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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
第一章 すべてのはじまり

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すげー燃えてる



「いッ、たた……」


 明はその場に座り込むと、ぼんやりとカニバルプラントの死骸を見つめる。

 つい先ほどまではみずみずしい緑色をしていたその身体は、その体力が無くなると同時に萎れ、かと思えば急速な勢いで枯れ落ちていた。

 ビルの壁へと伸ばしていた蔦の触手も、本体が枯れ落ちると同時に茶色く変色し乾燥している。試しに枯れた蔦の触手を手に取って折ってみると、パキリと軽い音を響かせながら簡単に折ることが出来た。


「ふむ……」


 思案する声を出して、明はしげしげとその枯れた触手を見つめた。



(完全に乾燥しているな。……これが、武器制作や防具制作のスキルで使うモンスターの素材になったりするのか?)



 いや、でもこの場合、素材というよりも死骸と言った方が正しいような気もする。

 明は手に持ったカニバルプラントの蔦を見つめて、分からないけどひとまず持っておくか、と結論を出すと、リュックの中へと枯れた蔦の一部を入れた。


(それにしても……この死骸、何かに使えないか?)


 例えば次、相手にするカニバルプラントに向けて、この死骸に火をつけて投げつけてみるとか。

 考えながら、明は枯れた蔦を手でパキパキと折り、細かくしていく。そうして、今度はまた別の蔦の触手を手に取るとへし折り、程よい大きさへと長さを整えた。考えていたことを実行するためだ。


「どうだ?」

 呟き、明はライターを取り出すと枯れた蔦のその先端へと火を点ける。


「おお、良く燃える」


 瞬間、勢いよく燃え上がるその死骸に、明は驚きの声を出した。


(……うん。これなら、コイツを使って次のカニバルプラントを相手にするのもいいかもしれない)


 そんなことを考えながら、明が一度火を消そうと燃え盛る触手の死骸を振った時だった。



「ん?」



 ――火が消えない。

 いやそれどころか、一度火が点いたその死骸はまるで水を得た魚のように、激しく炎を揺らしながら瞬く間にその姿を灰へと変えていく。


「っ、あっつぅ!」


 たまらず、明は握り締める死骸を放り投げた。

 明としては、それは咄嗟の行動に過ぎなかったが、如何せん放り投げる場所が悪すぎた。

 炎に包まれた死骸は別の乾燥した触手に当たって、その火の手は瞬く間に広がっていく。



「………………」



 カニバルプラントの死骸のすべてが、一瞬にして炎に包まれるのはものの数秒後のことだった。

 轟々と燃え上がる炎と黒煙を見ながら、明は呆然と立ち尽くす。



 そうして、立ち尽くしながらも空へと立ち昇る黒煙を見て、

(すげー燃えてる。下手な着火剤より火の点きはかなり良いな)

 と場違いにも呑気な感想を思い浮かべていた。



 そして数秒後、ハッとした明はようやく現実を見据えた。



「って呆けてる場合じゃねぇ!! 消火しないと!!」


 幸いにも、カニバルプラントが巣くっていた場所は雑居ビルの間の路地だ。周囲に引火しそうなものは何もない。早いうちに鎮火が出来れば、被害も少なくて済むだろう。

 明はすぐさま駆け出し、消火に使えそうなものを探す。

 けれど、それが中々見つからない。

 ならば仕方がないと、明は、目についた店舗のガラス窓を割って入り、けたたましい警報が鳴り響く中で見つけた消火器を引っ掴むようにして手に取った。

 そうして、明が消火器を片手に現場へと戻った時にはもうすでに、出火から数分が経過したところだった。


「――ッ!!」


 すかさず、明は消火剤を噴射。

 一瞬にして明の視界は白く染まって、思わずゴホゴホと咽込んだ。

 そうしながらも必死に消火活動に努めて数十秒。もともとカニバルプラントの死骸以外に燃えるものが無かったからか、無事に鎮火したその現場に明は心の底から息を吐き出していた。


「よ、よかった……。燃え広がらなくて」


 自然界では考えられない速度での火の回り方だった。

 これが、室内や引火物の多い場所で起こっていたなら、大変なことになっていたかもしれない。


(これ……。逆に火を使って倒していたらヤバかったかもな。火で倒した後、死骸になったコイツの身体にすぐ引火して、辺り一面が一気に火の海に――なんてことになりかねない)


 火は弱点だが、火を使えば周囲が文字通り火の海に変わる。それはまるで、導火線の点いた爆弾そのものだ。


(火を使えば楽に倒せる。けど、それをすれば倒した後が面倒、か)


 やはり、絡め手ではなく直接攻撃をして倒すしかないようだ。

 そのことに、明はため息を吐き出すとぐっと伸びをして、ゆっくりと立ち上がった。



「だったらまずは、武器が必要、か」



 包丁でもカニバルプラントの相手は出来るが、その耐久には不安が残る。何せ、数回振るっただけで刃が折れるほどなのだ。

 その理由としては、包丁を振るう明自身の、以前とは比べ物にならないほど上昇した筋力ステータスの影響、モンスターが持つ耐久ステータスの影響など様々な要因が絡んでいるのだが、この時の明はそれに気が付かなかった。


(……とりあえず、包丁以外の武器を用意するところからだな)


 長く使うことが出来て、調達がしやすい。

 この二つのことを考えると、やはり前世と同じようにゴブリンから武器を奪ったほうが手っ取り早いだろうか。

 そんなことを考えて、明はさくっと思考を切り上げる。


「ゴブリンか……。確か、この時間は……そうだ。あの辺りにいたな」


 呟き、明は前世の記憶を思い出しながら歩き出す。

 それから五分後。

 明は三匹の群れたゴブリンと遭遇し、その目的通り、武器を調達することに成功したのだった。


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