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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
第一章 すべてのはじまり

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VS ミノタウロス



 ――二十五度目。

 黄泉帰りによって目が覚めた明は、ゆっくりと息を吐き出した。


(……ついに、ここまで来た)


 心で呟き、明は拳を握る。

 それから、背後を振り返ると、そこにいた奈緒に向けて口を開いた。


「奈緒さん」

「っ、びっくりした。気付いていたのか」


 それまで止まっていた明が、急に振り返ったことに驚いたのだろう。

 奈緒はビクリと肩を震わせると声をあげた。

 明は、奈緒の顔をじっと見つめると、その口元に笑みを浮かべる。


「…………ありがとうございます。あなたの言葉があったから、俺はここまで頑張れた。あなたが居なければ、俺はあの時点でもう、何もかもを諦めていました」

「――――は?」


 奈緒は、眉間に深い皺を刻むと明を見つめる。

 おそらく、唐突にそんなことを言い出した明を訝しんでいるのだろう。

 それが分かったからこそ、明はまたその口元に笑みを浮かべて、席を立った。


「今は分からなくてもいいです。でも、全部が終わって、聞いてほしいことがあります」

「聞いてほしいこと? なんだ、それは」

「……今は、言えません。でも、アイツを殺した際には、必ず伝えます」

「殺すって――――、おい、一条!! いったい何を」

「行ってきます」


 明は、奈緒の言葉を遮って会社を後にした。

 背後では、奈緒が声を荒げて明の名前を叫んでいたが、明は最後まで振り返らなかった。






「さて、と」


 と会社を出た明は、小さく言葉を漏らす。

 行くべき場所はもう分かっている。

 用意すべきは武器だろうが、あの怪物を相手に太刀打ちできるような武器なんてこの世界には存在しないだろう。

 であれば、武器に頼らず肉弾戦を仕掛けたほうが手っ取り早い。


(そうだ、忘れずにポイントを割り振っておかないと)



「ステータス」


 呟き、明は画面を表示させた。




 ――――――――――――――――――

 一条 明 25歳 男 Lv1(30)

 体力:37

 筋力:77

 耐久:76

 速度:71

 魔力:6

 幸運:31


 獲得ポイント:10

 ――――――――――――――――――

 固有スキル

 ・黄泉帰り

 ――――――――――――――――――

 スキル

 ・身体強化Lv2

 ・解析Lv1

 ・魔力回路Lv1

 ――――――――――――――――――

 ダメージボーナス

 ・ゴブリン種族 +3%

 ・狼種族 +3%

 ・植物系モンスター +3%

 ・獣系モンスター +5%

 ――――――――――――――――――




 明は表示された自分のステータスへと目を通して、すぐにポイントの文字へと手を伸ばすと、すべてのポイントを使って新規スキルを取得する。


「よし」


 ポイントを割り振り終えて、表示されたその画面に明は頷いた。



(……これで、すべての準備は終わりだ)


 あとは、自分の持ちうる全てをぶつけるだけ。



「ふぅ…………」



 息を吐き出し、明は、ゆっくりと歩みを進める。

 すれ違う光景は、初めて黄泉帰りを経験したあの日を焼き増ししたかのように、何一つ変わりない。


 会社を出てから、その途中ですれ違う人々。

 帰り道で通り抜ける、歓楽街で酒に酔って笑う若者。

 夜の住宅街に響くような大声で痴話喧嘩をするカップル。


 全て、すべてが同じ。何一つとして変わらない、あの日の光景だ。

 明は、既視感だらけのその光景の一つ一つを目に焼き付けながら、ゆっくりと歩みを進めて、ついに辿り着く。



 住宅街の路地を照らす電灯の下。

 まるで、たった今、その場所に生み出されたかのように。人の背丈ほどの大きさがある戦斧を携えて、そこに佇む牛頭人身の怪物。

 ――チリン。と、明がその姿を確認すると同時に、画面が表示される。




 ――――――――――――――――――

 前回、敗北したモンスターです。

 クエストが発生します。

 ――――――――――――――――――

 C級クエスト:ミノタウロス が開始されます。

 クエストクリア条件は、ミノタウロスの撃破です。

 ――――――――――――――――――


 ミノタウロス撃破数 0/1


 ――――――――――――――――――




「――――よお」


 声を掛けた明の姿に、ミノタウロスが気付いた。

 いったい何者かと、そう問いかけているかのようなその視線に、明は小さく笑うと、着ていた上着を投げすてて拳を構える。


「今までの借りを、返しにきたぜ」

「フシュルルルル…………」


 戦闘態勢をとった明の姿に、ミノタウロスが嗤った。

 その笑みはまるで、明の姿を馬鹿にしているかのようだった。


「…………」


 明は、その笑みを見つめたまま、ゆっくりと息を吐き出す。

 手足が震える。身体が、心が、魂が、あの痛みと恐怖を覚えている。

 早く逃げろと、明の中では生存本能が叫びをあげた。

 また死にたいのかと、明の理性が制止を掛けてくる。


「――――――ッ!!」


 その全てを、明は力の限り奥歯を噛みしめて、封じ込めた。

 死に慣れた今でも、死ぬのは怖い。痛みにはなれず、あの苦しみを思えば今すぐにでも吐きそうだ。


 ――――けど、それでも。


 今ココで、このモンスターを倒さねば、この先の未来が訪れないことをもう知っている。

 このモンスターを倒さねば、この街の人間が確実に全滅することを知っている。

 引くわけにはいかない。望む未来は、この先にあるのだから。



「ふぅ…………」



 ゆっくりと息を吐き出し、明は自分の中でタイミングを計ると、一気に地面を蹴って飛び出した。



「ふっ!」



 間合いに入ると同時に繰り出すハイキック。

 風を切って振り抜かれた蹴りは、ミノタウロスに届かず空を切った。明の蹴りが届く直前、ミノタウロスが身体を引いて躱したのだ。


「ブモォオオオオオオオオオオオオオ!!」


 かと思えば、ミノタウロスは叫びをあげて、カウンターを放つようにその手に持つ戦斧を振り抜いた。


「――ッ!」


 寸前、明はその斧をしゃがみ躱す。

 それは、これまでに幾度となくミノタウロスと相対したからこそ分かる直感だった。


「――――!?」


 空を切った戦斧に、ミノタウロスが目を剥いた。

 どうやら、ミノタウロスはその一撃で勝利を確信していたらしい。

 明は拳を握り締めると、隙を作ったミノタウロスの腹へと向けて全力で打ち抜いた。


「俺が、何度テメェに殺されたと思ってやがる!!」


 拳はミノタウロスの腹部を捉えて深く沈み込む。

 今や、明の筋力は77。対する、未強化状態のミノタウロスの耐久は78。

 あれだけ開いていたステータス差は、もうほぼ存在していなかった。


「グ、ァ」


 叩き込まれた拳にミノタウロスが声を漏らした。

 初めて与えた、決定的なダメージ。

 その手応えに、明の口元に笑みがこぼれる。


(効いてる!)


 すぐさま、明は追撃を仕掛けようと反対の拳を握りしめた。

 けれど、ミノタウロスもそう簡単に同じ攻撃を受けるつもりはない。



「ブォオオオオオオ!!」


 叫び、肉迫した明を弾き飛ばすようにミノタウロスが腕を振るった。



「――ッ!」



 その攻撃を察した明は、すぐさま背後へと跳び退った。

 直前にまで明が立っていた場所へとミノタウロスの腕が通り過ぎて、凄まじい風切り音と風が巻き起こる。

 その風圧を、明は顔を覆って防ぐと、すぐさま横へと跳んで地面を転がった。

 ――直後、凄まじい衝撃と共にコンクリートの地面が割れた。

 それが、ミノタウロスの振るった戦斧が地面を捉えたものだと、明はすぐに気が付いた。


(クッソ、やっぱりキツイな!)


 心の中で、明は舌打ちをする。


(確か、未強化状態で筋力が190……だったか? 俺の耐久が76だし、一撃でも食らえばまず死ぬと思ったほうがいいな)


 現状、明が唯一ミノタウロスに迫ったステータスは、筋力のみだ。

 一撃も受けずに攻撃を続ければ勝てる相手かもしれないが、それでも、厳しい戦いであることには変わりがなかった。


「くっ」


 身体を起こした明は、すぐにまた背後へと跳び退った。

 それはこれまでミノタウロスに殺され続けたことによる直感に過ぎなかったが、その経験が今の明の命を辛うじて繋ぎとめていた。

 跳び退った直後に、声を上げたミノタウロスが横薙ぎに腕を振るった。

 その際に、ミノタウロスの指先が明の身体を掠めて、その衝撃で明は吹き飛ばされる。


「が、ァ――」


 激しくブロック塀へと身体を叩きつけられて、明の息が止まった。

 口の中に広がる鉄の味に、明は舌打ちを漏らした。


「くっそ」


 唾と混じった血を吐き出し、すぐさま明は横に転がる。

 その直後、凄まじい風圧が明の身体を叩いて、その身体をまた吹き飛ばした。



(…………さすがに、限界か)



 このままでは、また殺される。

 それを、明は本能的に悟っていた。


「ふー……」


 息を吐き、明はミノタウロスを見つめる。

 ミノタウロスは、地面に転がる明を見て、その口元を歪めて嗤っていた。

 それは、どこまでも人間を馬鹿にした、醜悪な笑みだった。

 まるで絶望を与えるかのように、ゆっくりとした動作でミノタウロスが明へと近づく。


「ゥウウウォオオオオオオッ!」


 そして、勝利を確信するかのように、ミノタウロスは吼えた。

 手にした戦斧を振りかざし、明の身体を真っ二つに引き裂こうとその両腕に力を込める。

 明が、その言葉を呟いたのはそんな時だった。



「『疾走』」


 ――チリン。




 ――――――――――――――――――

 スキル:疾走を使用します。

 効果残り時間:60.00秒

 ――――――――――――――――――




 明がその言葉を呟くと同時に、現れる画面。

 直後、影が踊った。

 いや、そう感じさせるほどの素早い動きで、明が飛び出したのだ。


「ぉおおおおおおおおッ!!」


 叫び、明はミノタウロスの腕へと目掛けて飛び掛かる。

 そうして、戦斧を構えたその腕を思いっきり蹴り飛ばすと、その軌道を大きく変えた。

 振り抜かれる戦斧は軌道を変えたまま、まっすぐに空を切り裂く。

 その影響で体勢を崩したミノタウロスに向けて、明はさらに地面を蹴って飛び出すと、その腹部に向けて握り締めた拳を振り抜いた。


「ガ――」


 ミノタウロスの息が止まり、身体が折れた。

 すかさず明は、地面を蹴って跳び上がると振り上げた踵をその鼻先へと振り落とす。


「ォオオオオオオオオオオオオオ」


 骨を砕く感触と、夜の住宅街に響くミノタウロスの絶叫。

 確実に与えたそのダメージに、明はニヤリとした笑みを浮かべてミノタウロスを見つめた。


「……さあ、ここからだ」


 その言葉に、ミノタウロスが怒りの咆哮を上げる。

 それは本格的に始まる、互いの生死を賭けた戦いを告げる咆哮だった。


――――――――――――――――――

疾走Lv1

 ・アクティブスキル

 ・自身の魔力を消費し、一分間、自身の速度を上昇させる。上昇する値は、消費後の自身の魔力ステータスの値×疾走のスキルレベル×10で固定される。

 ・現在、スキル使用に消費される魔力量は1です。

――――――――――――――――――


ダメージボーナス発生中

・獣系モンスター +5%

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― 新着の感想 ―
[一言] 奈緒「もしもし警察ですか。会社の部下が突然アイツを殺すと言って飛び出して行って・・・」
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