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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
第一章 すべてのはじまり

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五度目

 


「――――う。――じょう! おい、一条ッ!」


 いつものように呼び掛けられるその声に、明は再び蘇ったのだとすぐに察した。



(……五度目、か)



 まず、明は今回も無事に生き返ったことに安堵の息を吐き出した。

 それからすぐに、前回の死因へと意識を向ける。


(ミノタウロスのレベルは45。ステータスは、今の俺の4倍……いや5倍ぐらいか。やっぱり、アイツに会えばまず間違いなく死ぬと思った方がいい)


 この人生で考えるべきは、ミノタウロスの行動だろう。

 餌――もとい人間を求めて行動しているのであろうミノタウロスに出会わないようにしなければならない。

 そう考えて、明は自らのステータス画面を呼び出す。


(ステータスは、前回の内容と変わりないな。目が覚めてからトロフィーを獲得した表示もないし、以前のように黄泉帰りで獲得したものはないみたいだ)


「おい、一条!! 聞いているのか!?」


 あまりにも無視し続けていたからだろう。明の背後から呼び掛けられる声が一段と大きくなる。

 その声に、明はようやく思考を切り上げると背後を振り返った。


「……七瀬主任。俺、帰ります。主任も、すぐに帰ったほうが良いですよ。ああそれから、帰りに水や食料などを買い込んでおくことをオススメします」

「は? 一条、お前……何を突然――――」

「それじゃあ、俺……失礼します」


 怪訝な顔となる奈緒の言葉を、明は無理やりに遮った。

 手早く荷物を纏めて、明は席を立つ。

 すると、その背中に向けて奈緒は声を荒げた。


「おい、一条!!」


 その叫びに、明は足をピタリと止める。

 それから、くるりと振り向くと奈緒の顔を見つめて、ゆっくりと口を開いた。


「……これは、同じ会社の部下からの言葉ではありません。中学からの古馴染みの、あなたとは長い付き合いの後輩としての言葉です。…………奈緒さん。食料と水を出来れば数日――いや一週間分、買って帰ってください。そして、何が起きても簡単には外に出ないように。……それじゃあ、失礼します」

「一条ッ!! おい、一条!!」


 掛けられる声に、明は振り返らなかった。

 これから起きる出来事を知っていたから。

 五度目の命、これからの世界は自分一人でも生き残ることが難しい世界だと知っているから。

 明は、たとえ彼女との付き合いが長くても、共に行動する選択肢を取ることが出来なかった。


「日付が変わるまであと少し、か」


 この世界にモンスターの出現が確認されるのは、午前零時を過ぎてからだ。

 それまでは四度目と同じく、物資の買い込みをしておくことにしよう。

 そう心に決めて、明はまだ日常である夜の街へと足を踏み出したのだった。




             ◇ ◇ ◇




 物資を溜め込んで、無人となった会社に引きこもり、その時を待つ。

 そうして、街中に響くサイレンと銃声がなり始めた頃、ようやく明は行動を開始した。


「……よし、始めるか」


 時が来るのを待つ間、明は五度目の人生における目標を決めていた。


 まず第一に、何が何でも生き残ること。これは四度目に掲げた目標と変わりがない。そしてその目標は何度蘇ろうが変わることがない、明にとっての絶対目標だった。


 第二に、レベリングに専念すること。

 モンスターが出現し、滅びた世界で生き残るために必要なものはレベルとステータス、スキルであるのは間違いない。そのうえで、最も厄介となるのがミノタウロス――いやミノタウロスと同等もしくはそれ以上の強さを持つモンスターの存在だ。

 モンスターにとっての餌が人間である以上、あの世界で生き残るにはレベリングが必要不可欠となる。ミノタウロスのレベルは45。現状の、明の総合レベル――つまりは引き継ぎありでのレベルは8。ステータスも、レベルも、圧倒的な開きがあった。


(ゴブリンではもうレベルが上がりにくい。クエストは今回発生していない……。と、なれば前回予定していた通り、カニバルプラントからレベリングを始めるとするか)


 前回、ゴブリンの次にレベリング相手にしようと決めていたモンスターだ。

 前回の記憶から、会社周囲のカニバルプラントの出現場所はだいたい分かっている。動くことも出来ないモンスターだから、今回も同じ場所に居るに違いない。

 明はそう考えて、拠点となった会社を後にすると、モンスターの出現に騒ぐ街を歩き、雑居ビルが立ち並ぶ路地へと足を進めた。


(――――いた)


 ほどなくして見つけたその姿に、明は視線を鋭くした。

 ビルそのものを宿主とするかのように縦横無尽に伸ばされた蔦と、だらり、と地面まで垂れ下がったウツボカズラによく似たその身体。壺のような身体は大人ほどと大きく、その攻撃範囲に足を踏み入れた途端に動き出すのを、明は前世の記憶から知っていた。


「さて」


 呟き、明はリュックの中へと手を突っ込むと、コピー用紙とライターを取り出す。

 カニバルプラントを相手に戦うと決めてから、事前に用意していたものだ。


「見た目が植物なコイツは、火に対してどんな反応を見せるかな」


 言って、明はコピー用紙に火を点けた。

 瞬く間にコピー用紙は燃え上がり、明はその火が大きくなるのを確認すると、それを張り巡らされた蔦が集まる場所へと無造作に投げ込んだ。


「~~~~~~ッ!」


 瞬間、その火を嫌がるようにして蔦が蠢いた。

 うねうねと動く蔦はその火を避けるようにしてスペースを開けて、やがてその動きを止める。

 どうやら、その見た目通り火が弱点らしい。


(何人かで、逃げられないよう火炎放射器とかで囲んで焼き払えば、あっという間に勝てそうだな)


 もちろん、手元にあればの話だ。

 そんなものは持っていない明は、ため息を吐き出すとすぐに気合を入れ直して、今度はリュックの中から包丁を取り出すと、張り巡らされた蔦が動き出すギリギリまで近づき、その刃を振るった。


「~~~~~~ッ!!」


 まさか、痛覚でもあるのだろうか。刃が蔦を傷つけると同時に、その蔦は激しく身を捩るように蠢き、傷ついたその体表から紫色の体液を辺りへと飛ばした。

 明は素早く後ろへと退避すると、蠢く蔦と共に飛んでくる謎の汁を避けて、カニバルプラントの様子を観察する。


(……蔦、というよりかはまるで触手だな。動きは速い――が、まだ対応できる)


 笑い、明は包丁を構えて腰を落とした。



「ふー……」



 息を吐き出し、止める。

 そして、明は一気にカニバルプラントの元へと駆け出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 仲間とレベリングしたら効率はどうなるのか、とか色々試した方が良い気がするけど毎回説明するの煩わしいしなぁ
[一言] たかが紙一枚の火に怯えるモンスターへの火炎放射機なら、定番の整髪スプレーとライターで行けるのでは
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