達成
世界にモンスターが溢れてから、八時間が経過した。朝日に照らされた街は変わり果てたその姿を曝け出し、時間の経過と共に増え続けるモンスターの被害は留まるところを知らない。
それまで必死になってモンスターが溢れた街から住人の救助を行っていた警察や自衛隊は、ついにその救助を辞めた。いや、正確に言えばその能力に限界が来たようだった。
なにせ一部地域だけでなく日本全国――いや世界中で、さらには同時多発的に出現したモンスターによる被害だ。
人間相手ならば通用していた武器もモンスター相手になるとその効果は限りなく低く、その影響はおそらくレベルアップをしているであろう彼らでも、すべての国民を救助し、かつ守り切ることが不可能だったのだろう。
夜間から響いていた銃声は時間が経つごとにその数を減らし始め、気が付けば酷く散発的なものに変わっていった。
それが、守られる立場である人々も分かったに違いない。街中で響く銃声が減っていくのに比例して、武器を片手に街中をうろつく人の姿が格段に増えていた。
(誰か……戦っている?)
ゴブリンを探して街の中を彷徨っていると、ふいに聞こえてきた戦闘音。ゴブリンの騒ぎ声と、次いで聞こえてくる焦りを含んだ男の声に、明はそっとその音のする場所へと向かう。
姿を隠しながらその音の元へと近づくと、そこには一匹のゴブリンを相手に戦う三人の男の姿を見つけた。
彼らの見た目は、そこまで自分と歳の差があるようには思えない。おそらく、大学生だろう。
そう当たりを付けた明は、物陰に隠れてその様子を眺めることにした。
「く、ぉおおおおお!!」
叫びをあげて、三人の内の一人が、手に持ったボコボコに歪んだ金属バットを振りかぶる。
対して、ゴブリンは耳障りな声を上げると、その手に持つ棍棒で迎撃するように頭上で構えて、男の振り下ろすバットを真正面から受け止めた。
――ガンッ、という激しい音が周囲に響く。
男の攻撃を受け止めたゴブリンはニヤリとした笑みを浮かべた。
だが、彼らはその隙を見逃さなかった。彼らのうちの一人が、攻撃を受け止めるために持ち上がったゴブリンの脇腹に向けてバットを振るったのだ。
振われたバットの衝撃に、ゴブリンは小さな悲鳴にも似た声を上げると、ボトリと棍棒を取り落とした。
するとそれをチャンスと見たのか、最初にバットを振るった男がゴブリンの落とした棍棒をすかさず蹴り飛ばして、ゴブリンがすぐに拾えないようにすると、すぐにまた別の男が追撃をするように、その手に持つバットを振り上げてゴブリンの身体へと振り下ろした。
――ゴッ、という肉を叩く鈍い音。次いで聞こえるゴブリンの悲鳴。
そこからは、一方的な攻撃だった。
おそらく、彼らはゴブリンを仕留めるのが一度や二度ではないのだろう。
手慣れたように何度も、ゴブリンが息絶えるまでバットを振るう男達のその姿を見て、明はそっとその場から離れる。
(なんか、ゴブリンを狙う人が増えてきたな)
ネットに上がった情報は、瞬時に共有され拡散される時代だ。
モンスターの中でも比較的倒しやすい相手として、ネットではゴブリンの名前が頻繁に挙がっている。まずはゴブリンを倒してレベルアップをしよう、なんて内容が書かれた専門スレッドが某掲示板に立っているほどだった。
「うーん……」
きっと、この事実に警察や自衛隊が気付いていないはずがない。
今は撤退をしている警察や自衛隊も、すぐにまた銃火器を携えて、今度は住人の救助ではなくレベルアップを目的として、一斉にゴブリンの掃討を始めるはずだ。
(それまでに、何としてでもクエストを終わらせなきゃな)
街に溢れるモンスターの数は刻一刻と増えているようだが、それでも、たった一種を狙い続ければその数もあっという間に居なくなるだろう。
そう考えて、明はさらに気合を入れると、街中に潜むゴブリンを探し出すことに力を入れた。
――チリン。
やがて、何匹目になるか分からないゴブリンにトドメを刺したその時。ついに、その時はやってきた。
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レベルアップしました。
ポイントを獲得しました。
消費されていない獲得ポイントがあります。
獲得ポイントを振り分けてください。
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E級クエスト:ゴブリンが進行中。
討伐ゴブリン数:100/100
E級クエスト:ゴブリンの達成を確認しました。報酬が与えられます。
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「よっし、レベルアップ! それに、やっと、クエストが終わった!」
表示される画面を見て、明はガッツポーズをする。
しかし、そうしている間にも目の前に表示される画面は止まらない。
すぐさま気持ちを切り替えて、明は目の前に表示される画面へと意識を向けた。
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クエスト達成報酬として、ポイントを10獲得しました。
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条件が満たされました。
ブロンズトロフィー:初めてのクエスト を獲得しました。
ブロンズトロフィー:初めてのクエスト を獲得したことで、以下の特典が与えられます。
・ポイント+2
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「お、おぉ……。なんか、いろいろ出たな」
呟き、明は画面の一つ一つに目を通していく。
そうして、すべての画面に目を通し終えた後。明の顔には、興奮と歓喜の笑顔が浮かんでいた。
(すげぇ……。すげぇ! クエスト報酬、トロフィー、レベルアップ。全部の報酬を合わせると一気にポイントが13も増えた!! これで、身体強化のスキルレベルアップに一気に近づく!!)
解析スキルを獲得するのに消費したポイントもあって、少しばかり遠のいていた身体強化のスキルレベルアップ。それによって、目標レベルは27とかなり遠いものとなっていたが、今回の報酬で一気に目標レベル15へと近づいた。
さっそく、明は獲得したポイントを画面のすべてを手で払って消すと、自らのステータス画面を表示させた。
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一条 明 25歳 男 Lv6(8)
体力:10(+1Up)
筋力:25(+1Up)
耐久:24(+1Up)
速度:19(+1Up)
幸運:9(+1Up)
獲得ポイント:13
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固有スキル
・黄泉帰り
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スキル
・身体強化Lv1
・解析Lv1
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ダメージボーナス
・ゴブリン種族 +3%
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