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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
二章

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役目



「奈緒さん、軽部さん。ちょうど良かった、聞きたいことがあるんです」

「聞きたいこと?」



 奈緒は明の言葉に小さく首を傾げた。



「ええ、モンスターの死体って、今までどうしていたんですか?」


 明のその言葉に、奈緒も軽部も互いの顔を見つめた。



「さあ……。あまり真剣に考えたことも無かったですね。気が付けば消えていたので、そういうものだと思っていました」


 そう言って口を開いたのは軽部だった。


「そういうものって、変だとは思わなかったんですか?」

「思いましたが……。そもそも、突如としてモンスターがこの世界に出現した時点でおかしなことなので」



 その言葉に明は、確かにそうだと妙な納得をしてしまった。



(まあ、そもそも。どうして急に、モンスターが出てきたのかも分かっていないんだ。世界反転率ってやつがモンスターに関わっているのは確かだけど、それが起きた原因も分からない。レベルやステータスっていう現実にはないものが出現した時点で、そういうものだと受け入れるのも、分かる気がする)


 突如としてどこからともなく出現したモンスターは人々を襲い、逆に人々の手によって倒されたモンスターの死体は、どこへともなくいつしか消える。

 そんな世界になったのだと思えば、なぜモンスターの死体だけが消えるのかなんて疑問に思うこともないのかもしれない。


(……そう言えば、これまで散々、ゴブリンから武器を奪ってたけど、あれは消えて無かったな。ゴブリンが手にした道具を、俺が奪ったからか? …………いや、どちらかと言えば、ゴブリンが死んだことで、その道具はモンスターからのドロップ扱いになったから残っていた、とかそんな感じか?)



 自問自答を繰り返して、明はひとまずの結論を出す。

 その結論に、明は僅かな確信を感じていたが、それはきっと、新たに入手した『第六感』の影響に違いないと考えた。



(……ひとまず、モンスターの死体が消える謎については気になるけど、今のところソレを気にしてもしょうがないか)


 明はため息と共に思考を止めると、二人へと視線を向けた。



「それで、二人してどうしたんです?」

「どうって、お前の様子を見に来たんだ。身体は平気か?」



 そう言って、明の言葉に応えたのは奈緒だ。

 明は奈緒の言葉に小さく頷きを返す。



「奈緒さんこそ、無事でしたか?」

「私は後ろから魔法を放つだけだからな。私の元に辿り着く前に、一条がほとんど倒していたから、何も問題は無かった」


 そう言って、奈緒は明を安心させるように小さく微笑んだ。

 その言葉に、明は戦闘中のことを思い出して声を出す。


「そう言えば、アレは何だったんですか?」

「アレ?」

「銃ですよ! あんなもの、いったいどこから……」

「あー、これか」



 言って、奈緒は自分の太腿へと視線を落とした。

 そこには、黒いホルスターに刺さった銃がぶら下がっていて、確かな存在感を発していた。



「安心してくれ。弾は入ってない」


 明の視線に気が付いたのだろう。

 奈緒は、安心させるように小さく笑ってそう言った。


「いや、そうじゃなくて」


 と、明が奈緒の言葉へと向けて言ったその時だ。



「その銃は、以前、私が渡したんですよ」


 そう言って、明達の会話に割り入ったのは軽部だった。



「初級魔法を取得した際に、魔法を放つ際に方向を決めたほうが発動しやすいとのことで、手持ちの銃を渡したのです」


 ――――なぜ、そこで銃を渡したんだ。


 明が、そう口にするのを察したのか、軽部が慌てて言葉を付け加えた。



「ご、誤解なさらないでくださいね。私だって、最初は躊躇いました。こんな状況ですが、七瀬さんは民間人ですし……。弾が入っていないとはいえ、実銃ですから」

「それなら、どうして?」

「それは…………」



 言葉を濁すようにして、軽部は奈緒へと視線を向けた。

 その視線に気が付いた奈緒は、ふいっとそっぽを向くと、恥ずかしそうに唇を突き出して呟いた。



「…………杖や棒を振るって魔法を発動するなんて、私のキャラじゃない」



 実に、シンプルな答えだった。

 シンプルすぎるがゆえに、納得の出来る答えでもあった。

 だからこそ明は、奈緒の言葉に何も言えなくなってしまう。



(……まあ、確かに。そもそも、初級魔法自体を奈緒さんが取得した時点で、キャラじゃないなとは思ったけど)


 心で呟き、明はため息を吐き出す。


(だからって、そこで銃を使う辺り、奈緒さんらしいというか……)


 おそらく、棒や杖などが撃ち出す方向を指し示す為のものならば、使う道具は何でもいいと、そんなことを思った結果なのだろう。



 明はそう考えると、軽部へと視線を移して口を開く。



「これ、渡して良い物なんですか?」

「官品を渡すことは、本来、言語道断。あり得ないことなんですが……。こんな状況です。誰も文句は言わないでしょう」


 ――――いや、だとしても本当に渡していいのか?

 そんなことを考えた明は、まあ、渡した本人がそう言うのなら、とそれ以上の追求をやめた。

 これ以上、銃所持の良し悪しをこの場で揉めたところで仕方がないからだ。



(……暴発して怪我でもされたら大変だし、どこかで奈緒さんが弾を手に入れないようにだけ気を付けよう)

 

 明は、密かに心の中でそう思って、気を取り直すように軽部へと声を掛ける。



「まあ、軽部さんがそう言うのなら……。それで、軽部さんは? 大丈夫でした?」


 その言葉に、軽部は気を取り直すように小さく咳払いをすると、その表情を改めた。



「一条さんに助けていただいたおかげで、私の方も無事でした。もしもあの時、一条さんに来ていただかなければ、我々はきっと、この場で全滅していたことでしょう。生き残った自衛隊員、そしてこの病院に残る人々を代表して、お礼申し上げます。本当にありがとうございました」

「……いえ。俺は、俺に出来ることをしたまでです。それよりも、軽部さん達はこれから、どうされるおつもりですか?」

「これから、ですか」


 その言葉に、軽部は少しだけ考えるように、後処理をする隊員たちへと目を向けた。

 それから、明へと視線を戻すとゆっくりと言葉を吐き出す。



「……そう、ですね。今の戦闘で、戦える者も少なくなりました。モンスターが現れて三日、隊員たちの疲労はピークに達しています。正直、一度撤退して体勢を整えるのが得策なのでしょうが……。ここには、元々入院されていた方もそうですが、我々がここに居ると知って、逃げ込んできた人も大勢います。今、我々がここを離れれば、ここに残った人達はまず間違いなく死ぬことになるでしょう。だとすれば……。ここに、籠城するしか方法がないですね」



 その言葉に、明は眉根を微かに寄せて考え込んだ。

 確かに、彼らに生き残る道があるとすれば、それはもう籠城する他に方法はないだろう。

 しかし、籠城は通常、援軍を待つ場合にのみ有効だったはずだ。



「他の自衛隊は助けに来てくれるんですか?」

「……いえ。きっと、無理でしょうね。救援要請はずっと出していますが、どこの部隊も返事がない。というより、救援を送る余裕がないのだと思います」



 籠城したところで、助けがあるのかどうか分からない。

 ここから逃げ出そうにも、この周囲の街々にもモンスターが出現しているし、空にはロックバードというモンスターが縄張りを主張しているがために、この病院の人々をヘリなどで輸送することさえも出来ない。

 となれば、確かに彼らが取れる選択肢は数少ない。軽部の言うように、ここに残った人達と共に生存することを考えるならば、籠城という選択肢を取る他に方法はないように思えた。



「このことを、まずはここに残った全ての人に話すつもりです。その上で、ここに残ると言った方と、出来る限り最後まで生きようと思います」



 その言葉に、明はしばらくの間、軽部をじっと見つめて、ただ一言、呟いた。



「――――あなたは、ここに残った人達のために、その命を捧げる覚悟を決めてるんですね」

「それが、我々の役目でもあります。我々自衛官は、国民のみなさまを守るために存在しているのですから」



 軽部は、その口元に笑みを浮かべると、そう応えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第六感スキルは作品中で設定の説明する時便利ですね。主人公が自分の考察を正しいとする理由を、第六感スキルによる直感にできるので [気になる点] 奈緒さんに銃を使わせないようにとか、弾を手に入…
[気になる点] 棒振るとかキャラじゃないなんて理由で実銃を渡すほうも使うほうも中々ぶっ飛んでるな [一言] 今のところボスを倒そうがどうにもならなそうな状況だなあ人類
[気になる点] 国民じゃなくて国を守るのが仕事だったような。 自衛官の発言が前から気になっていました。 滅私奉公なんて言われたりもしますが、けして無駄死にすることではないですよ? 東北の津波の時もそう…
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