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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
六章

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術式:『世界反転』①

 


「俺達の世界と異世界が混ざることになった原因―――『世界反転』と呼ばれる術式について、これから説明します」


 明が発した言葉に、全員の顔に緊張が走った。

 明は全員の顔を一度見渡すと、途切れた言葉を口にする。


「まず初めに、この話の大きな前提として。俺達が当たり前のように生きていた〝現実〟の世界は、ある日突然、異世界からの侵略を受けました。いや、より正確に今の状況を表すなら、俺達の〝現実〟は〝現実〟とは異なる別の世界から()()され始めた。時間が経つにつれて、俺達の〝現実〟が異世界によって上書きされているんです。そして、その侵食行為は日本だけじゃなく、地球規模で行われている」

「ネットが使えていた時に見たことがある……。アメリカやロシア、中国でもモンスターが現れたって」


 彩夏が呟いた。

 奈緒が口を開く。


「前に一条が言っていた、『世界反転率』の進行によって異世界の一部が現れたっていうのも異世界の侵食によるものか?」

「はい。他にもこの世界に出現したモンスターが本来の力を取り戻すのもそうです。異世界による浸食が大きくなればなるほど、俺達の〝現実〟は異世界の常識に上書きされます」


 言葉を区切った。

 明は全員の顔を見渡して様子を伺ったが、このあたりの事情に対してそれぞれが()()()をつけていたのか、大きな疑問もないようだ。

 言葉の先を促すように見つめられたので、明はすぐに言葉を続けた。


「そして、その侵食行為に使われている異世界の術式が、『世界反転』と呼ばれるものです。この術式は媒体となっているモンスターが殺されると、すでに発動している術式が一時的に停止し、またその効果が弱くなるという特徴があります」

「それじゃあ、そのモンスターが?」


 柏葉が呟いた。


「想像の通りです。その媒体となったモンスターは、〝現実〟で俺達が暮らす街ごとに出現している〝ボス〟モンスターです」

「なるほど……。だから、ボスモンスターを倒すことで異世界の侵食とやらを一時的に食い止めることが出来ていたのか」


 納得したように奈緒が頷いた。

 明は言葉を続ける。


「ボスを討伐した際に現れる『世界反転率』……。この(パーセンテージ)こそがまさに、その術式の稼働率そのものです。%が進めば進むほど、俺達の〝現実〟は異世界によって上書きされていきます。つまり、この『世界反転率』が100%になれば俺達の現実は完全に消えてなくなる」


 それは何となく察していたのか、全員が疑問を挟むことなく頷いた。


 重要なのはここからだ。

 明は一度乾いた唇を舐めると、ゆっくりと言い聞かせるように言った。


「ここで問題になってくるのは、地球規模で行われているはずの異世界の侵食速度に、国や地域によってムラがあることだ」

「ムラ?」


 龍一が怪訝な顔で首を傾げた。


「地球全体が異世界に侵食されているんだろ? 全ての国や地域が一斉に侵食されてるわけじゃないのか?」

「一斉に侵食は受けています。ですがその侵食速度と、出現しているモンスターの種類や数に、国や地域によって違いが出ているんです。地球全体が、複数のエリアに分けられていると思ってください。俺達が今いるエリアでは世界反転率が4%もないけど、別のエリアではもしかしたら10%を越えているかもしれない」

「つまり、これまでの『世界反転率』の進行速度の減少は、私達のエリアの中に限った話だった……というわけか」


 奈緒が険しい顔で呟いた。


「どうしてそんなことに? エリア分けなんかせずに地球全体を一気に侵食した方が、連中からすれば楽なはずだろ?」

「……どうやら異世界の連中もさすがに俺達の〝現実〟の全てを一気に侵食するのは難しかったようです」


 十二周目で判明した事実だ。その世界での一条明は、その事実を『記録』に残して次に繋げていた。

 奈緒は「なるほど」と言って頷いた。明は説明を続ける。


「それぞれのエリアの中では、それぞれ別個の『世界反転』という術式が稼働していて、それぞれのエリアに対応した異世界が今でも侵食し続けています。それらのエリアの中でも特に重要なのが〝基点〟と呼ばれる一部の国と地域です」

「基点? そりぁあ何だ」


 龍一が明に向けて言った。

 明は答えを口にする。


「『世界反転』という術式の中心地がある場所だと思ってください。日本もそのうちの一つです。そして基点と呼ばれる地域の、さらにその中心が、俺達が今いる東京・神奈川・埼玉・茨城の一都四県に渡る地域です。だから、この地域は他からの干渉を受けないよう遮られている。……それこそ漫画やゲームなんかでよく出てくる結界やバリアのように」

「龍一さんが昨日おっしゃった〝壁〟がそうですか? 神奈川から静岡には行けなかったと言っていましたけど」


 柏葉が漏らした声に、明は正解を示すように深く頷いた。

 明が頷いたのを見て、奈緒が呟く。


「……ということはつまり、私達は外に出られないんじゃなくてバリアや結界の中に閉じ込められると思ったほうが正しいわけか」

「主観の問題ですけどね。結界の中にいる人間からすれば閉じ込められたことになるけど、結界の外にいる人間からすれば中に入れないことになる」

「どうしてその地域だけが結界に覆われてるわけ?」


 眉間に皺を寄せていた彩夏が口を開いた。


「『世界反転』の術式の中心が日本なのは分かったけど、その地域だけを囲む理由があるんでしょ?」

「結界があるのは囲むためじゃない。守る為だ」

「どういうこと?」

「俺達が今いるこの結界の内側に、『世界反転』の術式の核があるんだよ」

「術式の、核?」


 彩夏の顔がハッとしたものに変わった。


「もしかして、その核を壊せば『世界反転』そのものが止められるの!?」

「っ、一条! その話は本当なのか!?」


 彩夏の言葉に奈緒が声を上げた。

 明が頷く。


「ええ確かな情報です。十四周目、十五周目、十六周目……それらの世界でニコライを相手に吐かせました」

「ニコライに? そんなの、どうやって……アイツがそう簡単に口を開くとは思えないが」


 龍一の言葉に明は薄い笑みを浮かべるだけに留めた。どんな方法で情報を手に入れたかだなんて、わざわざ言う必要はない。


「まあ、とにかく。そんなわけで、俺達の世界を救うには『世界反転』という術式を止めなくちゃいけないことは理解してもらえたかと思いますが、ここからが本題です。先ほど『世界反転』の媒体となっているのがモンスターだという話をしましたが、この術式の核になっているのも異世界由来の生き物だということも判明しています」

「異世界由来の生き物? ……まさか、その生き物って」


 ハッとした顔で柏葉が言った。

 明は小さく頷く。



「モンスターと、人間です」



 明の言葉に、柏葉が絶句した。奈緒は顔を歪め、彩夏は血の気が引いたように明を見つめていた。険しい顔となった龍一が呟く。


「まさか連中は……俺達の世界を侵略してくるためだけに、訳の分からねぇ術式に自分達の命を賭けてんのか?」

「そのようです。流石に術式の核になっているのはモンスターが大半で、異世界に住まう人間すべての命を術式の核にはしていないようですが、それでも、少なからずの異世界人が術式の核になっているようです」

「馬鹿げてる……! そこまでして、俺達の世界を狙う理由はなんなんだ!!」

「その理由は()()俺には分かりません」


 ですが、と明は小さな声で呟いた。


「そうでもしないといけない理由が、連中にもあるんでしょうね」


 明の言葉に全員が沈黙した。


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