初めてのスキルレベルアップ
それから数分後のことだ。
明は、小売店の前に置かれた自販機を宿主として蔦を伸ばす、カニバルプラントの姿を早くも発見していた。
(よし、やるか)
気合を入れるように、息を吐き出す。
手に持つ石斧を握り締めると、明は地面を蹴って、一気にカニバルプラントへと飛び掛かった。
「ふっ!!」
小さな掛け声と共に腕を振るう。
打ち付ける硬い感触と共に暴れ出すカニバルプラントの攻撃を避けて、また前に飛び出し腕を振り払う。
もはや、慣れ始めた反復行動だ。
死角から受ける攻撃への警戒と注意を最大限に。体力を温存するためにも、回避する身体の動きはなるべく最小限に。
何度も、何度も、同じ行動を繰り返して、明は無心となって石斧を振るい続けた。
そうしているとふいにカニバルプラントの身体が大きく震えて、くたっ、という音が聞こえてきそうな脱力を伴って、その身体が一気に枯れ落ち始めた。
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レベルアップしました。
ポイントを獲得しました。
消費されていない獲得ポイントがあります。
獲得ポイントを振り分けてください。
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「ふー……」
枯れ落ちたカニバルプラントを見つめて、明は息を吐き出した。
ぐいっ、と流れ落ちる額の汗を拭って、明は表示された画面へ向ける。
(ちょうどレベルアップだったか)
これで、明の総合レベルは12。身体強化のスキルレベルアップが出来る目標レベルまで、残すところ3レベルとなった。
(ひとまず、ここからまたレベリングは頑張るとして……。ミノタウロスの出現には注意しないとな)
出会えばまず間違いなく即死だ。
明は、息を吐き出して「よし」と気合を入れると、再びレベリングへと乗り出したのだった。
明のレベリングは順調に続いた。
レベルが上がり、ステータスが僅かながらでも伸びた影響だろうか。以前と比べれば攻撃を受ける回数も減り、時には一切のダメージを負うことなくカニバルプラントを討伐することが出来るようにもなってきた。
もちろん、その影響の中にはカニバルプラントとの戦闘にも慣れたこともあったのだろうが、やはりステータスの差というのはなかなかに大きいな、と明はカニバルプラントの戦闘を通じてひしひしと感じ取っていた。
そして、数時間後。
その瞬間は、ついにやってきた。
――――――――――――――――――
レベルアップしました。
ポイントを獲得しました。
消費されていない獲得ポイントがあります。
獲得ポイントを振り分けてください。
――――――――――――――――――
「よしっ!!」
ようやく現れたその画面に、明は思わず声を上げて拳を握り締める。
それから、深く長い息を吐き出すと、力尽きるようにしてその場へと座り込んだ。
(これで、やっと…………総合レベル15だ)
それはつまり、目標としていた獲得ポイント20に到達したことを示していた。
スマホで時刻を確認すると、午後十二時少し前。
今回の始まりにおける総合レベルが8だったことを考えると、半日ほど集中してレベリングを行って、ようやく7レベル上げられたことになる。
(レベリングの速度はまずまず、ってところか? 比較対象が、前回のゴブリンだからなんとも言えないけど)
そう思いながらも、明は休憩もほどほどにすると、さっそくステータス画面を呼び出した。
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一条 明 25歳 男 Lv8(15)
体力:17
筋力:32
耐久:31
速度:26
幸運:16
獲得ポイント:20
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固有スキル
・黄泉帰り
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スキル
・身体強化Lv1
・解析Lv1
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ダメージボーナス
・ゴブリン種族 +3%
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(筋力、耐久が30越えか。これが、どれだけ伸びるのか楽しみだな)
明は、胸の内で声を漏らして口元に笑みを浮かべる。
それから、スキル欄に表示された身体強化の文字に触れると、詳細を呼び出した。
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身体強化Lv1
・パッシブスキル
・筋力、耐久、速度が強化される。強化の値はレベルに依存する。
獲得ポイントを20消費して、スキルのレベルを上げますか? Y/N
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選択はもちろん『Y』だ。
明の指が触れた瞬間、画面はすぐに切り替わった。
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スキル:身体強化Lv2を取得しました。
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スキル獲得を示すその文字に、明の口から自然と息が漏れる。
同時に、画面を見ずとも分かるその感覚に、明の口元からは笑みが止まらなかった。
(すごい。すごいッ!! 身体強化のスキルを取得した時以上だ。まるで、別人の身体に生まれ変わったかのように感じる)
いったい、ステータスの数値はどのくらい伸びたのだろうか。
明は、いち早くその結果を自分の目で確認したかった。
「……っ」
一度、ゆっくりと生唾を飲み込む。
知らず知らずのうちに、明の心臓はバクバクと跳ね上がっていた。
それは、これから表示されるステータスへの期待でもあったし、ポイント20という、これまでのレベリングとクエストによる報酬のすべてを失った喪失感と、初めてのスキルレベルアップがどれほどの恩恵をもたらすのか分からない不安からくるものでもあったし、初任給で思い切って高い買い物をした後を思い出すような、胸の内に広がる高揚感でもあった。
「ステータス」
小さく、明は呟いた。
そして、その画面は明の前に再び表示された。
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一条 明 25歳 男 Lv8(15)
体力:17
筋力:62(+30Up)
耐久:61(+30Up)
速度:56(+30Up)
幸運:16
獲得ポイント:0
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固有スキル
・黄泉帰り
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スキル
・身体強化Lv2
・解析Lv1
――――――――――――――――――
ダメージボーナス
・ゴブリン種族 +3%
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「――ははっ」
表示されたその画面に、明の口から笑いが漏れた。
いや、笑うしかなかった。
「マジか、マジか!! ポイント20の消費で筋力、耐久、速度の三つがそれぞれ30の上昇? ヤバすぎだろ!!」
想像以上の結果に、明の声が大きくなる。
やはり、他のスキルを取得するのではなく、このスキルのレベルアップにポイントの全てを注ぎ込んだのは間違いなかったのだ。
(体力は伸びないから油断は出来ないけど、耐久が上がればその分、攻撃を受けてもすぐには死ななくなる! このステータスなら、レベリングの相手はボア――いや、ブラックウルフを相手にしてもいいかもしれない)
明の出会ったモンスターの中で、一番レベルの高いモンスターは、ミノタウロスを除けばレベル17のブラックウルフだ。
解析スキルによって確認したステータスでは、速度が60もあるモンスターだったが、今回の身体強化のスキルレベルアップで明のステータスはそれと差が無くなっている。
以前は遠目にその姿を見ただけで死を覚悟し、必死になって姿を隠してどうか見つからないようにと祈ることしか出来なかったモンスターだが、この分ならば十分に相手が出来るだろう。
――今すぐはまだ無理だけど、これならばいつか、ミノタウロスにだって勝てるかもしれない。
そう、明が考えた時だった。
――チリン。
と、まるで盛り上がる明に水を差すように、その画面は唐突に明の前へと現れた。
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世界反転率が1%を超えました。
世界反転率が1%を超えたため、モンスターが本来の力の一部を取り戻します。
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