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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
二章

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68/351

バタフライ効果



 時間を掛けて、死に戻りの混乱から落ち着きを取り戻した奈緒は、ぽつぽつと言葉を漏らし始めた。


「反転率が3%を超えた時のことだ。私は、どうも落ち着かなくて、正面玄関の前に出てタバコを吸っていた。……そこに、軽部さんが来たんだ。私たちは取り留めのない話をして、別れようとしたときに、アイツがやって来た」

「……あいつ?」

「ブラックウルフだよ」


 その言葉に、明はなるほど、と息を吐く。



 ブラックウルフはこの街でも上位に入るモンスターだ。加えて、ステータス項目の中でも速度値がかなり高い。

 未強化状態でも、身体強化Lv2に上げなければ相手に出来なかったモンスターなだけに、不意をつかれた今の奈緒が敵う相手ではないことは、話を聞いていてすぐに分かった。



「一瞬だった。一瞬だったんだ! 私は逃げることも、声を出すことも出来ず、あっという間に殺された」



 その時のことを思い出したのか、奈緒は傷のない首筋を手で触った。

 おそらく、死ぬ直前にそこに爪を立てられたのか、噛み付かれでもしたのだろう。

 奈緒は、首筋を手で撫でながら、ゆっくりと言葉を続ける。


「たまたま、私たちの傍に居たんだろうな。いや、もしかすればどこかに隠れて、アイツは私たちの様子を窺っていたのかもしれない。暗闇の中から近づいてくるソイツに、私たちは直前まで気が付かなかったんだ」


 呟き、奈緒は悔しさを滲ませるように固く唇を噛みしめた。


「そして、目が覚めたら私は……。また、正面玄関の前に居た。一条が目覚める直前、私たちは病院を襲ってきていたキラービーの群れを相手に戦っていたから、過去に戻ってきたってことはすぐに分かった。後にも先にも、キラービーの群れを相手にしていたのはその時だけだったし……。さらに言えば、その時の戦いで死んだはずの人が、まだ、そこには居たから。――――だから、すぐに気が付いた。この黄泉帰りは、私が死んだことで起こったんだって」


 その言葉に、明は奈緒の顔を見つめた。

 死んだことに対して責任を感じているのか、奈緒は思いつめた表情のまま手元を見ていた。



「……なるほど」


 明は、奈緒の言葉を聞き終えて、息を吐き出しながら言った。



「奈緒さんの状況は理解しました。ブラックウルフに出会ってしまったなら、仕方ないですよ。あの狼たちは、鼻は効きませんが速さはあるんです。見つかる前に隠れる、逃げる、などのことは出来ますが、見つかってしまっては逃げることも難しい。この失敗を、次に活かしましょう」

「仕方ないって! 私が死んだことでお前は……。また、その状態に戻ってしまったじゃないか」


 調子の良かった明を見ていたからだろう。

 黄泉帰りによって、再び身動きの取れなくなった明を見て、奈緒は泣きそうな顔になる。

 明は、そんな奈緒に向けて首を一つ振ると、ゆっくりと言葉を口にした。


「死んでしまったことを、責めることなんて出来ませんよ。しようとも思いません。それに、俺がこうなってしまったのも、今回、黄泉帰ってから初めて分かったことなんです。いつの間にか、黄泉帰りのスタート地点が変更されていたんだ。……だから、遅かれ早かれ、俺はまた、この状態に戻っていたんだと思います」

「黄泉帰りのスタート地点……? ――――そう言えば。確かに、前に言ってた時は」


 こくり、と明は頷く。


「ええ。今までなら、死んで戻っていたのは、モンスターが現れたあの夜でした。だから、死に戻りさえすれば、それまでに負っていた怪我も身体の疲れも、全部無かったことになっていた。……でも、今回は違う」

「死に戻り先が、ミノタウロスを倒した後の状態だから……だな?」

「その通りです」


 再び、明は頷いた。


「……どうして、黄泉帰りのスタート地点が変更されたんだ?」

「それは……俺が知りたいぐらいですよ」


 明は、その言葉に重たいため息を吐き出して答えた。


「いきなり、なんですよ。理由も分からない。いや、ミノタウロスを倒したからなのかもしれませんが、このタイミングで死に戻り先が変更された理由が分からない。今回の変更だけで、その原因を探るのは難しいですね」

「……なるほど」

「それと、奈緒さんが死んだことで黄泉帰りが発動した点についてですが。シナリオのことを覚えていますか?」

「一条と一緒に死に戻れるっていう、やつだよな?」

「そうです。その効果によって、奈緒さんにも俺の黄泉帰りが適用された。結果として、俺たちのどちらかが死ねば、黄泉帰りそのものが発動するようになったみたいです。俺も、それを理解したのは、ついさっきでした。なので、これからはなるべく一緒に行動していきましょう」

「……わかった」



 同意を示すように奈緒は首を振った。

 どうやら、混乱から立ち直って状況を理解したのだろう。その顔は、自分の責任を感じながらも、これからのことへと思考を巡らせているように見えた。

 明は、その様子を見ながら言葉を続ける。



「とはいえ四六時中、一緒に行動するのも限界があるので、奈緒さんがある程度の自衛が出来るよう、まずはレベリングが必要ですね。明日になれば、俺も動けるようになるので、本格的に動くのはそれからにしましょうか」

「それも了解だ。それまでは自由でいいのか?」

「そう、ですね。大丈夫だと思います。前世では、夜中に黄泉帰りをするまで、モンスター絡みの大きな騒ぎも無かったですし……」


 明は、考えを纏めるように、視線を彷徨わせながら言った。



「ただ、夕方になれば軽部さんがここに来るはずなので、その時にはこの部屋に居てほしいです。出来れば、覚えてる限り前回と同じように動いて下さい。俺の経験上、前世とは違う行動を起こすと、その後の状況に何かしら変化が起きます。もしかすれば、軽部さんが俺に会いに来た時に、この部屋に奈緒さんが居ないことで、奈緒さんを探しに出かけるかもしれない。そうすれば、潜んでいたブラックウルフの位置が変わるかもしれませんし、そもそも潜むことすらなく、この病院を襲ってくるかもしれない。……俺が動ければ積極的に試していくのもありですが、この有様ですからね。動けるようになるまでは、前世と同じ行動を繰り返しましょう」



 明の言葉に、奈緒は真剣な表情で口を開いた。



「わかった。それじゃあ、夕方になるまで、私はこの部屋で過ごすよ」

「そうですね。お願いします。まずは、無事、明日を迎えることを目標にしましょうか」



 その言葉に、奈緒は深く頷きを返したのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] あー、良かった(〃´o`)フゥ… 人間に○されてなくて(´-ω-) 人間だったら泥沼展開間違いなしやもん|ूᐕ)
[一言] 普通に読んでても、黄泉返り地点が変更されたのはシナリオが発生した時点だろうってわかるのに、第六感まで携えた主人公がその発想をしないのが凄く違和感がある。 まぁ作者都合の何かがこの先の話にある…
[一言] ボスを倒したから変更よりも、奈緒を連れているから奈緒に黄泉がえりが適応されたところまでしか戻れない、の方がしっくりきます。なので、変更後の地点は奈緒と契約した時とかにするのはどうでしょうか。…
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