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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
7章

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救うべき人

 駅前に到着すると、予想通りの光景が広がっていた。


 24時間営業のコンビニや、深夜まで営業している居酒屋、カラオケボックスが立ち並ぶエリア。割れたガラスの向こうから、悲鳴と怒号が聞こえてくる。まだ終電後の時間帯で、酔客や会社帰りの人々が街に残っていた。


 明はコンビニの正面から入った。


 店内には、すでに5体のゴブリンが群がっていた。倒れている店員を棍棒で殴りつけている。まだ息はあるようだが、このままでは危ない。


「おい」


 明の声に、ゴブリンたちが一斉に振り返った。


「ギギッ?」


 明は亜空間収納から戦斧を取り出した。黒い渦から巨大な武器が現れる様子に、ゴブリンたちが一瞬怯む。


 その隙を逃さず、明は斧を構えて突撃した。


 横薙ぎの一撃で、三体のゴブリンがまとめて両断される。返す刃で残り二体も片付けた。わずか数秒の出来事だった。


 倒れていた店員が、震え声で呟いた。


「な、なんだ……あんた……」


「動けますか?」


 明は店員に近づき、状態を確認した。頭部から出血しているが、致命傷ではない。


「外に出て、できるだけ遠くへ逃げてください。警察も消防も、今は当てになりません」


「モ、モンスターって……本当に……」


「信じるも信じないも自由です。でも、生きたいなら逃げることです」


 明は店員を立たせ、裏口へと送り出した。そして、繁華街の奥へと進んでいく。



(……たしか、この時間帯はカラオケボックスの前あたりで)



 過去の周回の記憶を辿り、彼女と交わした会話の内容を思い出す。


 明が探していたのは、花柳彩夏はなやぎあやかという少女だった。


 彩夏は、友人たちと深夜のカラオケで騒いでいた最中に世界が変わり、面白半分でモンスター退治に出かけたらしい。


 しかし、そこで出会ったモンスターに友人たちが次々と殺され、彼女だけが生き残ることになる。


 彩夏は、目の前で友人たちが殺されるのを見ながら、恐怖のあまり自分だけが逃げてしまったことを一生悔やみ続けていた。


 その罪悪感が、後に彼女を無謀な戦いへと駆り立てていくことになるのだが――それは、彼女が持つ素質と才能に合わない。


 彼女には稀有な才能がある。前線で戦うのではなく、後方でみんなを支え、癒す才能だ。


 『神聖術』と呼ばれるそのスキルは、彼女だけが獲得することができる。適切に導けば、この世界の攻略に欠かせない存在となる。そして何より、あのトラウマさえなければ、明るく前向きな性格で仲間たちの精神的支柱にもなれる人物だった。



「きゃああああ!」



 女性の悲鳴が聞こえた。明は音の方向へ走る。


 カラオケボックスの前の路地。予想通り、そこには若者たちがいた。


 男三人、女三人の六人組。全員が高校の制服を着ている。その中心で、栗色の髪をポニーテールにした少女が震えていた。花柳彩夏だった。


「彩夏! 後ろ!」


 黒髪ショートカットの少女が叫んだ。彩夏が「ユッカ」と呼ぶ親友、鳴瀬優香なるせゆうかだ。


 彩夏が振り返ると、ゴブリンが棍棒を振り上げていた。


「ひっ!」


 彩夏は目を瞑った。死を覚悟したその瞬間――


 ドゴッ!


 鈍い音と共に、ゴブリンが吹き飛んだ。壁に激突し、ピクリとも動かなくなる。


「え?」


 彩夏が目を開けると、目の前に明が立っていた。巨大な戦斧を片手で軽々と持っている。


「大丈夫か?」


「あ、あの……」


「下がってろ」


 明は彩夏を背後に庇い、周囲を見渡した。


 路地には15体ほどのゴブリンが群がっている。高校生たちは壁際に追い詰められ、男子の一人は既に腕から血を流していた。


(過去の周回では、ここで彩夏以外の五人が……)


 この時、彩夏は恐怖のあまり逃げ出した。振り返った時には、親友の鳴瀬優香なるせゆうかがゴブリンに囲まれて悲鳴を上げていた。助けに戻ろうとしたが、足が動かなかった。その後悔が、彼女の心を永遠に蝕むことになる。


「てめぇら! こっち来んな!」


 金髪の男子高校生が木の棒を振り回すが、ゴブリンたちは嘲笑うように奇声を上げる。


「ギギギッ!」


 明は戦斧を構えた。


「全員、目を瞑れ」

「は? 何言って――」


 男子の言葉を遮るように、明が動いた。加速した明の姿が、一瞬で消える。

 次の瞬間には、ゴブリンの群れの中心にいた。


「ふっ!」


 戦斧を横一文字に振るう。五体のゴブリンが同時に両断された。血飛沫が舞い、内臓が路地に散らばる。


「うわっ!」

「きゃあああ!」


 高校生たちが悲鳴を上げた。だが明は止まらない。


 返す刃で三体を斬り捨て、柄の部分で一体の頭を砕く。残りのゴブリンたちが逃げようとしたが、明は容赦なく追撃した。


 最後の一体が路地の出口に向かって走る。明は戦斧を投げた。


 ブンッ!


 回転しながら飛んだ戦斧が、ゴブリンの背中に突き刺さる。ゴブリンは断末魔の叫びも上げずに倒れた。


 路地が、静寂に包まれた。


 明は亜空間から布を取り出し、返り血を拭き取りながら戦斧を回収した。そして振り返る。


 六人の高校生たちが、呆然と明を見つめていた。


「あ、あんた……何者だよ」


 男子高校生が震え声で聞いた。


「通りすがりのサラリーマンだ」


 明は淡々と答え、彩夏に視線を向けた。


「君たち、高校生か」


「は、はい……」


 彩夏が小さく頷いた。


「こんな時間に外出して、親御さんが心配するだろ」


「あの、でも……中間試験が終わって、みんなでカラオケに……」


 別の女子生徒が弁解しようとしたが、明は手を上げて制した。


「今はそんなことを言っている場合じゃない。君たちの命が最優先だ」


 明はスマホで時間を確認した。午前0時50分。ギリギリの到着だ。


「怪我をしている人は?」

「俺が……ちょっと」


 腕を押さえている男子生徒に近づき、傷を確認する。深くはないが、放置すれば感染症の恐れがある。


 明は亜空間から消毒液と包帯を取り出した。過去の周回で学んだ応急処置を手早く施す。


「これで大丈夫だ。痛みがあるうちは無理をしないように」


 その時、彩夏の隣にいた鳴瀬が前に出た。


「あの、おじさん」


(おじさん……まあ、高校生から見れば25歳は確かにおじさんか)


 明は苦笑を隠しながら答えた。


「なんだ?」

「どうして助けてくれたんですか? 私たち、知らない人なのに」


 鳴瀬の目は真剣だった。彼女は親友を守るため、明の真意を探ろうとしている。


「理由が必要か? 目の前で高校生が殺されそうになっていたら、助けるのが大人の義務だろう」


「でも、あんなバケモノ相手に……普通の人なら逃げます」


 鋭い指摘だった。明は少し考えてから答えた。


「俺は、この事態をある程度予測していた。だから準備もしていた」


「予測って……」


「SNSで警告を出していたんだ。『今夜0時、世界が変わる』と。信じた人はほとんどいなかったがな」


 彩夏が目を丸くした。


「あ! それ、あたし見ました! 友達がリツイートしてて! 『ヤバい人いるwww』って笑ってたけど……」


「本当だったんですね」


 別の女子生徒が呟いた。

 明は全員を見渡した。


「君たちに提案がある」


「提案?」


「このまま逃げ回っても、いずれ限界が来る。家に帰ろうにも、街中にモンスターが溢れている。それなら、戦う力を身につけたほうがいい」


 高校生たちが顔を見合わせた。


「戦うって……俺たちが?」


「高校生にそんなこと……」


「でも」


 彩夏が口を開いた。


「このままじゃ、みんな死んじゃうんですよね?」


 明は頷いた。


「残念ながら、その可能性が高い」


「じゃあ、戦うしかないじゃないですか」


 彩夏の声は震えていたが、その目には決意が宿っていた。


「彩夏……」


 鳴瀬が心配そうに親友を見つめた。


「だって、ユッカ。さっきみたいに襲われて、今度は助けてくれる人がいなかったら……」


 彩夏は拳を握りしめた。


「私、もう逃げたくない。みんなを守れるようになりたい」


 彩夏らしい言葉だ。明は小さく微笑んだ。


「君たちにも、レベルやステータスというシステムが付与されているはずだ。心の中で『ステータス』と念じてみろ」


 半信半疑の表情で、高校生たちが試す。すぐに驚きの声が上がった。


「うわ、マジで出た!」

「ゲームみたいな画面が……」

「レベル1、ポイント0……」


 明は彩夏を見つめた。今はまだ、その画面に『神聖術』の文字は現れていないはずだが、この先に続く困難のことを思うと、彼女が力に目覚めるのも時間の問題だろう。


「彩夏、だったか」


「は、はい。花柳彩夏です」


「君がみんなを支えてやれ。君はこの六人の中で、この世界に対する親和性が高い」


「親和性って」


「特別な才能があるってことだ。頑張れば、君だけの魔法が使えるようになる」


 彩夏の目が輝いた。


「あたしだけの魔法!? 本当に!?」


「ああ。ただし、そのためにはまず生き延びなくちゃいけない。レベルを上げて、ポイントを稼ぐんだ」


 明は倒れていたゴブリンの手から棍棒を拾った。


「まずはこれを使え。そこらの武器よりマシだ」


 粗末な棍棒を配る。高校生たちが恐る恐る受け取った。


「ちょっと待ってください」


 鳴瀬が再び口を開いた。


「私たち、未成年です。親の許可なく……」

「今は非常事態だ」


 明は厳しい口調で言った。


「法律も学校の規則も、モンスターには通用しない。生きるか死ぬか、それだけだ」


 重い沈黙が流れた。


 やがて、怪我をしていた男子生徒が立ち上がった。


「俺、やります。このまま死ぬよりマシです」

「俺も」

「私も……」


 次々と賛同の声が上がる。最後に、鳴瀬も渋々頷いた。


「分かりました。でも、彩夏に何かあったら承知しませんから」


「ユッカ……」


 彩夏が親友の手を握った。


「大丈夫。一緒に頑張ろう?」


 彼女たちが覚悟を決めたことを確認した明は、先頭に立って歩き始めた。


(これで、ひとまず第一段階はクリアだな。彩夏のトラウマを防ぎ、彼女の友達も救えた)


 これで、花柳彩夏が自身の行動を悔いて、無謀な戦いに足を踏み入れることもなくなったはずだ。


 背後から、彩夏たちの会話が聞こえてくる。


「ねぇ、あのおじさん、なんかかっこよくない?」

「彩夏、今はそんな場合じゃないでしょ」

「でも、ヒーローみたいじゃん」


 明は苦笑した。


(ヒーローか。残念だけど、俺はそんな大層なものじゃないな)


 ただ、今度こそ救いたいだけなのだ。


 過去、彼女に救われたあの時のように。


 今度こそ彼女を、この世界から解放してあげたい。


 そんなことを考えながら、明は、背後で話す彼女たちの声に耳を傾け続けた。







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 猛牛の手斧

 ・ミノタウロスが振るう片手斧。重厚な鉄塊で、常人には扱えない重量を誇る。柄を短く切れば扱いやすいが、耐久は落ちる。


 ・分類:武器 -斧-

 ・装備推奨:筋力値80以上

 ・魔素含有量:3~6%

 ・攻撃力+70~80

 ・耐久値:35~40

 ・ダメージボーナスの発生:なし

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― 新着の感想 ―
一気読中ですが、面白いです。 余計なお世話かもしれませんが感想欄で指摘されている「何かあったら承知しない」と言うセリフへの違和感を少し考察してみました。 まず感想への返信を読んで推測するにおそらく …
今ここで真実を話せるわけもないしなー友達結構いたんですね 男の子たちもぶるっても逃げなかったあたり才能はあるな
>「私たち、未成年です。親の許可なく……」 この後になんて続けるつもりだったんでしょう? それに明は強制してるわけじゃなく危険から身を守る方法を教えてるだけなのに「何かあったら承知しない」ってなんだ…
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