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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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319/351

一条明 -0- ⑭

 


「それで、これからどうするの?」


 田村が軽い調子で問いかけてきた。


 明は田村から視線を逸らしたまま、短剣をホルスターに収めて、言った。


「まずは情報整理だ。お前が見つけた避難所の場所を教えろ」


「えー、いきなり命令口調? もうちょっと優しく頼んでよ〜」


 田村の軽薄な態度に、明の眉間にしわが寄る。


「……頼む。教えてくれ」


「それでいいよ。えーっと、まず北の商業地区にあった小学校。ここは三日前まで避難所として機能してたみたいだけど、大型の魔物に襲撃されて全滅」


 田村は指を折りながら説明を始めた。


「次に、西の工業地帯にあった工場の避難所。ここも襲撃されてたね。あと、南の住宅街にも仮設のテントで避難キャンプを作ってた痕跡があったけど……」


「全部ダメだったのか」


「そう。でも、小学校以外の場所にかんしては、襲撃されたのはどれも最近じゃない。少なくとも四、五日は経ってる」


 明は黙って田村の話を聞いた。確かに、貴重な情報だ。一人では到底、これほど広範囲を調査することはできなかっただろう。


「他には?」


「世界反転率が25%を超えた時の変化も面白かったな。月の効果が倍になったでしょ? あれのおかげで、俺のレベルもかなり上がったよ」


 田村はそう言ってポケットの中からスマホを取り出すと、画面に何かを打ち込みはじめた。


 しばらくして、その画面を見せてくる。


「はいこれ」




 ――――――――――――――――――

 田村 慎也 26歳 男 Lv24

 体力:21(+40)

 筋力:19(+40)

 耐久:18(+40)

 速度:26(+40)

 魔力:5(+20)

 幸運:23

 ――――――――――――――――――

 固有スキル

 ・生還者

 ――――――――――――――――――




「これが俺のステータス画面ね」


「……なんでスマホなんだ?」


「知らないの? 自分のステータス画面は、他の人に見せることが出来ないんだよ」


 田村の説明に、明は眉をひそめた。


「見せることができない?」


「そう。本人以外には見えない仕様になってる。だから、情報を共有したい時は口頭で伝えるか、何かにメモをするしか方法がないんだ」


 明は自分のステータス画面を思い返した。


 確かに、彩夏と一緒にいた時も、彼女は目の前にある明のステータス画面が見えていないようだった。


 それにしても、と。明は田村がかざしたスマホの画面に目を向ける。


「レベル24か……」


 自分のレベルよりも、田村の方が3レベルも上だ。一人で行動していた期間、それなりに戦闘を重ねていたらしい。


「君はどのくらい?」


「レベル21だ」


「おー、結構上がってるじゃん。でも俺の方が上だね〜」


 田村が得意げに笑う。


 その態度に、明は舌打ちしそうになったが、ぐっと堪えた。


「魔力値が基礎で5もあるのか」


「うん。魔力が追加されてから、なんか不思議な感覚があるんだよね。まだよく分からないけど」


 田村は手のひらを見つめながら、何気ない口調で言った。


「明は魔力0でしょ? 早く魔力が上がるといいね」


「……どうしてそれを知ってるんだ? お互いのステータス画面は見えないんだろ?」


 その言葉に、「しまった」とでも言いたそうな表情で、田村の顔が強張った。


「あー、えーっと……」


 田村が慌てたように視線を泳がせる。


「それは、ほら……君が魔力を使ってるところを見たことがないから、そう思っただけで……」


「嘘だな」


 明の声が低くなった。


「魔力が追加されてから、まだそれほど時間は経っていない。使い方も分からない状況で、使ってるかどうかなんて判断できるはずがない」


「いや、でも——」


「本当のことを言え、田村」


 明の手が、再び短剣の柄に触れた。その動作に気づいた田村が、慌てたように両手を上げる。


「待て待て! 落ち着いてよ」


「落ち着けるか。お前、また何か隠してるんだろ」


 明の疑念は確信に変わりつつあった。田村の反応は明らかにおかしい。


「……わかった。正直に言うよ」


 田村が観念したように肩を落とした。


「実は、隠してたものがあるんだ」


 田村はスマホの画面を操作し、新たな画面を見せた。




 ――――――――――――――――――

 スキル

 ・解析Lv1

 ・軽快な話術Lv3

 ・危機察知Lv1

 ・魔力回路Lv1

 ・収納術Lv1

 ――――――――――――――――――




「なんだ?」


「俺のスキルだよ。ここ一週間のうちに、覚えたやつ」


 言われて、明はまじまじと田村の画面を見つめた。その中の一つが目に留まる。


「解析……」


「他人のレベルとか能力値とかを見ることが出来るスキルなんだ」


 田村が苦笑いを浮かべた。


「君の魔力が0だってのも、そのスキルで分かった」


 明は田村を睨みつけた。


「なんで隠した?」


「だって、気味が悪いでしょ? 人のステータスが見えるなんて。警戒されると思ったから」


 確かに、そのスキルは不気味だった。


 相手の能力を一方的に知ることができるなら、戦術的にも大きなアドバンテージになる。


「他に隠してることはないのか?」


「ない、ない! これで全部だって」


 田村が慌てたように手を振る。


「もう隠し事はしないから、信用してよ」


 明は田村の顔を見つめた。本当のことを言っているのか、まだ何か隠しているのか。判断がつかない。


「……次に嘘をついたら、容赦しない」


「分かった分かった。もう隠し事はしないから」


 田村がほっとした表情を浮かべた。


「それより、スキルのこと、君は知らなかったみたいだけど?」


 明は渋々答えた。


「ああ。そんなものがあるとは知らなかった」


「どうすれば習得できるかは、俺もよく分からないんだ。気がついたら増えてたって感じで」


 田村の説明を聞きながら、明は自分の行動を振り返った。ただひたすら必死に生きてはきたが、スキルと呼ばれるものは何も覚えてない。


「多分、行動パターンとか性格とかが関係してるんじゃないかな。俺の場合、情報収集したり、危険がないか調べたりしながら、物を集めてたから。それに対応したスキルが身についたんだと思う」


「なるほど……」


 明は自分にはどんなスキルが向いているのか考えた。戦闘に特化した行動を続けてきたのだから、それ相応のスキルがあってもいいはずなのだが。


「ちなみに」


 田村が遠慮がちに口を開いた。


「明のスキル欄、『黄泉帰り』以外は空っぽだったよ。固有スキル以外、まだ何も覚えてないみたいだね」


 自分でも分かっていたことだが、その事実を改めて突きつけられ、明は唇を噛んだ。レベル21まで上がっているのに、『黄泉帰り』以外のスキルが一つもないとは。


「でも、逆に言えば、これから伸びしろがあるってことじゃない? 君みたいに前線で戦い続けてれば、きっと戦闘系のスキルが覚えられるよ」


 田村の慰めの言葉に、明は素っ気なく頷いた。


「それより」


 田村が周囲を見回した。


「そろそろ安全な場所に移動しない? 夜になると魔物が活発になるし」


 確かに、日は既に傾き始めている。空には薄っすらと二つの月の輪郭が見え始めていた。


「どこに行く?」


「俺が見つけた隠れ家があるんだ。地下室だから、魔物に見つかりにくい」


 明は一瞬躊躇した。田村について行くのは危険かもしれない。しかし、他に選択肢はなかった。


「……案内しろ」


「はいはい〜」


 田村が軽やかに歩き出す。


 明は数歩の距離を置いて、常に短剣に手をかけられる態勢を保ちながら、その後を追った。



            ◇◇◇



 田村の隠れ家は、廃墟となったデパートの地下にあった。食料品売り場の奥の冷凍庫室を改造した、狭いが確かに安全そうな空間だった。


「どうよ? なかなかでしょ」


 田村が自慢げに言う。


「……確かに見つかりにくそうだ」


 明は内心、田村の能力を評価していた。『生還者』の固有スキルに加えて『収納術』などのスキルもあるのだから、こうした隠れ家の確保は得意分野なのだろう。


 二人は地下室で缶詰の夕食を取った。会話は最小限で、ぎこちない沈黙が続く。


「なあ明」


 食事を終えた田村が口を開いた。


「君、俺のこと本当に信用してないんだね」


「当たり前だ」


 明は即答した。


「一度裏切られたら、そう簡単には信用できない。それに、さっきも嘘をついた」


「でも、もう全部話したじゃん。これで隠し事は本当になくなったよ」


 田村の言葉には、わずかに真剣さが混じっていた。


「俺も反省してるんだ。あの時は、パニックになって冷静な判断ができなかった」


 明は田村の顔を見つめた。演技なのか、本心なのか、判別がつかない。


「今度は違う。約束したでしょ?」


「約束なんて、破るためにあるのが田村流だろ」


「ひどいなあ。俺、そんなにひどい人間に見える?」


 田村が苦笑いを浮かべた。


 明は答えなかった。答えは『Yes』だが、口に出す必要はない。


「まあいいや。時間が解決してくれるでしょ」


 田村は諦めたように手を振った。


「それより、明日の行動計画を立てない?」


「行動計画?」


「魔物狩りだよ。二人で連携すれば、もっと効率よくレベルを上げられる。それに、君もスキルを覚えたいでしょ?」


 確かに、それは理にかなっていた。一人で戦うよりも、田村の『解析』や『危機察知』スキルがあれば安全性も上がる。


「どこで狩りをする?」


「北の商業地区がいいと思う。小型の魔物が多くて、経験値効率がいい」


 田村は簡単な地図を描きながら説明した。


「ゴブリンの群れもいるし、たまにキラービーも現れる。」


「キラービー?」


「デッカイ蜂みたいなやつ。お尻の針が脅威的だけど、君の戦闘力なら、十分対応できるはず」


 明は田村の説明を聞きながら、作戦を練った。


「俺が前衛で、お前が後方支援って形か?」


「そうそう。俺は戦闘は苦手だから、基本的に君にお任せ。俺は『解析』で敵の情報を調べたり、『危機察知』で危険を予測したりして、君をサポートする」


 それは一見、明に負担を押し付ける作戦に思えた。だが、実際には理にかなっている。田村の戦闘能力は明より劣るし、持っているスキルは後方支援に特化している。


「分かった。ただし、条件がある」


「何?」


「戦利品は平等に分配する」


「当然でしょ」


「それと、逃げる時は必ず声をかけろ。勝手に逃げるな」


「了解了解」


 田村が軽く手を上げた。


 明は田村の顔を見つめた。やはり、どこか軽薄で信用しきれない。だが、現状では協力するしかない。


「明日の朝、出発する」


「はーい」


 田村が無邪気に返事をした。


 その夜、明は田村から離れた位置で眠った。いつでも短剣を抜けるよう、警戒を解くことが出来なかった。


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