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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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321/351

一条明 -0- ⑯

 


 翌朝、明は石造りの建物の中で目を覚ました。


 見慣れないアーチ型の窓から差し込む朝日が、石造りの街並みを照らしている。昨夜の出来事が夢ではなかったことを、改めて実感させられる朝だった。


「おはよう、明」


 田村は既に起きて、窓辺で外の様子を観察していた。明が起きたことに気がつくと、ニコリとした笑みを向けてくる。


「街の様子、どうだ?」


「相変わらず人の気配はないね。でも……」


 田村は明の言葉に眉をひそめた。


「昨日の夜には気付かなかったんだけど、街のあちこちに、灰のような粉が積もってる」


「灰?」


 明は窓に近づいて外を見た。確かに、石畳の街道や建物の軒先に、青みがかった細かな粉が薄っすらと積もっているのが見える。


「あれ、何だろう。ただの灰じゃないよね。行かないほうがいいかな」


 田村の言葉に、明は眉を寄せた。


 確かに田村の言う通りだった。街のあちこちに降り積もっている灰のような粉は、見たこともない色をしている。それが人体にどんな影響を及ぼすのか分からない以上、無暗やたらと近づくべきじゃない。


 とはいえ、街の探索は済ませておきたいところだ。灰の正体が分からないからといって、慎重になりすぎるのもまた違う。


「お前の『生還者』や『危機察知』は反応してるのか?」


「スキルの反応はないよ。今のところ、危険はない」


「……だったら、とりあえず探索してみよう。調べてみないと分からないし」


「……そうだね。一応、念のために口と鼻は覆っておこうか。吸い込むと危ないかもしれないし」


 田村はそう言うと、溜め込んでいた物資の中から二人分のタオルを取り出した。


 二人はタオルで口と鼻を覆って、石造りの建物を出た。


 石畳の街道に足を踏み出し、あたりを見渡す。そこは、まるでファンタジー小説の世界に迷い込んだようだった。


 中世の街並みのように、石造りの建物は規則正しく通りに沿って並んでいる。造りはどれも精巧で、立派なものだ。ぽつぽつと、建物の軒先には木製の看板がぶら下がっていて、そこには見慣れない文字が刻まれていた。


「……本当に、異世界に来たみたいだ」


 明は街並みを見つめて、呆然と呟いた。


 田村が近くの看板を指さす。


「明、この文字読める?」


 明は目を細めて、それを眺めた。


 文字自体は見たことがないものだが、なんとなく意味を理解することが出来る。まるで、頭の中で自動的に翻訳されているかのようだ。


「なんとなく意味が分かる。『武器屋』って書いてあるみたいだ」


「やっぱりそうだよね」


 田村も明と同じように感じているのか、小さく頷いた。


「これも世界反転率の影響なのかな」


「かもしれない。前に、『異世界の常識の一部』が適用されるって出てただろ。その常識が、『異世界の文字が読める』ってことだとしたら、俺たちがこの文字を理解できているのも、その影響なのかもしれない」


 そう言いながら、明は武器屋の扉の前に立った。木製の扉は重厚で、鉄の装飾が施されている。明が扉に手をかけると、軋みながらも容易に開いた。


 店内は薄暗く、壁に沿って様々な武器が陳列されていた。どれも精巧に作られており、実用的な雰囲気を醸し出している。中央の陳列棚の隣には大きな木製の樽があり、中には布で包まれた剣らしき物が雑多に突っ込まれていた。


「すげー……本当に武器屋だ」


 田村が興奮して店内を見回した。慎重に一歩、中へと進む。それから危険がないことを確かめると、田村は壁に飾られている剣や斧に近づいた。


「……明、これ、本物だよ」


 田村が壁に飾られていた剣を一本、手に取った。細身の軽そうな剣だ。斬るというよりも刺すことに重点を置いているのか、形状は針のように尖っている。


 明も剣の一本を手に取ってみた。ずっしりとした重みがあり、刃は鋭く研がれていた。今使っている彩夏の短剣よりも、明らかに上質なものだった。


「これ、使えそうだな」


 明が剣を振ってみると、空気を切る音が鋭く響いた。


「でも、勝手に持って行っていいのかな?」


 田村が心配そうに言った。


「店主がいないし、お金も払えないし……」


 明は少し考えた。確かに、無断で持ち去るのは泥棒と変わらない。しかし、この状況では生存が最優先だ。


「今は緊急事態だ。生きるために必要なら、借りるということにしよう」


「そうだね。いつか返せる機会があれば返そう」


 明は剣を腰に差し、田村も店内から軽くて扱いやすそうな短剣を選んだ。


 次に二人が向かったのは、防具屋らしき店だった。店内には革鎧や鎖帷子、それに金属製の鎧が並んでいる。


「これなんかどうだ?」


 田村が軽量そうな革鎧を指差した。


「動きやすそうだし、ある程度の防御力もありそうだ」


 明も同様の革鎧を試着してみた。サイズはほぼ合っており、動きを妨げることもない。


「確実に今より安全になるな」


 二人は革鎧を身につけ、次の店へ向かった。


 道具屋らしき店では、様々な冒険用品が揃っていた。ロープ、松明、水筒、それに見慣れない小瓶がいくつも並んでいる。


「この小瓶、何だろう?」


「……説明書きには、気力回復薬って書いてあるね。本当に薬なのかな」


「試してみるか?」


 明が小瓶の一つを手に取った。中には赤い液体が入っており、かすかに甘い香りがする。


「本気? 危険だよ」


「でも、もし本物なら貴重だ」


 明は思い切って少量を口に含んだ。甘酸っぱい味がして、体の奥から温かさが広がってくる。


「どう?」


「悪くない。むしろ、疲れが取れたような気がする」


 明は安堵の息を吐いた。どうやら本物の回復薬らしい。


「これは貴重だな。いくつか持って行こう」


 二人は回復薬を数本ずつ持ち、店から出たその時だった。


 田村が突然、足を止めた。


「『危機察知』が反応してる。何か来る」


 明も警戒して剣に手をかけた。


 石畳の向こうから現れたのは、見たことのない魔物だった。人型だが、肌は青白く、目は黒く窪んでいる。ボロボロの衣服を纏い、ゆらゆらと不安定な足取りで近づいてくる。その足元では、歩くたびに薄く積もった灰が舞い上がっていた。


「ゾンビ?」


 田村が『解析』で確認した。


「……正解。レベル25のアンデッドって出てる。身体能力値も僕らとほとんど同じだよ」


「厄介だな」


 明は新しく手に入れた剣を構えた。


 そこでふと、アンデットが着ている服に気がついた。


 ボロボロに朽ちてはいるが、それは明らかにこの街の住人が着ていたであろう服装だった。中世風の質素な服に、職人が使うような革のエプロン。胸元には小さな金属製のバッジのようなものが付いている。


 そして服の上にも、あの青みがかった灰が薄く積もっていた。


「なあ……」


 明が剣を構えたまま呟いた。


「この服装、街の住人のものじゃないか?」


 田村も気がついたようで、顔を青ざめさせた。


「まさか……この街の住人が、アンデッドになったってこと?」


 アンデッドは二人の会話など意に介さず、ゆらゆらと近づいてくる。黒く窪んだ目が、二人を捉えた。


「グルル……」


 低い唸り声を上げながら、アンデッドが突然襲いかかってきた。


「来る!」


 明が叫んだ瞬間、アンデッドの腐敗した腕が振り下ろされた。明は咄嗟に横に跳んで回避する。


「速い!」


 予想以上の俊敏さに、明は驚いた。腐敗しているとはいえ、生前は肉体労働者だったのか、筋肉の動きは機敏だった。


 田村が、後方から短剣を使って斬りつけた。刃は、アンデッドの肩を深く裂く。


 ――だが、それでも。アンデッドの動きは止まらない。


 続けざまに振り回される腕を、明は寸でのところで回避すると慌てて距離を取った。


「明! 大丈夫!?」


「問題ない。それよりも」


 ちらりと、明はアンデッドを見つめた。


「思ったよりも面倒な相手だぞ。アンデッドだから、痛覚がないのかもしれない」


 肩を裂かれたアンデッドは、痛みなど感じた様子もなく、ゆらゆらとした足取りで二人に近づいてきて

いた。足を踏み出すたびに、足元の灰が舞い上がり、腱で繋がれた腕が奇妙に揺れている。


「くそっ、本当に痛みを感じてないのか……」


 田村が舌打ちしながら、再び短剣を構え直した。


 アンデッドが再び襲いかかってくる。今度は明に向かって、両腕を振り回しながら突進してきた。


 明は新しく手に入れた剣を構え、『急所狙い』スキルに意識を集中させた。首の付け根に意識が向く。相手はすでに死んでいる身体だからなのか、心臓部分には意識が向かなかった。


「田村、左から回り込んでくれ!」


「了解!」


 田村が左側に移動し、アンデッドの注意を分散させる。アンデッドは一瞬田村の方を向いたが、すぐに明へと視線を戻した。


 その隙を突いて、明は剣を振るった。刃は狙い違わず、アンデッドの首筋を捉える。が、予想以上に硬い手応えだった。傷は浅く、アンデッドは怯まずに反撃してくる。


「グウォオオオ」


 腐敗した拳が明の顔面を狙って飛んできた。


 明は剣で受け流そうとしたが、アンデッドの力は想像以上に強く、バランスを崩してしまう。


「うっ!」


 後ろによろめいた明に、アンデッドが追撃をかけてきた。


「明!」


 田村が短剣を投げつける。刃がアンデッドの背中に突き刺さり、その動きを一瞬止めた。


 その隙に明は体勢を立て直し、距離を取る。


「ありがとう、田村」


「どういたしまして。でも、このままじゃ埒が明かないよ」


 田村の言う通りだった。アンデッドは痛みを感じず、多少の傷では動きを止めない。このままでは長期戦になり、体力の消耗が激しくなる。


「一気に決めるしかないな」


 明は『集中』スキルの発動を決意した。魔力を大量に消費するが、確実に急所を狙える。


「田村、俺がスキルを使う。その間、注意を引いていてくれ」


「分かった。でも、無理はするなよ」


 田村が前に出て、アンデッドと対峙した。短剣を振り回しながら、相手の注意を自分に向ける。


「こっちだ、化け物!」


 アンデッドが田村の方に向き直った瞬間、明は『集中』スキルを発動した。


 世界がスローモーションになる。アンデッドの動き、筋肉の収縮、重心の移動——すべてが手に取るように見えた。


 そして、『急所狙い』スキルが示す弱点も、より鮮明に把握できた。首の付け根、脊椎と頭蓋骨の接続部分。そこを完全に断ち切れば、アンデッドも動けなくなるはずだ。


「今だ!」


 明は全力で駆け出し、剣を振り上げた。アンデッドが田村に向かって腕を振り下ろそうとしているその瞬間、明の剣が首の付け根に向かって一直線に伸びる。


 ズバッ!


 鋭い音と共に、剣がアンデッドの首を貫いた。脊椎を断ち切られたアンデッドは、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「やった……」


 田村が安堵の息を吐いた。


「でも、魔力は大丈夫?」


「昼間だから青い月の効果は薄いけど、少し休めば回復する」


 明はスキルを解除し、剣を鞘に収めた。


「……この人も、元は普通の住人だったんだろうな」


 倒れたアンデッドを見下ろしながら、明が呟いた。職人風の服装に、手についた作業の痕跡。生前は真面目に働いていた人だったのだろう。


「異世界の一部が顕現する時に、何かが起きたのかもしれない」


 田村も複雑な表情を浮かべた。


「住人も一緒に現れたけど、生きたまま移転することはできなかった、とか」


「……かもな」


 明は周囲を警戒しながら答えた。この街には、他にもアンデッド化した住人がいるかもしれない。


「とりあえず、この場を離れよう。戦闘音で他のアンデッドが集まってくる可能性がある」


「そうだね。魔力の回復も必要だし」


 二人は倒れたアンデッドに黙祷を捧げてから、その場を後にした。




 それから二人は、慎重に探索を続けた。


 幸いにも、近くにいたアンデットは先ほどの一体だけだったようで、他のアンデッドと出会うことはなかった。


 そうして現実世界に現れた街の探索を進めていた二人は、あることに気がついた。


「明……この街、変だよ。どの家にも食べ物が一つもない」


 田村が困惑した声で言った。


「ああ……肉や魚どころか、パンや小麦もゼロだ。さっきの酒場だって、食べ物や飲み物だけが全部消えている」


 明も同じ異常に気づいていた。台所には調理器具が完璧に揃っているのに、食材だけが跡形もなく消失している。まるで誰かが意図的に食べ物だけを除去したかのようだった。


「食器も鍋も全部あるのに、中身だけがない……」


 田村が台所の棚を指差した。


「パンを焼く窯もあるし、小麦を挽く石臼もある。でも、肝心の小麦が一粒もない」


「生活の痕跡は確実にあるんだがな」


 明は民家のテーブルを見回した。食事の途中で止まったかのような食器の配置、半分使われた蝋燭、読みかけの本——すべてが日常生活の一瞬を切り取ったように残されている。そして、それらすべての上に薄っすらと灰が積もっていた。


「家の中なのに、外にあるものと同じ灰があるのも気になる」


「もしかして……これ、灰じゃないのかな」


 田村が灰の山に近づき、指先で少量をすくい上げた。


「やっぱりだ。触感も普通の灰とは違う。もっと……細かくて、軽い」


 明も灰を手に取ってみた。確かに、木や紙を燃やした時の灰とは明らかに異なる質感だった。まるで粉雪のように軽く、指の間からするりと滑り落ちる。


「まるで雪みたいだ」


「雪……」


 呟き、明は天井を見上げた。そこには穴が空いている様子はない。窓から入ってきたものかと思ったが、この民家の窓は完全に閉め切られていた。


「だとしたら、これはどこから来たんだ?」


「……分からない。それはもう少し調べてみないと」


 田村が首を振った。


 明は田村に向けて頷きを返す。


「そうだな、他の場所も調べてみよう」


 それから、二人は街の商業地区と思われる区域を重点的に調べた。パン屋、肉屋、果物屋——看板から判断できる店舗を一軒ずつ回ったが、結果は同じだった。


 調理設備や保存設備は完璧に残っているのに、食材だけが完全に消失している。どの店舗にも、あの青みがかった灰が薄く積もっていた。


「これは偶然じゃないな」


 明が肉屋の店内で呟いた。巨大な肉を吊るすフックが空しく宙に浮き、まな板には使用痕があるのに、肉の欠片すら残っていない。


「意図的に除去されてる」


「でも、誰が? なんのために?」


 田村の疑問に、明は首を振った。


「分からない。ただ……」


 明は店の奥にある帳簿を手に取った。異世界の文字で書かれているが、なぜか読むことができる。


「最後の記録は『収穫祭の準備』となってる」


「『収穫祭』?」


「お祭りみたいなもんだろ。街全体で、今年の豊作を願うとか、そんな感じの」


 明は帳簿を捲りながら答えた。


「それぞれの店が、肉やパン、果物やエールなんかを準備して、街の広間の中心で盛大な祭りが開かれる予定だったみたいだ」


「『明日は町中の食材を集めて、広場で大宴会を開く』って書いてある」


「つまり、祭りの準備で食材を全部広場に集めたってこと?」


「可能性はある」


 明は帳簿を閉じて立ち上がった。


「なら、広場を調べてみよう」


 二人は街の中央広場に向かった。石畳の大きな円形の空間で、中央には古い井戸がある。周囲にはベンチが配置され、確かに祭りが開かれそうな雰囲気だった。


 しかし、広場も空っぽだった。そして、ここにも例の灰が——ベンチの上や石畳の隙間、井戸の縁など、至る所に厚く積もっていた。


 田村が広場を見回した。


「ここにも何もないな……。祭りの痕跡すらない。空っぽだ」


 と、田村がそう呟いた時だ。


「……田村」


 小さな声で、明が田村を呼んだ。


「見てみろよ、これ」


 そう言って明が指を差したのは、広場に置かれたベンチの一つだった。石造りのそのベンチには、他の場所よりもずっと厚く、青みがかった灰が山のように積もっている。


 ベンチに積まれた灰の山を見つめながら、明が怪訝そうに眉を寄せた。


「どうしてここだけ、こんなに集まってるんだろう」


「風の影響じゃないかな。建物の陰とか窪地にも多く溜まってたし」


 田村の指摘に、明は「なるほど」と頷いた。言われてみれば確かに、街の路地の隅なんかには灰の山が出来ていた気がする。


「それにしても、この灰は一体何なんだ?」


 明が首を捻った時、田村が別の発見をした。


「明、これ見てくれ」


 田村が指差したのは、井戸の縁だった。そこにも厚く同じ青みがかった灰のようなものが積もっている。


「井戸にも……」


 明が井戸を覗き込むと、水面にも同じ物質が浮いているのが見えた。


「水にまで……これは一体」


「正体は分からないけど」


 田村が不安そうに言った。


「あまり、良くないもののような気がする。灰の積もり方からして、この街が現実に現れる以前からここにあったのは確かだ。それに、この灰は空から降ったものじゃない。……この街で起きた異変と関係があるかも」


 その言葉に、明は頷いた。


 灰は屋外だけでなく、屋内にも積もっていた。街の住人がアンデット化しているのも、この灰の影響である可能性はある。


 明は後で詳しく調べるために、灰を小瓶に入れて保存することにした。瓶の中へと慎重に詰め終えて、それを丁寧に懐へと仕舞った。


「とりあえず、他の場所も調べてみよう。この灰の正体について、何か手がかりが見つかるかもしれない」


「そうだね。それに、まだ街の半分も見てない」


 そしてまた二人は、慎重に街の探索を続けた。


 民家、商店、工房——どの建物にも生活の痕跡は残っているが、人の気配は皆無だった。


 やはりというべきか、探索したすべての場所にあの青みがかった灰が積もっていた。


 特に印象的だったのは、パン屋の工房だった。


「ここ、パンを焼いてる途中だったみたいだ」


 田村が窯を指差した。中には半分焼けたパンの残骸があったが、それも灰に覆われて判別が困難だった。


「収穫祭の準備をしてる最中に、何かが起きたんだな」


 明は作業台を調べた。小麦粉をこねた形跡があるが、材料は全て消失している。作業台の上にも、薄っすらと灰が積もっていた。


 また、ある民家では食卓に料理を並べかけた痕跡があった。皿は置かれているが、料理は跡形もない。その皿の上にも、灰が薄く積もっていた。


「やっぱり、食べ物だけが消えてる」


「そして、代わりにこの灰がある……」


「ねえ、明。もしかしなくてもだけど……。この灰の正体って」


 田村が小さな声で呟いた。


 言葉は最後まで続かなかったが、明はその続きが分かっていた。



『この灰の正体って、この街にあった食べ物なんじゃないかな』



 田村はきっと、そう呟こうとしていたに違いない。


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― 新着の感想 ―
食料がなくなったからこっちの世界に攻めてきたってこと・・・!?
そっか0号というか明にはファンタジー系の知識はないのか… ゾンビ系は痛覚がなく手足斬り落としても死なないから首を落とすか頭を破壊するのが定石なんだが 田村も知らんのかな
文字が読めるようになるのは便利ですねぇ武器屋だけじゃなく道具屋とかも探してみたい 灰がなかなかホラーですねぇでも案外貴重な素材になるかもしれないとかも思ってしまうw
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