地下鉄の激闘
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レベルアップしました。
ポイントを1つ獲得しました。
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レベルが7になった。これで残りポイントは2つ。
明は素早く1ポイントを体力に振り分けた。これで体力値は18になる。朝までの長期戦に備えて、スタミナの確保は必須だった。
「残り48体か……」
クエストの進行状況を確認しながら、明は次の狩場へと向かった。過去の記憶を頼りに、ミノタウロスの徘徊ルートを避けながら移動する。
――午前二時。
ビル街の路地裏に、ゴブリンが3体潜んでいた。ゴミ袋を漁りながら、時折奇声を上げている。
明は物陰から様子を伺い、棍棒を握り直した。疲労が蓄積し始めているが、まだ動ける。
「よし……」
一番手前のゴブリンに向かって駆け出す。振り下ろした棍棒が頭蓋を砕き、振り向きざまに放った拳で二体目の横っ腹を殴りつけた。
「ギギャッ!」
三体目が反撃してくるが、その動きは読めている。身を低くして回避し、足を払って転倒させてから止めを刺した。
――午前二時半。
小さな公園に移動した。ブランコの周りに、5体のゴブリンが集まっている。異世界にはない遊具に興味津々の様子で、ゴブリンたちは近づく明に気がつかない。
明は一気に距離を詰めた。
最初の一撃で一体を仕留め、混乱する群れの中で棍棒を振り回す。狭い場所での乱戦は、経験のある明に有利だった。
「58、59……62体目」
息を切らしながら、倒したゴブリンから新しい棍棒を拾う。先ほどのものは、既にひびが入っていた。
――午前三時半。
コインパーキングの駐車場で、車の陰に隠れているゴブリンを発見した。4体が固まっている。
明は石を投げて注意を引き、おびき寄せた。一体ずつ分断して倒していく。最後の一体が逃げようとしたが、追いかけて仕留めた。
「これで、66体目……」
荒い息を吐きながら、明は壁にもたれかかった。
手元の時計はすでに午前四時を回っていた。東の空はわずかに白み始め、街に朱色が差し始めている。
街は、次々と現れるモンスターたちに阿鼻叫喚の騒ぎとなっており、あちらこちらで悲鳴が上がっていた。
明は自販機から水のペットボトルを買うと、中身を一気に飲み干した。
(残り34体か……)
空のボトルをゴミ箱に投げ入れながら、心で呟いた。
(タイムリミットである午後12時までは、まだ十分に時間の余裕がある。このまま街を駆けずり回っていれば、間違いなくクエストはクリアすることが出来るが……)
そうすると、《《目当てのトロフィー》》が獲得出来なくなってしまう。
(いや、落ち着け。まだ方法はある)
明は記憶を掘り起こした。
この時間帯、まだ誰も気づいていない場所がある。地下鉄の駅だ。
終電が終わり、始発が動き出すまでの空白の時間。そこに、ゴブリンが大量に湧くことを知っている者は少ない。
明は最寄りの地下鉄駅へと向かった。
シャッターは下りているが、非常口から侵入できる。過去、何度か調べるうちに見つけた、特別なルートだ。
薄暗い構内に入った瞬間、明は息を呑んだ。
赤く光る無数の眼が、闇の中で蠢いている。
線路沿い、ホームの端、階段の陰、自動販売機の裏――至る所にゴブリンが潜んでいた。その数、40体以上。
明が一歩踏み出した瞬間、すべての視線が一斉に明に向けられた。
「ギギッ……」
低い唸り声が、地下空間に響き渡る。
明は棍棒を握りしめた。手のひらに汗が滲む。
(これは……想定以上だ)
逃げるなら今だ。まだ間に合う。
だが、明は前に進んだ。
「来い」
その一言が引き金となった。
「ギギャアアアアッ!」
40体以上のゴブリンが、一斉に襲いかかってきた。
明は階段へと全力で駆けた。振り返ることなく、段差を駆け上がる。背後から迫る無数の足音が、地下空間に反響する。
階段の中腹で振り返った。
ゴブリンの群れが、黒い濁流のように押し寄せてくる。だが、狭い階段では2、3体ずつしか攻めてこられない。
明は最初の一体を蹴り飛ばした。
ドガッ!
蹴られたゴブリンが後続に激突し、数体が絡まって転げ落ちる。
その隙に、明は棍棒を振り下ろした。
「67体目!」
頭蓋が砕ける感触。続けて、次のゴブリンの横っ腹に棍棒を叩きつける。
「68、69……!」
死体が階段に積み重なり、後続の障害となる。それでもゴブリンたちは、仲間の死体を踏み越えて突進してくる。
明の呼吸が荒くなる。休む暇はない。次から次へと現れるゴブリンを、機械的に処理していく。
バキッ!
棍棒が折れた。
明は即座に、倒したゴブリンから新しい武器を奪う。その一瞬の隙を突いて、ゴブリンが明の脚に噛みついた。
「くっ……!」
激痛が走る。明は噛みついたゴブリンの頭を掴み、力任せに引き剥がして階段から投げ捨てた。
「75、76、77……」
スタミナが限界に近づいている。レベルアップもまだ来ない。ただひたすら、棍棒を振るい続ける。
階段が死体で埋まり始めた。ゴブリンたちも、これ以上の突撃は無謀だと理解したのか、動きを止めた。
明は荒い息を吐きながら、ホームを見下ろした。
残り20体ほどのゴブリンが、じりじりと明を囲むように展開している。
(ここからが本番か……)
明は階段を降りた。一歩、また一歩。ゴブリンたちが後退する。ホームに降り立った瞬間、包囲が完成した。
360度、逃げ場はない。
明は深呼吸をした。
そして――
自ら、包囲網に突撃した。
「うおおおおっ!」
最も密集している箇所に飛び込む。ゴブリンたちが一瞬怯んだ隙に、横薙ぎの一撃で3体を薙ぎ倒す。
「85、86、87!」
包囲網が崩れた。明は崩れた一角から脱出し、ホームの端へと走る。
追いかけてきたゴブリンたちを線路側へと誘導すると、
「落ちろ!」
渾身の蹴りで、5体をまとめて線路へと蹴り落とした。
線路に落ちたゴブリンたちは、1メートル以上の高さをよじ登ろうと必死にもがいた。その間は無防備だ。
明は容赦なく棍棒を振り下ろした。
「92、93、94……」
全身が悲鳴を上げている。それでも止まれない。
残り6体。
最後のゴブリンたちは、恐怖に震えていた。もはや戦意を失い、自動販売機の陰に隠れて震えている。
明は血にまみれた棍棒を引きずりながら、ゆっくりと近づいた。
「95、96、97……」
逃げようとするゴブリンを、一体ずつ確実に仕留めていく。
最後の二体が、線路に飛び降りて逃げようとした。
明は迷わず線路に飛び降り、追いかけた。暗闇の中、逃げ惑うゴブリンたちを追い詰める。
トンネルの奥で、ついに追いついた。
「99体目」
残り一体。
壁際に追い詰められたゴブリンが、最後の抵抗とばかりに棍棒を振り回した。
明はそれを避けもせず、真正面から受け止めた。そして、最後の力を振り絞って棍棒を振り下ろす。
「100体目!」
最後のゴブリンが、力なく崩れ落ちた。
地下鉄駅に、静寂が戻った。
明は壁にもたれかかり、荒い息を吐いた。全身が血と汗でべとついている。脚の傷がズキズキと痛みを訴えていた。
――チリン。
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レベルアップしました。
ポイントを獲得しました。
消費されていない獲得ポイントがあります。
獲得ポイントを振り分けてください。
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E級クエスト:ゴブリン が進行中。
討伐ゴブリン数:100/100
E級クエスト:ゴブリン の達成を確認しました。報酬が与えられます。
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クエスト達成報酬として、ポイントを10獲得しました。
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条件が満たされました。
ブロンズトロフィー:初めてのクエスト を獲得しました。
シルバートロフィー:戦闘の達人 を獲得しました。
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ブロンズトロフィー:初めてのクエスト を獲得したことで、以下の特典が与えられます。
・ポイント+2
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シルバートロフィー:戦闘の達人 を獲得したことで、以下の特典が与えられます。
・戦闘感覚Lv1
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初めてのクエスト
・分類:トロフィー
・ランク:ブロンズ
・取得条件:クエストを初めてクリアする
・効果:ポイント2つ獲得
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戦闘の達人
・分類:トロフィー
・ランク:シルバー
・取得条件:通常スキルを取得していない状態で、かつ、ダメージを3回以内に抑えたまま、モンスターを連続で100匹討伐する
・効果:戦闘感覚Lv1スキル獲得
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