カニバルプラント
「~~~ッ!!」
近づく明に、カニバルプラントはすぐに気が付いたようだ。ビルの側壁に伸ばされていた蔦は、明が攻撃範囲に入ったと判断するや否や一斉に獲物を捉えようと蠢きだした。
伸ばされる蔦を避けて、時には跳んで、さらには迫りくる蔦へと包丁を振るって斬りつけ、ぐっと両足に力を入れてカニバルプラントの身体へと一気に近づく。
「ふっ!」
気合の声と共に明は包丁を突き出した。
――ブツリ、と。硬い手応えと共に伝わる、何かを破る感覚。
「~~~~~~~~~~~~ッッッ!!」
悲鳴はなくとも、カニバルプラントが痛みに悶えたのがすぐに分かった。
明は突き刺した包丁を引き抜くと、すぐにまたその身体へと突き刺す。
「~~~~ッ!!」
カニバルプラントがさらに痛みで身悶えた。
傷つけられた身体から勢いよく噴き出す紫色の汁を、明は後ろに跳び退って回避する。それから再度、追撃を行おうと明が両足に力を込めたその時だった。
「――っ!」
息が止まるほどの衝撃と、背中に走る激しい痛み。
「くっそ!」
すぐに、カニバルプラントからの攻撃を受けたのだと察した。
舌打ちと共に明は素早く振り返り、同時に全力で包丁を振るう。
刃は追撃を仕掛けようとしていた触手にも似た蔦を捉えて、その刀身を折りながらもカニバルプラントの蔦を斬り飛ばした。
(クソッ!! さすがにゴブリン以上のモンスターになると、包丁の耐久が持たないか)
今回の人生ではゴブリンから武器を奪っていない。準備が浅かったかと激しい後悔を明は浮かべたが、もう既にカニバルプラントへ挑み、戦闘が始まった後だ。メイン武器の他、サブの武器を用意していなかった自分自身へと明は舌打ちを漏らすと、すぐに攻撃手段を切り替えた。
「ッ!」
足を踏み込み、ぐるりと腰を捻る。握りしめた拳に遠心力を乗せて、明は全力でその拳を背後へと向けて振り抜いた。
サンドバッグを直に殴りつけたような感触。確実にダメージを与えたという感覚は薄く、けれども確かな衝撃に、カニバルプラントの身体が震えた。
「ぅうううぉおおおおおッ!!」
叫び、明はさらに拳を握り締めて、カニバルプラントの身体へと振り抜いた。
その間にもカニバルプラントは蔦を振るって明を打ちのめそうとしてくるが、一度不意打ちを受けた明はそれを読んでいた。
「ふっ!」
拳を振り抜くと同時に、明は素早く横っ跳びに回避する。
その瞬間、直前まで明が居た場所へとカニバルプラントの蔦が迫り、何本もの蔦が一斉に何もない空間を捕らえて蜷局を巻いた。どうやら、カニバルプラントは明を捕まえようとしたらしい。
「――――ッ」
その光景に、明は前世でカニバルプラントに捕らえられた人の姿を思い出して、ゾクリとした感覚を覚えた。
カニバルプラントは食人植物だ。捕らえられた人々があの身体の中へと連れ去られるのを、明は前世で幾度となく見ている。
(……捕まるのはマズい。いくら何でも、今の俺がコイツの蔦を素手で引きちぎるのは無理だ。捕まらずに、コイツを倒さないと)
歯噛みをして、明は地面を蹴ってまた前に飛び出す。
そうしてまた明は拳を振るい、カニバルプラントの身体を殴打した。
一撃を与えて、逃げて。一撃を与えて、また回避する。時には反撃を受けながらも、幾度となくその攻撃を繰り返し――――戦闘が始まって、十数分が経過した頃。ようやく、明はカニバルプラントの討伐に成功した。
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レベルアップしました。
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獲得ポイントを振り分けてください。
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「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………。や、やった……。レベル、アップだ…………」
何度も繰り返したヒット&アウェイの行動に、肩で息をしながら明は呟く。
今や、明のレベルは数十匹ものゴブリンを倒してようやく一つ、レベルが上がるかどうかという状況だ。それを考えれば、たった一匹のカニバルプラントの討伐でレベルが上がるのはかなり嬉しい。
それがたとえ、ゴブリンを相手にするよりも肉体的に大変な、反復行動が必要な相手だったとしても。
「と、とにかく……。コイツでレベリング、だな」
額の汗を拭い、明は言った。カニバルプラントを殴り続けたからか、いつの間にか明の拳の皮はずる剥けになっていた。
身体に出来た傷はそれだけではない。
何度もカニバルプラントの蔦で打ち付けられた明の身体には太い蚯蚓腫れが出来ていて、さらにはところどころの皮膚が裂け、血が滲み流れている。少しでも身じろぎすれば痛みで顔が引きつり、明の口からは深い息が漏れ出た。




