んでいると、ふいに誰かの叫び声が聞こえてきた。

 次いで、モンスターの唸り声と鳴き声が聞こえてくる。

 明たちは顔を見合わせると、小さな声で言葉を交わした。



「誰か、モンスターに襲われているみたいですね。戦闘でしょうか」

「……みたいだな。どうする? 助けるか?」


 奈緒の言葉に、明は眉間に皺を寄せた。


「そう、ですね……」


 明は呟き、逡巡する。

 助けることは簡単だ。けれど、助けた後に面倒事に巻き込まれるのはどうにか避けたい。

 下手な行動を取れば、利用される未来が見えるからだ。

 しかし、ここで助けておけば恩を売ることができるのは確実だろう。今後、何かしらの形で返ってくるかもしれない。



「……一度、様子を見に行ってみましょうか」



 結局、明の出した結論は〝助ける〟でも〝見捨てる〟でもなく、〝一度様子を見て決める〝という、結論の後回しだった。

 奈緒は明の結論に従うことに決めていたのか、特に反対意見もなく同意するように頷いた。



 明たちは、叫び声が聞こえた方向へと向けて慎重に路地を進んでいく。

 そして、叫びが聞こえた路地を窺おうと物陰から顔を出した時だ。

 ふいに、その路地の先からひとりの男が飛び出してきた。

 男も、そこに明たちがいるとは思わなかったのだろう。

 一瞬だけ驚いたような表情を見せると、すぐに逡巡するように視線を動かして、やがて焦燥と恐怖に駆られた表情で背後を確認した。

 その男に、明が声を掛けようと口を開こうとしたその時だった。



「――――すまんっ」


 男は、小さな声で明に向けて呟くと、立ち止まることなく走り去ってしまった。



「……なんだ?」


 その言葉に、明が顔を顰めて走り去る男の背後へと視線を向けた。


「い、いちっ、一条ッ……!!」


 走り去る男と入れ替わるように、小さく、奈緒が悲鳴のような声を上げた。

 その言葉に、明がハッとして振り返る。

 そして、明はその光景を目にした。

 路地の向こうから迫る、おびただしい数のモンスターを。

 ブラックウルフ、グレイウルフなどといった足の速いモンスターを筆頭に、ボアやキラービー、ゴブリンなどといったこの街に出現したモンスターの全てが、大きな群れとなって迫るその光景を!



 ――――あの男に、擦り付けられたッ!!



 そう思った時には、明はもうすでに身体が動きだしていた。


「奈緒さんッ!!」


 叫び、明が奈緒の手を引く。

 しかし奈緒の身体が動かない。普段、目にすることないその光景に、身が竦んでいるのだ。



「奈緒さん、早く!」


 明はさらに強く、奈緒の手を引く。



 しかし、それでも奈緒は動かない。いや、動けない。

 恐怖に震える奈緒の視線が明に向けられて、その瞳にじんわりと涙が浮かんだ。



「だ、ダメだ。動かない。動かないんだ……」

「ッ!」



 その言葉に、明は強く唇を噛みしめる。

 そして、手にしていた斧を捨てると、奈緒の身体を抱え上げた。


 ――だが、その行動を取るにはもう、遅かった。


 先頭を走っていたブラックウルフが奈緒へと向けて飛び掛かってくる。

 明は、その鼻っ面を全力で蹴り飛ばすが、次いで襲い掛かってくるグレイウルフの攻撃を防ぐことが出来なかった。



「ッ、ぁ、いッ!!」



 腕に噛み付かれた奈緒が短い悲鳴を上げた。

 その光景に、明の目の前が怒りで真っ赤になる。



「――疾走!!」



 叫び、身体を加速させた明は、襲い掛かるおびただしい数のモンスターを相手に、怒りの叫びを上げながら奈緒を守るべく暴れ回る。

 しかし、いくら身体を加速させたからといって、武器を捨て、さらに腕の中に奈緒を抱えた今、眼前を覆い尽くすほどの数で迫るモンスターからの全ての攻撃を防ぐことを出来なかった。



「くッそ!!」



 じわり、じわりと。

 四方八方から振るわれるその攻撃に、奈緒の身体が傷ついていく。

 小さな悲鳴が上がるたびに、明の腕の中から生温い液体が溢れていく。

 そして、防ぎきることが出来なかったキラービーの毒針によって、奈緒の身体は一度ビクリと跳ねた後、ずしりと重くなった。




 ――――――――――――――――――


 シナリオ【あなたと共に】を進行中です。

 七瀬奈緒の死亡を確認しました。


 ――――――――――――――――――


 固有スキル:黄泉帰り が発動します。


 ――――――――――――――――――




「――――ッ!!」


 言葉にならない怒りで、明は奥歯を噛みしめる。



「なッ」



 彼女の名前が口から漏れるが、もう何もかもが遅い。

 一瞬にして暗転した視界は、急速に明の意識を奪っていく。

 そしてまた一条明は、七瀬奈緒の死に引きずられて、死亡した。


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― 新着の感想 ―
男くんさぁ… そこは「すまん」じゃなくて「逃げろ」だろがいヽ(`Д´#)ノ
[気になる点] 死に戻りで強くてニューゲームしかも他人の死で ゲスな主人公ならボーナスゲーム状態でヒロイン殺しまくるやろ
[一言] 自分の身の丈ほどの斧振り回してるのなかなか想像できないな そんだけでかいと握りの部分も極太だろうし 人間の手で握れるものなのか
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