過去の記録、未来の預言
六章開始します。引き続きよろしくお願いいたします。
朝日に照らされた廃墟街の一角で、五人の男女が輪に話し合っていた。
数時間前、彼らはこの世界を確かに救った英雄だった。この世界を侵略してきた異世界人の企みを暴き、決死の覚悟で戦いを挑んで勝利をもぎ取った。
誰もが満身創痍だ。疲労はピークに達し、傷のないものなど誰も居ない。
それでも、ほんの少し前まで彼らの顔には明るさが戻り始めていたはずだった。
「信じられねぇ……」
明以外の四人の胸中を代表するように、ぽつりと清水龍一が言葉を漏らした。
その一言に、一条明は何も答えることが出来なかった。
明自身、信じられない気持ちでいっぱいだ。
けれど、目の前に現れたその画面には確かにそう書かれている。
確認するように奈緒が明へ聞いてきた。
「その話は、間違いないんだな?」
「はい」
「本当に、本当なんだな? お前の存在が、いや……この世界そのものが、モンスターが現れたあの日を基点に最初からずっとループしているって……」
「俺もいまだに信じられないですけど、この画面を素直に受け取るなら、そういうことになるかと」
奈緒の言葉に頷きながら言って、明は目の前に開かれたままの画面を見つめた。
――――――――――――――――――
十七周目の俺より、十八周目の俺へ
このシステムメッセージをお前が目にしている頃には
俺はすでにこの世界に敗北しているんだろう
よく聞け 一条明
この世界はすでに異世界からの侵略が確定している
お前の戦いは敗北が確定しているんだ
だけど お前だけはこの世界を変えることが出来る
この世界の結末を変えられる
よく聞け 十八周目
世界を お前の大切な人達を守りたいのなら
まずは壁を越えろ
その小さな世界から抜け出して見せろ
今のお前が無理だというなら
次の俺にまた全てを託すんだ
そのためにも まずはシナリオを3つ終わらせろ
それが次の俺達に繋ぐ鍵だ
――――――――――――――――――
『記録』と書かれた画面を開いたあの瞬間。
一条明の前には、それらの文章が並んでいた。
信じられなかった。
いやより正確に表すなら、画面に並ぶそれらの文字を信じたくなかったと言えばいいのかもしれない。
なにせこの画面が記した内容は、確かにこの世界が辿った過去の記録であり、この世界の未来が記された預言書そのものだったからだ。
しかし同時に、明はどこか納得していた。
思えば最初からすべてがおかしかった。
レベルやスキル、ステータスなんて概念がありながらも、この世界に侵略してきたモンスターはどれも強大で、普通に考えれば勝てる要素が何一つなかった。
偶々、一条明が『黄泉帰り』というスキルを手に入れることが出来たから土俵際で踏ん張ることが出来たものの、本来であればあっという間に破滅していてもおかしくはなかった。
それがすでに異世界からの侵略が確定していた結果なのだとしたら、この世界に現れた理不尽の正体にも納得がいく。
明が語った内容を思い出したのだろう。彩夏が震える声で言った。
「で、でもさ……この世界が異世界からの侵略がすでに確定しているだなんて、そんなの! そんなの……信じられるわけないじゃん」
最後の言葉は、彼女にしては珍しく消え入りそうなほど弱々しかった。
柏葉が彩夏の言葉に頷く。
「はい……。それに、その十七周目? という一条さんが言っている〝壁〟とやらも良く分からないですし」
それに関しては明も良く分からなかった。
画面には何もヒントらしき内容が記されていなかったからだ。
思案顔で何かを考え込んでいた龍一が口を開いた。
「壁か。壁なら、一つ心当たりがある」
「え?」
思わず、明は龍一を見つめた。
龍一は明へと視線を向けて言葉を続ける。
「お前ら、東京から来たって言ってたな? だったらここから山側……西の方角には足を運んだか?」
「いえ……」
明は首を横に振って答えた。
ここまで来るルートとしては、東京西部を通って南下してきたのは間違いないが、山梨や静岡との県境には足を進めていない。その前に明達は蒼汰と出会い、そのまま横浜の街へとやってきているからだ。
龍一はそんな明の言葉に納得したような顔になると、重いため息を吐き出して言った。
「そうか……だったら知らないだろうな」
龍一はそんな明の言葉に納得したような顔になると、重いため息を吐き出して言った。
「この世界は、いやこの日本は……この世界にモンスターが現れてから早々に、目には見えない壁が出来て分断されているんだ」




