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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
7章

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348/351

パリィ

 明はドアから離れ、リビングに戻った。


「リリスライラです。無視してください」


「リリスライラ?」


 アーサーが首を傾げた。


「昨夜、SNSで警告した邪教組織です。異世界から来た魔王崇拝者たちで、この混乱に乗じて勢力を拡大しようとしている」


 明は窓から外を確認した。スーツの男はまだ玄関前に立っている。しばらくすると、諦めたのか隣の家へと移動していった。


「あんな普通の格好で……」


 オリヴィアが不安そうに呟いた。


「俺たちと同じ見た目でも、中身は魔王に魂を売ったクズですよ。見た目に騙されないようにしてください」


 明は冷たく言い放った。過去の周回で、リリスライラがどれだけの被害をもたらしたか、その記憶が蘇っていた。


「アイツらの動向は気になりますが、今は相手にしている場合じゃない。アーサーさん、少し休んだら、午後から軽い訓練をしましょう」


「訓練?」


「ステータスが上がっても、身体の動かし方を知らなければ意味がないでしょ。基本的な回避の仕方、武器の扱い方を覚えてもらいます」


 明はそう言うと、キッチンへ向かった。


「お腹も空いているでしょう。食材とキッチンをお借りしても良いですか? 何か作りますよ」


「あ、私が」


 オリヴィアが立ち上がろうとしたが、明は手で制した。


「奥様は休んでいてください。回復薬を飲んだとはいえ、まだ本調子じゃないはずです」


 明は冷蔵庫を開けた。停電はまだ起きていないようで、中の食材は新鮮だった。卵、ベーコン、野菜。簡単な昼食を作るには十分だ。


 料理をしながら、明は思考を巡らせた。


(リリスライラが動き始めたか。SNSでの警告が効いているのか、動きは慎重になっているようだが……)


 フライパンでベーコンを焼く音が、静かな家の中に響く。その音を聞きながら、エマが恐る恐るキッチンに入ってきた。


「あの、お手伝いします」


「ありがとう。じゃあ、お皿を出してもらえる?」


 エマが食器棚から皿を取り出している間に、明は手早く料理を仕上げた。ベーコンエッグとサラダ、トーストという簡単なものだが、この状況では贅沢な食事だった。


「いただきます」


 食卓を囲んで、つかの間の平穏な時間が流れる。エマは両親の隣で、少し元気を取り戻したように見えた。


「一条さん」


 食事の途中で、オリヴィアが口を開いた。


「あなたは、どうしてこんなことを? 見ず知らずの私たちを、危険を冒してまで助けた理由は何ですか?」


 明は箸を置いた。


「俺の、個人的な理想の世界を叶えるためです」


「理想の世界?」


 アーサーが不思議な顔をした。


「はい。俺は、誰もが笑える世界を目指しています。こんな理不尽だらけの世界ではなく、誰もが笑って明日を迎えることができる世界を、俺は見たい。そのために俺は何度もこの世界をやり直している」


 明は窓の外を見た。穏やかな住宅街の風景が、まるで嘘のように平和に見える。


「あなた達を助けたのは他でもない。あなた達の悲劇が、より多くの悲劇を招くことになるからだ」


「より多くの悲劇……」


 アーサーは呟くように言って、明の視線を追った。


「想像もつかないな、私たちの身に起きたことが、より多くの人を悲しませることになるなんて」


「当然です。その未来はもう、訪れないんですから」


 明は苦笑した。


「信じられない話でしょうが、これが真実です」


 重い沈黙が流れた。やがて、アーサーが口を開いた。


「分からないことだらけだが、一つだけ確かなことがある。君は命の恩人だ。それだけで十分だよ」


「ありがとうございます」


 明は小さく笑って、頭を下げた。




 食事を終えると、明はアーサーを庭に連れ出した。


「まず、基本的な身体の動かし方から始めましょう」


 明は亜空間から暴虐の黒刃を取り出すと、それを構えて見せた。


「アーサーさんは先ほど渡した短剣を構えてください。武器を持つ時は、力を入れすぎないように。ガチガチに握ると動きが硬くなります」


 アーサーが明の真似をする。

 明は説明と実演を続けた。


「攻撃をするときは腕だけの力で斬り込まないように。肩、背中、腰、足。すべての動きは連動しています。そして、これが一番重要なことですが、俺たちの武器種は短剣です。間合いは短く、武器の攻撃力は低い。斬撃は長剣に劣り、刺突は槍に劣ります」


「だが、他の武器にはない利点もあるんだろう?」


「もちろんです」


 こくりと明が頷く。


「短剣の利点は、他の武器よりも軽量で取り回しが簡単であることです。素早い攻撃や連続攻撃に適しているし、軽量だからこそ、戦闘中の疲労も少ない。長期的な戦闘になれば、スタミナの消費がもっとも少ない武器とも言えます」


「なるほど」


「あとは、接近戦に有利な武器です。長剣や槍のようなリーチはないですが、至近距離での制圧力は高く、投げ技や組み技との相性が良い。捕縛からの急所狙いなど、攻撃手段は多岐に渡ります」


「……敵の攻撃を防ぐ手段はあるのか? クイーンビーといったか? あの蜂の化け物と戦う時、君は戦斧を盾代わりに使っていたじゃないか。レベルアップと『身体強化』スキルで能力値が増えたとはいえ、私はずぶの素人だ。短剣だけで敵の攻撃を防ぐのは難しいと思うぞ。」


「短剣でも敵の攻撃は防げますよ」


 明はそう言うと、アーサーへと向き直った。


「ここからは実践といきましょう。その短剣を使って、俺を攻撃してください。攻撃するときは、先ほど説明した身体の動きをなるべく意識して。俺は攻撃をしないので、安心して打ち込んできてください」


「実践って……本気か? 下手すれば怪我するぞ」


「大丈夫ですよ。怪我はしませんから」


「……何かあっても恨まないでくれよ」


 アーサーはそう言って小さくため息を吐き出すと、地面を蹴って飛び出した。



 ひゅんっ!



 空気を切り裂く音が響き、鋭い切先が明に迫る。明は、迫る短剣の軌道を見極めると、手に持つ刃をタイミングよく振り払った。



 キィン!



 金属と金属がぶつかる音を響かせて、アーサーの振るった短剣が弾かれた。流れた短剣の軌道に合わせて、アーサーの上体が浮かび上がる。


 明は隙だらけのアーサーの首筋に指先を押し当てると、小さく笑った。


「――これが、短剣の防御方法。パリィです」


 ――――――――――――――――――

 パリィ

 

 ・分類:武技(システム外スキル)

 ・異世界人が所持する剣術の一つ。相手の武器の軌道に合わせて、タイミングよく武器を振るうことで攻撃を弾くことが出来る。

 ――――――――――――――――――

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― 新着の感想 ―
今のリリスライラメンバーは告知してるしほぼ全員情状酌量の余地なし屑認定していいのは明の精神にとっても楽そうですね
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