記録
「明、お前そう言えば……シナリオがどうとか前に言ってたよな?」
騒ぐ奈緒たちの元へ向かう道すがら、唐突に龍一が明に向けてそんなことを言ってきた。
その目元は赤く腫れあがっていたが、そのことに明はあえて触れずにいた。
「リリスライラのやつらは倒したんだ。その、シナリオとやらは無事に終わったんだろ?」
「ええ……何か、新しい『システム』が追加されてましたね」
「『システム』?」
「俺の固有スキル『黄泉帰り』に追加される効果のことです。画面にも『システム』って出てたし、便宜上そう呼んでいるものですが……」
言って、明は自身のステータス画面を呼び出した。
「今回追加されたのは……『記録』ですね」
「ログ? なんだそれ、日記みたいなものか?」
「そんな単純なものじゃないと思いますけど」
言いながら、明は『記録』の効果を見るために画面に触れた。
すぐに新たな画面が現れる。
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・解放条件が満たされていません。
・解放条件が満たされていません。
・解放条件が満たされていません。
・解放条件が満たされていません。
・解放条件が満たされていません。
・解放条件が満たされていません。
・
・
・
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画面いっぱいに並ぶ文字の羅列に、明の目が開かれた。
(なんだ、これ……。解放条件が満たされていない?)
同様の文字は全部で十六個。
そして画面の上から下まで並ぶそれらの文字の中に、異質に記されたその一文に明の目が留まった。
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・
・
・
・解放条件が満たされていません
・解放条件が満たされていません
・解放条件が満たされていません
・十七周目
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「…………え?」
どくん、と心臓が大きく跳ね動いた。
一瞬にして世界からは音が消えて、キンとした耳鳴りが音を支配する。
視界が大きく揺れていた。
知らず知らずのうちに呼吸が浅く、速くなっていた。
龍一が傍で何かを言っているが、何も聞こえない。
明の異変に気が付いたのか、遠く離れた場所から奈緒たちが駆けてくるのが見えたが、それさえもどうでも良かった。
(そんな、まさか……。ありえない)
明はただただ目の前に現れたその画面を見つめ、震える指で画面に触れた。
画面は切り替わった。
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十七周目の俺より、十八周目の俺へ
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目の前に現れた簡素な文字列。
その文字の衝撃に、明の中に刻み込まれた『第六感』スキルが〝真実〟だと反応するのを、一条明は確かに感じていた。
これにて本当に五章終了です。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
六章はすでにストックがあるため、今週のどこかで投稿し始めたいと思います。




