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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
第一章 すべてのはじまり

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決着の先に



 目を覚まして、明がすぐに目の当りにしたのは、見知らぬ白い天井だった。

 次いで耳に届くのは、規則的な機械音に混じる誰かの悲鳴と騒ぎ声。漏れ聞こえてくるその内容を耳にするからに、どうやらモンスターとの戦いで負傷者が出たようだ。

 扉の外でバタバタと走り回る音を聞きながら、明は周囲へと目を向けた。


 そこは、小さな部屋だった。


 大きさは六畳ほどだろうか。部屋には小さなテレビ付きの台と、備え付けの洗面台があるだけのように見えた。ほんの少しだけ開けられた窓から吹き込む風が、中途半端に開け放たれた薄桃色のカーテンをパタパタと動かしていて、差し込む陽光が温かく室内を照らしていた。

 すぐ傍へと目を動かせば、架台に掛けられたいくつもの点滴バッグと、可動式の心電図モニターが目に入る。どうやら、規則的な機械音を発していたのはこのモニターらしい。

 そんなことをぼんやりと考えていると、そこでようやく、明は自らの口元が酸素マスクで覆われていることに気が付いた。



(……ここは)



 身体を起こそうと全身に力を入れるが、まったく力が入らない。

 息を吐き出し、明は仕方なくベッドへと身体を沈めた。


(どこかの病院みたいだけど)


 あれから、いったいどれほどの時間が経ったのか。

 室内へと差し込む日の光を見るからに、昼間であることは間違いないようだ。


(この世界にモンスターがあふれて、無事なところなんてあったんだな)

 と、明がそう思ったその時だ。


 ふいに扉が開いて、一人の女性が病室へと入って来た。

 その女性は、疲れた果てた表情で明の傍へと近寄ると、ぎしり、と置かれたパイプ椅子に腰かけて椅子を軋ませた。



「ふぅ…………」



 吐き出された彼女の吐息は重たい。

 その様子を、明がじっと見つめていると、ふと、その女性と目が合った。


「――――――ッ」


 途端に、その女性の瞳は大きく見開かれた。

 どうやら、明が目を覚ましているとは思ってもいなかったようだ。

 大きく見開かれた瞳は、みるみるうちに潤み始めて、やがてその口元が優しい笑みを浮かべる。



「なんだ、起きてたのか」


 明へと向けて口を開いたその女性は、七瀬奈緒だった。



「いつ、起きたんだ? 心配……したんだぞ?」



 言いながらも、奈緒はじっと見つめる明の視線に気が付いたのだろう。

 疲れたような、それでいて恥ずかしそうな顔になると、小さな笑みを浮かべて口を開く。


「こんな格好で悪いな。今、世界は大変なことになってるんだ」


 そう呟く奈緒の服は、至る所が擦り切れて、血が滲んでいた。いつも整えられていた髪は乱れて、よくよく見れば血が付着している。それが、何の血であるかなんて、考えなくても分かることだった。


「…………知ってます」


 明は、奈緒の言葉に向けて言った。

 久しぶりに声を出したからか、その言葉はひどく掠れていた。


「この世界が、どんなところなのかも。俺たちの身に、何が起きているのかも。ぜんぶ、全部……。俺は知っているんです」


 その言葉に、奈緒はまた驚いたように目を見開いた。


「それは……、その言葉は…………」


 と、奈緒は躊躇うように口ごもった。



 けれど、すぐに意を決したように奈緒は口元を引き結ぶと、明の目をまっすぐに見据える。


「それは、お前があの化け物と戦っていたことと関係があるんだな?」


 確信にも似た、確認の言葉だった。

 明は、その言葉に対してゆっくりと頷く。


「ええ……。そうです。俺は、あの場所にあの化け物が現れることを知っていました。そして、あの化け物がこの街の住人をいずれ皆殺しにすることも知っていました」

「だから、そうなる前にお前は止めたと?」

「そうです」

「そう、か」


 奈緒は呟き、口を閉じた。

 それから、しばらくの間、奈緒は何も言わなかった。

 明は、その表情をジッと見つめ続けて、やがて間を置いて口を開く。


「……奈緒さん」


 ゆっくりと、明は言う。



「聞いてほしい話があるんです」



 奈緒は、明の言葉に静かに頷いた。

 それはまるで、明がそう口に出すことを待っていたかのような仕草だった。


「少しだけ長いかもしれないですけど……。これは確かに俺が体験したことで、俺の知るすべてです」


 明はそう口に出すと、滔々と、これまでのことのすべてを奈緒に語った。

 奈緒は、明が語る間、何も言わなかった。

 ただただ、穏やかな顔で明の言葉のすべてを聞き終えて、やがて、ゆっくりと息を吐き出す。


「………………そう、か。タイムリープ、か」

「信じるんですか?」

「嘘なのか?」

「いえ……。でも、前にもこの話をした時、奈緒さんはすぐに受け入れていたから……」


 その言葉に、奈緒は笑った。

 ひとしきり笑って、それからその口元を綻ばせたまま、奈緒は言う。


「そりゃ、そうだろ。お前と私、どれだけ長い付き合いだと思ってるんだ。お前が私のことをある程度知っているように、私もお前のことをある程度知っている。お前は、こんな状況で冗談や嘘を言うような奴じゃないだろ」


 そして、奈緒は明の目を見つめた。



「ありがとう。私が今、この瞬間、この時。こうして生きているのも、お前のおかげだ」



 そっと、奈緒は明の頭を撫でた。

 優しい手だった。

 これまでの全てを労わるような、温かなぬくもりがそこにはあった。


「大変だったな」


 そのぬくもりに、明の目頭が一気に熱くなる。

 これまでに繰り返してきた苦労が、恐怖が、痛みが、まったく意味のないものなんかじゃなかったのだと、その言葉を耳にしてようやく明は理解する。


「……ッ、…………はい」


 小さく、明は頷いた。

 言葉が出なかった。

 言葉の代わりに、ただただ涙が流れ落ちた。

 それから、明は目頭を拭うと唇を震わせながらゆっくりと息を吐き出す。


「……でも、終わりじゃありません。これからが、始まりなんです」


 今、こうしている間にも、この世界のどこかでは〝誰か〟が死んで、モンスターに食われている。

 モンスターが現れた今、この世界が辿る未来は緩やかな破滅だ。

 レベルやスキルがあろうとも、この世界で生き残るのは想像を絶する過酷が付き纏う。

 死は常に隣合わせで、何かのきっかけ一つで命を落とすことだってザラにある。



 ――――それを、一条明はもう知っている。



「……奈緒さん。俺が倒れてから、どのくらいの時間が経ちましたか? この世界は、どうなりましたか」



 ミノタウロスはもういない。あの化け物が居ない以上、多少なりともこの世界は変化しているはずだ。

 だからまずは、この世界のことを知る必要がある。

 モンスターが現れて、日常が崩れたこの世界のことを。

 そうして、また生き足掻こう。

 いずれ訪れる世界の滅びまで。



 ――――諦めなければ、いつかはその未来が変えられることを、俺はもう知っているのだから。




これにて、【この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている】一章完結です。

拙いところも多々あったかと思いますが、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。



【もしもよろしければ、下記をどうかお願いいたします】


本作品の評価を、画面下にある『★★★★★』での評価を頂ければ幸いです。

なにとぞ、どうかよろしくお願いいたします。



一応、続きは考えてますがまだ書き終わっていません。

書き終わり次第に投稿しますので、よろしければブックマークに追加していただき、お待ちいただければ幸いです。




また、考えられる質問に事前にお答えします。

Q.電気あるの?

A.病院には災害時の非常用として、自家発電設備があります。


Q.モンスターあふれて大変なのに、治療を受けられる余裕があるの?

A.モンスターがあふれて世間が混乱するまで若干のタイムラグがあります。(深夜2時前後から本格化) それが起こる前に運ばれてるので、治療を受けることができてます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃめちゃめちゃ面白かった!!! 今後の話も熟読させていただきます!
[一言] すごく面白かった!応援しています!
[気になる点] 恐らく全身複雑骨折で内臓も破裂してそうだし、筋肉も裂けてる状態で何で死んでないんですかねこの人…
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