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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
二章

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61/351

仄暗い部屋で



 閉じられた部屋の中に、沈黙が広がる。

 空を赤く染め上げていた太陽はいつの間にかその姿を完全に隠していて、部屋の中には夜の帳が下りようとしていた。

 扉の傍に備え付けられていた非常用の電灯が、仄暗い部屋の中を照らし始める。

 奈緒は、電灯に照らされた影を作りながら固く唇を結ぶと、立ち上がった拍子に倒れたパイプ椅子を起こして、そこに腰かけた。



「…………酷い話だ」


 静かに、奈緒は言った。



「気の遠くなるようなタイムリープを繰り返して、お前はようやくあの化け物に勝ったというのに……。それなのに、お前はまた、化け物と戦うことを強要されている。目を覚ましたその日の、それこそ身体だってまだ治っていないのにだ! ……確かに、軽部さんの言うように、お前が戦うことが現状では一番いいんだろう。――けどッ! 少しぐらい……休ませてあげても、いいじゃないか」



 奈緒は、明が死ねばタイムリープをすることを知っている。

 それは、目を覚ました明が、真っ先にこれまでのことをすべて奈緒へと伝えたからだ。

 それを知っているからこそ奈緒は、ほんの少しの休みさえもなく明へと掛けられた軽部の言葉に、理不尽な怒りを感じているようだった。



「でも、俺がやらないと、今は誰もボスに勝つことが出来ないのは事実です」

「それは! ――――そう、だけど」



 奈緒は声を上げて、唇を噛みしめた。



「それでも、一条ただ一人に、それを押し付けるのは……あまりにも酷すぎる」



 明は、そんな奈緒の様子に小さく笑うと、ベッドに身体を沈めるようにして天井を見上げた。

 それから、ゆっくりとした口調で、明は奈緒へと向けて言った。


「――やる前から諦めない。それを、俺に教えてくれた人がいるんです。その人のおかげで、俺は今、ここに居ます。あの時、諦めていたら俺はここには居ないんです。……だから、ここに居るからこそ俺は、俺に出来ることがあるのなら、やってみようと思います」

「一条…………」


 奈緒は、明の顔を見つめて呟いた。

 明は奈緒へと視線を動かすと、安心させるように笑みを浮かべる。


「大丈夫ですよ。俺はもう、大丈夫です。だって俺が辛い時、奈緒さんならきっと、俺の話を聞いてくれるでしょ?」

「ああ、もちろんだ」


 間髪入れずに奈緒は頷いた。


「なら、大丈夫です。一人じゃないなら、俺は大丈夫」



 静かに吐き出されるその言葉に、奈緒は口を噤んだまま明を見つめた。

 その瞳が小さく揺れて、やがて決意を固めるように力が籠る。



「一条」


 と、奈緒は小さく明の名前を呼んだ。



「お前がボスの討伐に行くなら、私も行く」

「奈緒さん、それは――――」

「分かってる!! 私自身、分かってるんだ。今の私が、一条に付いていっても、足手まといにしかならないって。でも、それでも……。私は、一条と一緒に戦いたい。お前が死に物狂いで戦うんだったら、私も死に物狂いで戦う。お前だけが一人でボスに挑むなんて、こんなの……絶対に、間違っている!!」

「……奈緒さん」

「頼む。私も一緒に、連れて行ってくれ」



 そう言って、奈緒が真剣な表情で明の顔を見つめた時だ。


 ――チリン。


 ふいに、鈴の音を思わせるような軽やかな音が鳴って、一つの画面が明の前に表示された。







 ――――――――――――――――――


 特定の条件を満たしました。

 シナリオが活性化されます。


 ――――――――――――――――――


 七瀬奈緒のシナリオ:【あなたと共に】が発生します。

 七瀬奈緒は、あなたの境遇をよく理解し、あなたの力になろうとしています。

 あなたは七瀬奈緒と共に協力し、この世界に現れたボスを討伐してください。


 ――――――――――――――――――


 なお、このシナリオの受諾は任意です。あなたにはこのシナリオを拒否する権利があります。

 このシナリオ中、七瀬奈緒にはあなたの持つ〝黄泉帰り〟の力が適用され続けます。

 七瀬奈緒がこの力を失うのは、シナリオ終了時です。



 七瀬奈緒のシナリオ【あなたと共に】を開始しますか? Y/N


 ――――――――――――――――――



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― 新着の感想 ―
[一言] 展開に鳥肌が立つ 凄い
[良い点] シナリオのタイトルでめっちゃテンション上がった この殺伐とした雰囲気最高
[良い点] あなたと共に
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