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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
二章

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死体の行方は?


 

 激しい戦いの後には、夥しい血の痕がどす黒い血溜まりとなり、色濃く床に残されていた。

 先ほどの騒動が嘘だったかのように静まり返ったその場所では、生き残った自衛隊員が粛々と後処理を行っている。

 彼らは犠牲者を丁寧にシーツに包み、調達してきた担架に乗せると、どこかへと運んでいく。


 明は最初、彼らは犠牲者を霊安室にでも運んでいるのだろうと思っていたが、どうやらそれは違ったようだ。

 死体を安置していたところで、この世界では引き受け手がいない。……いや、居たとしてもそれからどうすることも出来ない。

 ぼそぼそと漏れ聞こえてくる会話の中で時折、〝場所〟や〝スコップ〟という単語が出てきて、さらには〝個人が特定できるもの〟、〝遺族〟といった単語が飛び交っているのを聞くからに、きっと、どこかで土葬をするつもりなのだろうと明は考えた。



(……まあ、死体を放っておけば腐敗もするが、人を燃やすのなら、それなりの火力が必要だろう。そうなれば必然的に煙が立ち昇り、モンスターを呼び寄せる原因になる。さらには、火葬中の安全を確保する場所が必要。火葬には時間が掛かるし、いつモンスターに襲われるかも分からない……。となれば、土葬が一番安全か)



 明は小さく息を吐き出すと、エントランスロビーの壁に背中を預けて、思考を巡らせた。



(……それにしても、かなりマズいな。今の戦いで、犠牲者は七人。ブラックウルフの攻撃をまともに喰らい、死ぬまでには至らなくても身動きの取れなくなった人は三人。俺が到着した時には十六人ほど居たはずだから、まともに動ける人は、残り半分以下か……)


 厳しい戦いだ。

 次に同じような数で襲われれば、確実に彼らは全滅することだろう。


(ここに居る全員のレベルを解析で見てみたが……。一番高いのが軽部さんのレベル20だ。他の自衛隊員はだいたい平均してレベル18。応援に駆け付けたあの人達は、それよりもレベルが少し低い。それに加えて……)


 明は、視線を動かし正面玄関の隅に集められたブラックウルフの屍へと目を向けて、解析スキルを発動させた。



(コイツらのレベルは25。今回、前世で自動再生を取得していたから、俺はすぐに動くことが出来ていたが……。前世だと、まだ十分に身体が癒されてないから、まず動けなかっただろうな。そうなると、この人たちはまず間違いなく、全滅していたのか)



 ブラックウルフが包囲していた以上、襲われるのは確定事項だ。

 目覚めてすぐに動くことが出来れば、この()()()()も死人を出すことなく回避することが出来るだろうが、今の段階ではまず無理だと思っていいだろう。



(出来る手立てと言えば……バリケードの強化、ぐらいか? そのあたりはまた考えるとして――――)


 手を振り、解析画面を消すと明は息を吐き出した。



(やっぱり、強化までの猶予時間がたった一日しかないってのはかなりキツイな……。せめて二日……いや、みんながまともに現実を受け止めて、十分なレベリングを積む期間を考えると、せめて三日か四日は欲しい)



 いくら強化されたモンスターを倒し、未強化状態のモンスターを倒す時よりもレベルアップしやすいとはいえ、モンスターに襲撃されたのちに生き残りが少なければ意味がない。



(この状況が、全世界で起こってるのだとするなら……。持って数日――いや、一週間もせずに人類は全滅だ)



 きっと、この状況はそこかしこで起きていることなのだろう。

 やはり、ボスの討伐は早急に必要だ。

 人類には、どうしても時間が足りていない。



(……この黄泉帰りでのベストは、目覚めてから出来るだけ早く、ボスを倒すことだな)


 心の中で、改めて明は覚悟を決める。



 それから、奈緒の元へと向かおうと視線を動かした際に、ふとした光景が目に入った。



「ん?」



 明の視線の先には、エントランスロビーの隅に集められた、ブラックウルフの死骸の前に座り込む一人の女性がいた。

 先ほどの戦いでは姿が見えなかったのを考えるに、戦闘が終わったのを確認してから出てきたのだろう。

 彼女は、黙々とブラックウルフの死骸に小型のナイフを滑らせると、手慣れた様子でその毛皮を剥いでいた。


「あの、何してるんですか?」


 その様子が気になった明は、歩いて近づくと彼女へと声を掛ける。

 声を掛けられた女性は、肩をビクリと震わせると、慌てた様子で振り返った。



「ッ、びっくりしたぁ」

「ああ、いや……。すみません、驚かせるつもりはなかったんですが……。あの、それは何をしているんですか?」


 その言葉に、女性は少しだけ視線を動かすと、躊躇いがちに口を開く。


「いえ、その……。このままモンスターの死体を放置しているのもアレなので、使えそうな部分だけでも剥ぎ取って、素材にしようかと」

「素材……? 制作系のスキルを持ってるんですか?」

「いえ……。まだ、持ってません。でも、ポイントが溜まれば、すぐに取得しようと思ってます。私、ゴブリンぐらいしか倒せないし、皆さんみたいに前に出て戦うことも出来ないけど、武器とか防具を作れば、皆さんを支えることぐらいは出来るかなって」



 その言葉に、明は相槌をひとつ打つと、解析スキルを目の前の女性へと使用した。



(レベル10、か。確かに、今のステータスだとゴブリンを相手にするが精一杯かもな)



 そこに並ぶステータスを見る限り、彼女は例に漏れず身体強化は取得しているようだ。

 その上で、残りのポイントが1ということと、今しがた行った行為を見る限り、彼女が取得したスキルは『身体強化』と『解体』の二つらしい。



(んー……まあ、確かに。俺みたいに死に戻りを繰り返さない限りは、後方支援に進むか、前線で戦うか、もしくは偵察とか逃げに徹するか……なんて、自分のスタイルを早めに確立するしかないよなぁ)



 明は、彼女の解析画面を見つめながら、そんなことを考える。

 女性は、明に自分のステータスを見られているとは思っていないのか、



「あと四つ、レベルを上げれば武器制作か武具制作、どちらかが取得できるんです。……まあ、それが大変なんですけど」


 そう言って小さく笑うと、再びブラックウルフの解体作業へと戻った。



 しばらくの間、明はその女性が手慣れた様子でブラックウルフの屍を解体していくのを見つめ続けた。

 そうして、解体するところを見つめていると、明の頭に疑問が浮かぶ。



「……そう言えば、どうしてブラックウルフの毛皮を剥ぐことが出来てるんですか? あなたの筋力は……その……ブラックウルフの耐久には敵わないんですよね?」


 彼女のステータスを解析して、もうすでに知っていることを悟られないようにしながら、明は彼女へと言葉を吐き出す。

 すると彼女は、解体するその手を止めると、明を見上げてその質問に答えた。


「解体スキルの影響ですね。このスキル、スキルの詳細には書いていませんが、死んだモンスターを相手にした時だけ、その耐久を無視して素材を手に入れることが出来るよう補正が掛かるみたいなんです」

「なるほど、それで」


 スキルの効果によるものならば納得だ。

 そのスキル無しでもモンスターの死体から素材を手に入れることは出来るだろうが、そのモンスターの耐久を上回る筋力が必要になってくるだろう。

 それを、解体スキルは無くしてくれるものらしい。



「それじゃあ、素材を剥いだ後の死体ってどうしてるんですか?」



 再び、明は彼女へと問いかけた。

 すると彼女は、難しそうな顔になって首を傾げる。



「えっ? うーん……、どうしてるんでしょう? 私はただ、モンスターから素材を手に入れているだけなので、そのあたりのことはなんとも…………。素材を剥ぎ取ったあとの死体も、()()()()()()()()()()()し、あまり気にしたことは無かったですね」


 彼女は、少しだけ考え込むとそう答えた。


「気が付けば無くなってる? 誰かが持って行ってるってことですか?」

「うーん……どうなんでしょう? 私も、そのあたりのことは詳しくないので」

「そうですか……。分かりました」


 明は作業の邪魔をしないよう女性に向けてお礼を告げると、そっとその場を離れる。



(モンスターの死体が消えてるってことは、誰かが持ち去ったってことか? それとも、キラービーのようなモンスターが、人間だけでなくモンスターの死体も運んでいる?)



 繰り返しの間ならば、そんなことは疑問にすら思わなかった。

 何せ、一度死ねば自分のこと以外は全てリセットされていたからだ。

 しかし今は、あれから三日という時間が経過している。

 必然的に、その間に殺されたモンスターの死体は誰かが処理をしない限りは、どんどん積み上がっていくはずだ。



(まさか、死んだ彼らと同じように、ここの人達がモンスターの死体も地面に埋めている――なんて、ありえねぇよな)


 そんなことを、明が考えていたその時だ。



「一条さん!」



 名前を呼ばれて、声の方向へと振り向いた。

 すると、奈緒を伴ってこちらへと歩いてくる軽部の姿が目に入る。

 明はその場で足を止めると、二人へと向き合った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この場合のせいさくは制作ではなく製作だと思います
[気になる点] 味はともかく食べれる系ですかね?
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