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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
二章

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62/351

あなたと共に


 

「…………え?」


 そこに表示された文字を読んで、明の口からは呆けた声が漏れ出た。


(なんだ? シナリオの活性化?  それに特定の条件を満たしたって、なんで、このタイミングで……)



「どうした?」



 目の前に現れた画面に視線を奪われて、考え込む明を見かねたのか、奈緒が不思議そうな顔となって尋ねてきた。

 明はその声に視線を動かすと、躊躇いがちに声を出す。


「いえ、その……。実は、シナリオが活性化されたって画面が出てきて」

「シナリオ? そんな画面、私には出てないが」


 怪訝な顔となって奈緒は宙を見つめた。

 奈緒に、その画面が出ていないのは当然だ。

 なにせ、このシナリオというものは、〝黄泉帰り〟の追加効果によって現れたものだ。黄泉帰りが、一条明の固有スキルである以上、七瀬奈緒にはその画面が現れないのであろう。

 明は少しだけ考えて、奈緒にシナリオのことを話すことにした。

 タイムリープのことだって奈緒には伝えている。シナリオのことを話しても、問題はないはずだという考えだった。

 奈緒は明から告げられることを無言で聞き終えると、「なるほど」と言葉を漏らして思案顔となった。



「……つまり私が今、お前と共に一緒に行くと言ったから、そのシナリオとやらが発生したってことか。もしかすれば、その特定条件とやらは、お前に協力したいって心から思うことなのかもしれないな」



 その可能性は、画面が現れたタイミングを考えても十分にありえる。

 けれど、それはまだ仮説だ。

 たった一回の情報では、そうだと確定させることは出来ないが、これから先、もしも同じ様なことが起きれば、その特定の条件とやらは明らかにすることが出来るだろう。



「そうかもしれません」


 と明は奈緒の言葉に一度頷いた。



「ですが、結論付けることはまだ出来ないです。せめてあと、もう一回。シナリオが発生しないことには、なんとも……」

「まあ、そうだな」


 奈緒も、明の言葉に理解を示したのか頷いた。


「だけど、ちょうど良かった。一条、そのシナリオとやらを受けてくれ。そうすれば、私はお前と一緒に死んでも生き返ることが出来るんだろ? だったら、これからボスを倒しに行くのに都合がいいじゃないか」

「都合がいいって――。奈緒さんッ! あなた、その言葉の意味が分かって――――」

「分かってる」


 奈緒は明の言葉を遮った。


「分かってるさ。それがどれだけ辛くて、苦しいことなのかも、全部。……目を覚ましたお前が、真っ先に私に言ってくれたじゃないか」



 奈緒は、その口元に微笑みをたたえると、ゆっくりと言葉を吐き出す。



「あの話を聞いて、私は思ったよ。どうして、私にお前のような力がないのか。私にもステータスがあるのに、どうしてお前とは違うのかって。でも、そのシナリオとやらを受ければ、私もお前と同じになれる。……いいや、もっと言えば、お前の苦しみを一緒に背負うことが出来るんだ。一条、ついさっき、私は言っただろ? お前が死に物狂いで戦うなら、私も死に物狂いで戦うと。だから、一条。頼む、そのシナリオとやらを受けてくれ」



 奈緒はそう言って、懇願するように明を見つめた。

 明は、そんな奈緒を見つめた。

 いや、見つめ続けることしか出来なかった。

 頭の中ではいろいろな言葉がぐるぐると回っている。奈緒を、この地獄に巻き込んでもいいはずがないと、その願いを断る様々な言葉が頭の中に湧いてくる。



「――――奈緒さん」



 しばらくの間を置いて、明はようやく口を開いた。



「黄泉帰りは、おそらく、きっと。奈緒さんが思っているほど万能な力じゃないです。死んだ時の痛みも、恐怖も、苦痛も、何もかもを覚えたまま、次の瞬間には生き返っています。いや、生き返ってしまうんです。それでも、あなたは……この地獄に足を踏み入れようと、そう思いますか?」


 その言葉に、奈緒はゆっくりと首を縦に振った。


「ああ、もちろんだ。だって、その地獄にはもう、お前がいるんだろ? 一人じゃないなら、怖くない。……いや、本当はちょっと怖いけど、お前が傍にいるなら、私は大丈夫だ」



 その言葉に、明は思わず笑った。

 彼女との付き合いは長い。

 だからこそ明は、七瀬奈緒という人物がどれほど自分に真っ直ぐで、一度決めたことは最後までやり通す人なのかを知っている。

 奈緒はもう覚悟を決めている。

 一条明という男と共に、最後までこの地獄に付き合う覚悟を決めているのだ。


 ――だとしたら。明の答えられる言葉は、一つしかなかった。



「…………分かりました」



 明は奈緒の顔を見つめた。



「奈緒さん。俺と一緒に、死に戻ってくれますか?」


 その言葉に、奈緒は小さな笑みを浮かべると、確かな頷きを返してくる。



「ああ。もちろんだ」



 明は、一度奈緒の顔を見つめて、小さく笑うとゆっくりと画面に触れた。

 ――チリン。




 ――――――――――――――――――


 七瀬奈緒のシナリオ【あなたと共に】を開始されます。

 これより、七瀬奈緒にはあなたの黄泉帰りの力が適用されます。

 シナリオクリアの条件は、七瀬奈緒と共にボスモンスターを討伐することです。


 ――――――――――――――――――


 ボスモンスター撃破数0/1


 ――――――――――――――――――




 その画面をみつめて、明は拳を固めた。

 これでもう、後戻りは出来ない。

 一条明の死は少なくとも、七瀬奈緒がタイムリープする原因となってしまった。


(俺に、全てが掛かってるんだ)


 明は奈緒を見つめた。

 こうなった以上、彼女はもう一心同体だ。

 これからボスに挑むにあたって、お互いのことは全て知っておくべきだろう。



「奈緒さん。これから一緒に行動するなら、俺のことは知っておいたほうがいいと思います。だから、俺のステータス、スキル、その他もろもろ。すべてを、これから話します。だから、奈緒さんも獲得したスキル、戦闘スタイルなど、俺に教えてください」



 真剣な表情で呟かれるその言葉に、奈緒は静かに頷いた。



「ああ、わかった」

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― 新着の感想 ―
[一言] ○○子…!!
[良い点] シナリオ(フラグ)…ってコト?!
[良い点] なおが 仲間になった! [一言] 作者「ようこそ、無限地獄へ」
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