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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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手合わせ



 数時間後、朝食時に疲労困憊といった体で萎れている奈緒と彩夏を見て、龍一が呆れたため息を吐いていた。

 龍一は明を見つめて言う。


「明、いくら何でもやりすぎだ。こんなこと続けてれば嬢ちゃんたちが死ぬことになるぞ。お前だって分かってるだろ、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積すれば戦闘の時に隙が生まれやすくなるって」


 明が唇を尖らせた。


「分かってますよ。でも、このまま放置していてもダメなのは事実です。生き残るためには力を付けなきゃいけない。この先、スキルに頼っていれば痛い目を見ますよ」

「だとしてもだ。追い込むにしても短時間でやりすぎだ。加減しろ」


 龍一に注意されて、明は申し訳なさそうな顔で後ろ髪を掻いた。


「まあ、確かにやり過ぎたかもしれませんね。気を付けます」


 あれでも十分配慮していたつもりだったのだが、それはあくまでも回帰者であり周回者でもある明の基準だ。今まで鍛錬らしい鍛錬もなく、モンスターとの戦いを続けていた奈緒たちがその鍛錬を行うにはあまりにも急すぎた。

 せめて身体を慣らしてから徐々に負荷をあげていくべきだったか、と明は考えたが、事態はすでに切迫している。

このまま進めばイフリートとの戦いで仲間が傷つくかもしれない。


(レベルを上げた能力値で優位性を保つのにも限界がある。イフリートはギガントを超える化け物だ。今の俺でも勝てるかどうか分からない……。今の奈緒さん達がこのまま挑めば、まず間違いなく死人が出てしまう)


 いっそのこと、彼女たちには残ってもらおうか。

 そんなことを明は考えたが、すぐに首を振って考えを改めた。

 イフリートの攻略には奈緒をはじめとする仲間の力が必要不可欠だからだ。


(本当ならもう少しだけ鍛錬の強度を上げたいところだけど)

 と明が難しい顔をしたその時だった。


 それまで青い顔でモソモソと朝食を口にしていた奈緒が呟いた。


「別にいい。今のままで平気だ」


 龍一が奈緒を見つめた。


「本気か?」


 奈緒は頷く。


「ああ。このまま何も出来ないよりかはよっぽどいい。確かに大変だけど、やりがいはあるんだ」

「あたしも」

 と彩夏が呟いた。


「これまで自分がどれだけサボっていたのかが分かったからね。今日だってデイリークエストを終わらせただけでレベルが上がったわけだし。大変だけど、その分ちゃんとした報酬があるから頑張れるっていうかさ……。いや、本当に大変なんだけどね」


 よっぽどなのだろう、彩夏は「大変」という言葉を繰り返していた。

 柏葉がそんな二人の言葉に小さく頷き、口を開く。


「私も強くなれるなら明日の朝からお願いしたいです。あ、無理にとは言いませんよ? 出来ればでお願いします」


 柏葉が言い繕うようにわたわたと手を振った。

 明は笑って答える。


「構いませんよ、明日からやりましょう」

「やった、ありがとうございます!」


 柏葉が嬉しそうに微笑んだ。

 それを見て龍一がため息を吐き出す。


「何だよ、みんなして参加するのか? 俺はやらねぇぞ、そんなことしているぐらいなら寝てたほうがマシだ」

「強制ではないですし、それでもいいですよ。ただ……」

「ただ、何だよ」

「今のままなら、龍一さんはイフリートに挑む前の別のボス戦で何も出来ずにこてんぱんにやられるでしょうね」

「……ほう、言ってくれるじゃねぇか」


 龍一が明を見て獰猛な笑みを浮かべた。

 明はそんな笑みを前にしても涼しい顔で言い返す。


「事実ですよ。『槍術』スキルLv2になってますが、今の龍一さんはスキルに振り回されている状態です。槍の扱いが分かっちゃいない」

「そこまで言うなら俺に槍の扱いとやらを教えられるんだろうな?」

「もちろんです」

「上等だ、手合わせといこうじゃねぇか明ァ!」


 龍一が吼えて槍を手に取り立ち上がった。

 それを見て彩夏が口を開く。


「ちょっと、本気? 手加減してあげなよ??」

「手加減なんかしねぇよ。調子に乗った小僧の鼻っ柱を全力で叩き折ってやる!」


 彩夏の言葉に龍一が言った。

 彩夏が呆れた息を吐く。


「いや清水のオジサンじゃなくて、一条のオジサンのほうね。そもそもステータス差があるんだから勝負になんないでしょ」


 龍一の言葉を一蹴する台詞に、龍一が苦虫を噛み潰したような顔になっていた。






 野営地から離れた場所へと移動し、明は龍一と顔を見合わせた。

 その手には道すがら拾った鉄骨を槍のように体裁を整えただけの、長い鉄の棒が握られている。

 武器とも呼べない鉄棒を振り回す明を見て、龍一が顔を顰めた。


「なんだそりゃ。剣は使わねぇのか?」

「槍術を教えるんですから、俺も槍を使いますよ。とは言っても、これは槍に見立てたただの鉄の棒ですが」

「……舐めやがって」


 涼しい顔で言った明の言葉に、龍一が舌を打った。

 そのまま龍一は手の内でぐるりと槍を回して構えると、


「後悔するなよッ!」


 一気に駆け出した。


 瞬きの合間に距離を詰めた男は、握りしめた槍を勢いよく明へと突き出す。

 明は突き出された槍の軌道を見切り、最小限の動きでその穂先を躱すとすぐに手に持つ棒を龍一の身体へと叩きつけた。


「動きが直線的すぎる」


 息を詰まらせた龍一に明が呟く。

 龍一は明の言葉にギリリと奥歯を噛みしめると、すぐさま二の技を放つように槍を横薙ぎに振り払った。


「攻撃も単調で」

 が、その攻撃も明には当たらない。


 明は振るわれる槍を鉄棒で受け止めると、いなすようにして龍一の体勢を崩して追撃を仕掛ける。

 その追撃を受け止めようと龍一が槍で防御するように構えるが、まるでその動きを読んでいたかのように明の追撃の軌道が変化する。


「フェイントっ」


 変化した軌道に龍一が呻いた。

 慌てたように地面を蹴って後ろに下がるが、一歩、前に足を踏み出した明の方が動きは速い。


「足運びも遅い」


 無防備となった龍一の腹へと明が突き出した鉄の棒が叩き込まれる。


「っ!?」


 ――はずだった。

 明の一撃は龍一に届く直前でビタリと止められていたのだ。


「くそッ!」


 手加減されたことに気が付いて、龍一が舌打ちを漏らした。

 そのまま体勢を整えると、槍を握る両手に力を籠め目にも止まらぬ刺突を繰り出し始める。

 けれどその穂先は明を捉えられない。

 繰り出される無数の刺突の軌道を明は冷静に見極めると、その軌道に合わせて鉄の棒を動かしすべての攻撃を防ぎきる。

 そして、反撃とばかりに鉄の棒を下から振り上げて龍一の喉元でピタリと止めると、呟くように言った。


「攻撃の姿勢も悪いし、手数も足りてない。一撃一撃に重みがないから、武器でもないただの鉄棒に攻撃がいなされるんです。これでもまだ、訓練が必要ないと言えますか?」

「……ハァ、分かった。降参だよ降参」


 龍一がため息を吐き出した。諦めたように両手を上に挙げて、戦意がないことをアピールすると明を見つめる。


「お前の言う通りだ。『槍術』スキルの効果で槍を扱う技術が分かっていても、今の俺はその技術を体現することが出来ちゃいない。訓練でも何でも付き合うさ」


 明は手にする鉄の棒を龍一の喉元から離すと、ニコリと笑った。


「分かっていただけて何よりです。龍一さんの場合は、スキルの効果で技術はあるのでまずはその技術をものにするところからですね。朝と晩の一日二回、俺と手合わせして実戦の感覚を掴みましょう。―――…そこで見てるお前もだぞ!」


 明は遠巻きに見学していた彩夏へと声をかけた。すぐに「うげっ!」とした言葉が返ってくる。


「勘弁してよ、本当に死んじゃうって!」


 彩夏が大声で泣き言を漏らした。

 が、彩夏はこの五人の中で唯一の回復役(ヒーラー)だ。彩夏が倒れれば五人の生存率はぐっと低くなる。誰よりも自衛の術は身に付けなければいけない立場でもあるから、せめて相手の攻撃をいなす技術ぐらいは身に付けてもらわねば困る。


「わた、私もいいですかっ!」


 柏葉が挙手をした。

 明は彼女に向けて「もちろん」と頷きを返した。

 そんな明を見て龍一が言った。


「それにしても……お前が使えるのは斧や剣だけじゃなかったのか? 槍も使えるだなんて聞いてねぇぞ」

「以前はそうでしたけど、今はもう【周回】の記憶がありますからね。一通り全部の武器は使えます」

龍一が呆れたため息を吐き出した。

「また【周回】か。スキル一つでこうも変わるなんてありえねぇだろ。とんでもねぇズルじゃねぇか」


 思わず明は笑ってしまった。

 確かに龍一からすればズルもいいところなのかもしれない。たった一晩で人が変わったように使えないものが使えるようになっていれば、もはやチートだと言われても仕方がないだろう。それだけの恩恵が『第六感』スキルには備わっている。

 けれど、そんなズルを使わないと敗北が決定づけられたこの世界の運命を変えることなど出来やしない。

 幾千幾万もの自分の命と引き換えにして、どうにか土俵際で粘っているのが今の状況なのだ。


「好きなように呼んでください。俺はこの力を使って、俺達の世界の崩壊を止めるだけです」


 覚悟を決めて呟かれたその言葉に、龍一は何も言うことが出来なかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 覚悟決まりすぎてるからその重みに誰も言葉じゃ勝てないっていうね
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