反転率2.66%の世界
(あとの問題は……。時間経過で行われるモンスターの強化だ)
小さく息を吐いて、明はスマホの画面から視線を移し、宙に浮かぶその画面へと目を向けた。
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現在の世界反転率:2.66%
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表示されたその青白い画面は、つい先ほど、明が呼び出したものだ。
この画面の呼び出し方も、奈緒から聞いていた。
何でも、レベルとスキル、ステータスの存在が明らかになってから、誰かが試しに『進行度』と口にした際に出現し、発見されたものらしい。
奈緒によると、この画面の数字は午前零時を過ぎるごとに1%ずつ増えているようだ。
(日付が変われば1%……。前は半日で1%だったから、確かに遅くなってるな)
その理由を、明はもう気が付いていた。
ミノタウロスを倒して気を失う直前。まるでウイルスに侵されたパソコン画面のように、次々と表示されていくその画面の中に〝ボスモンスターを討伐したことで、世界反転率の進行度が低下する〟という文言が表示されていたのを、明は確かに見ていたのだ。
そして、その画面を見たのは明だけではなかった。
明がミノタウロスを倒した直後、世界中の人々の目の前にはその画面が表示されていた。
当初はその画面の謎についても多くの議論を生んだのだが、世界反転率が1%を超えて、モンスターが強化されることを知らせる画面が表示されたことによって、生き残った人々は察した。
コレは時間だ。
人類に残された制限時間だ。
この反転率が進めば進むだけ、人類はより苦境に立たされる。
この世界で生き残りたければ、誰かしらが街に巣くうボスモンスターを殺さねばならないのだ、と。
(……モンスターが現れた街には必ず、一匹は強いモンスターがいる。そいつが街のボスで、そいつを殺さない限りは、反転率の減少は起きない。まずは、そのボスを殺すことに注力するべき、か。……この街で言う強いモンスターはミノタウロスだよな? アイツを殺した時に、世界反転率とやらが低下したって画面が出たから、間違いないだろ)
あのミノタウロスは、街に巣くうどのモンスターよりも群を抜いて強かった。
あの時はその理由も分からなくて、ただただそこに存在する理不尽に怒り狂ったものだが……。あれがボスだったと言われれば、その強さにも納得がいくものだ。
(それにしても、ボス、ね……)
心で呟き、明は眉間に皺を寄せる。
(あの画面の言い方だと、異世界が来た、っていうよりも……。世界中の街が、ゲームなんかでよくある〝ダンジョン〟になった、って言った方が正しいのか?)
その思考に対する答えは、未だに分からない。
けれど、分かっていることはただ一つ。
世界にはモンスターがあふれて、人間にはレベルとスキル、ステータスの概念が与えられたということ。
そして、死にたくなければ街に巣くうボスモンスターを倒し、自身を強化する時間を稼ぐしかないということだ。
(今はもう、反転率が2%を超えているけど……。奈緒さんに聞いても、二回目の強化が行われたって情報はまだ出てきてない。ということは――――)
パーセンテージごとに強化が行われると思っていたが、どうやらそうではないようだ。
どちらかと言えば、一定のパーセンテージが溜まった際に強化が行われると考えたほうが正しいのだろうか。
(その前に、次のボスを倒せばさらに進行度は下がるってことか)
ひとまず、現状で分かっていることはここまでだ。
明は大きなため息を吐き出すと、誰に言うでもなく呟いた。
「これから、どうするかな……」