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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
二章

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襲撃



 一度経験したイベント(軽部の訪室)をこなして、じっと自動再生による治癒に身体を任せていると、何事もなく日付が変わった。

 どうやら奈緒は、今夜は誰も外に出ないよう自衛隊や生き残った人々に言っていたらしい。

 病院周囲に潜んでいるブラックウルフによる被害はなく、静かな夜が過ぎていた。



(……うん。これだけ調子が戻れば、もう十分だな)



 明は、ベッドから立ち上がり軽く身体を動かす。

 自動再生を前世で獲得し、今回は目覚めの時からそのスキルが機能していたからだろう。

 前世よりも早く治癒された身体は――とは言っても、スキルを取得するまでの数時間分の差でしかないのだが――午前三時にもなれば何とか無事に身体を動かせる程度にはなっていた。

 軽く身体のストレッチをして具合を確かめてみるが、問題はない。ミノタウロス戦のように、激しい動きでなければまず問題はなさそうだ。



「大丈夫か?」


 日付が変わるまでの間、じっと明の傍に付き添い続けた奈緒が心配そうな声を出した。



「多少、痛みはありますが問題はないです。というよりも、これぐらいの痛みは慣れました。」



 これまで、幾度となく繰り返した死によって、明の痛みに対する閾値は黄泉帰りを取得する前よりも上がっている。

 まだ癒されていない骨や筋肉が悲鳴を上げているような気もしたが、明はその悲鳴を無視することにした。



「時間が惜しいので、さっそく始めましょうか。まずは奈緒さんのレベリングですね。いろいろと考えたんですが、まず奈緒さんが相手にするのはカニバルプラントが良いと思います。アイツは、攻撃範囲内に獲物が入り込まなければ攻撃出来ないし、奈緒さんが取得した初級魔法の有効範囲が三十メートルなら、アイツの攻撃範囲外です。一方的に攻撃を加えてやりましょう」

「カニバルプラント? ……ああ、自衛隊の人達が言っていた、人食いウツボカズラか。戦ったことが無いんだけど、私に出来るかな」


 不安そうにする奈緒に、明はしかと頷きを返す。


「大丈夫です。俺も、これまで何度も戦ってきた相手ですが、アイツら動くことが出来ませんから。近距離ならともかく、遠距離でなら一方的に倒すことが出来ますよ」


 明の言葉に、奈緒も納得したようだ。

 それなら、と気合を入れるようにして奈緒が小さく拳を握り締めた。


「俺は、特に持ち運ぶものは何もないですが、奈緒さんはすぐに行けますか?」


 この世界にモンスターが現れた最初の頃は、物資の調達をまず行ってからレベリングに励むことはあったが、幾度も死に戻るうちにそれすらも煩わしくなり、どうせ死ぬのならばとその身一つでレベリングに励んできた。

 ミノタウロス戦でボロボロになったスーツは病院に運ばれた時に脱がされたのか、明が今、身に付けているのは病院の寝間着だ。

 本来ならば着替えたほうが良いのだろうが、今回の人生で全てが終わると思っていなかった明は、さしたる準備をする様子も見せず、奈緒に向けてそう言った。

 奈緒は明の言葉に少しだけ考える素振りを見せると、口を開いた。



「……いや。初級魔法を使ってレベリングをするなら、必要なものがあるんだ。院内で持ち歩くわけにもいかないし、いつも戦闘が終わったら預けているんだけど……。取ってきてもいいか?」

「分かりました」

「ありがとう。すぐに戻る」


 言って、奈緒は急ぎ足で部屋を後にした。

 一人になった明は、待っている間にどうしようかと思考を巡らせて、ふと思い出す。



「そう言えば、俺の魔力って回復したのかな」



 前世で取得していたスキルは自動再生だけではない。

 消費した魔力を回復させるスキルも同時に取得していたのだ。

 明は、自らのステータス画面を呼び出すと魔力値の数値を見つめた。


(……まだ回復してないか。今でだいたい、目覚めてから魔力回復スキルを取得してから十七時間か。結構時間が掛かってるけど、自動再生とは違って、こっちはまだなのか?)


 自動再生の治癒に時間が掛かっているのは、損傷の具合によるのだろうと予想が付くが、魔力回復の効果が出るのにやたらと時間が掛かっているのは、やはりスキルレベルが低いからだろうか。



(十時になったら、ちょうど黄泉帰りから二十四時間経ったことになるし、もう一度確認してみるか)


 そう思いながら、明は、ステータス画面を手で振り消すと、筋肉の強張りを解すように大きく伸びをした。



「さて、と」



 呟き、明はこれからのことを考える。

 まずは奈緒のレベリングをすることが最優先だが、それと並行して自分自身のレベルも上げなければならない。

 いつまでも、奈緒を黄泉帰りに付き合わせるわけにはいかないだろう。

 さらに言えば、世界反転率を低下させるためにも、なるべく早くボスを倒す必要がある。


(つっても、ミノタウロス以外に倒せそうなボスなんて、周りに居たか?)


 明はあの繰り返しの中で、この街から地続きとなった町や市にはすべて足を運んでいる。

 そしてそのたびに、その街を支配するモンスターに幾度となく殺されていただけに、明はミノタウロスよりも楽に勝てるボスなんて存在していないだろうと思っていた。



(なによりも、今が、モンスターが強化された後っていうのが一番厄介なんだよな……)



 あの繰り返しの中で確認したモンスターは、全て未強化の状態だ。

 今となっては、あの繰り返しの中で確認をしたステータスも全てが役に立たないものとなっていることだろう。


(そのあたりのことも、奈緒さんと一度相談するか)


 そう思って、明が息を吐き出したその時だ。



「モンスターだッ! モンスターが入り込んでいるぞ!!」



 扉の外から聞こえた病棟中に広がるその言葉に、明は反射的に扉を開け放ち外に飛び出した。

 だが、廊下にはモンスターの姿はない。

 それどころかこの病棟では戦闘音が聞こえない。

 どうやら、その叫びの主はこの階層に残る人達に向けて注意と応援を頼みに来ただけらしい。


 それを察した明は、すぐさまリノリウムの床を蹴って走り始めた。


 廊下にならぶ病室から不安そうに顔を出す人々の前を突っ切り、階下へと続く階段を見つけると飛び込むようにそこへと入る。

 階下へと伸びる階段を跳び、踊り場に着地すると、すぐにまた次の踊り場へ跳躍する。

 そんな移動方法で何階かを駆け降りると、先ほどの叫びをあげたのであろう男性に明はすぐに追いついた。



「モンスターはどこだ!」



 隣に並びながら、明は問いかけた。

 男性は、跳んで降りてくる明に驚愕の表情を浮かべていたが、すぐに気を取り直すと声を張り上げる。



「正面玄関前の、エントランスロビーだ! 今は自衛隊の人達が相手をしているけど、数が多い! いつの間にか、ブラックウルフに囲まれてたんだ!! アイツら、出入口のガラス扉とバリケードを破って、中に入ってきやがった!!」


 その言葉に、明はすぐに合点がいった。



(……なるほど。奈緒さんを殺したブラックウルフは、ここを襲う準備をしていたのか)


 前世で、奈緒はたまたま殺されたかのように思えたが、実はそうではなかったらしい。



(……マズいな。自衛隊の人達がどのぐらいのレベルなのか知らないけど、そう簡単に敵う相手じゃないぞ)


 明は険しい顔になると、すぐにその男へと返事をする。



「わかった。ありがとう、すぐに向かうよ」



 呟き、明はまた階段を蹴って跳んだ。

 半ば落ちるようにして、明はあっという間に一階へと辿り着くと、すかさず正面玄関の場所を確認するため、周囲を見渡す。


(くっそ、正面玄関ってどこだ!?)


 心で呟き、明は周囲を見渡す。

 過去に一度、モンスターがここまで入り込んだのだろうか。

 一階には、壁や床に飛び散った血の痕がいくつも残っていた。

 その色が、時間の経った人の血液にしてはやけにどす黒いのを見て、その血が、モンスターの血液なのだろうと明は察した。


(あっちか!?)


 現在地の分からない明は、ひとまず動き出そうと感覚に頼って走り出した。するとすぐに、天井からぶら下がる案内板が出てきて、走り出した方向が間違っていなかったことを確信する。

 そうして、案内板を頼りに廊下を駆け抜けていると、ふいに視界が開けてエントランスロビーが現れた。



(――――いた!)



 おそらく、最終防衛ラインのつもりなのだろう。院内にある物を集めるだけ集めて作られたかのような、バリケードの向こう側。広さのあるそのロビーでは、激しい戦闘が行われていた。

 事前に聞いていた情報の通り、病院を襲ってきていたのはブラックウルフだった。

 数はざっと見渡した限りでも二十は超える。

 対して、こちらの戦力は十名ほどの自衛官と、騒ぎを聞いて駆け付けた六名の一般人だ。

 敵味方入り乱れるような乱戦となったその現場では、怒号と絶叫が響き渡り、ブラックウルフの低い唸り声が、明のいるその場所にまで聞こえていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >近距離ならまだしも、遠距離でなら一方的に倒すことが出来ますよ」 ここの「まだしも」は意味が逆になってると思われます。 デジタル大辞泉より よくもないがそれでも。「1人や2人なら―、…
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