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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
五章

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 ――チリン。

 明の目の前にシナリオのクリアを示す画面が現れたのは、しばらくしてからの事だった。



 ―――――――――――――――――― 

 EXシナリオ:【邪教の蔓延】が進行中。

 リリスライラの目的阻止率 100%


 EXシナリオ:【邪教の蔓延】の達成を確認しました。報酬が与えられます。

 ――――――――――――――――――



 目の前に現れるそれらの画面を、明は茫然と眺める。

 嬉しさはない。ただただ胸の内にはやるせない虚無感だけが広がっていた。

 その画面の出現の意味を、今さら考えるまでもなかった。




 ――――――――――――――――――

 EXシナリオクリアの達成報酬として、固有スキル:黄泉帰り のスキルに新たな効果が追加されます。

 固有スキル:黄泉帰り の追加効果により、以下のシステム機能が解放されました。


 ・記録

 ―――――――――――――――――― 




 それでも、シナリオの報酬を示すその画面にだけは目を奪われた。これまでの経験上、シナリオの報酬として与えられてきたのは大量のポイントだけだったからだ。


(記録……? いやログか?)


 心で呟き、その効果を確認しようと手を伸ばす。

 龍一が蒼汰を連れて戻って来たのはそんな時だった。


「おじさん」


 真っ先に彩夏が立ち上がった。

 ついで、その腕の中に抱きかかえられ眠るようにして息を引き取っている蒼汰を見つめて、くしゃりと顔が歪む。

 彩夏だけではない。奈緒も、柏葉も、明だって目の前に現れた龍一の姿に泣きそうになっていた。

 覇気のない声で龍一が言った。


「すまん、遅くなったな」


 それは、いったい誰に対しての謝罪なのだろう。

 しゃがれて聴き取り辛く、感情を失くしたように平坦なその言葉は、聞いているだけでも胸が辛くなる。


「蒼汰を、息子を……弔ってやりたい。俺一人じゃ何も出来ないんだ。手伝ってくれるか?」

「もちろんです」


 龍一の頼みを断る理由はどこにもなかった。





 蒼汰を埋葬し終え、明が海を眺めていると奈緒がやってきた。

 奈緒は明の隣でタバコを咥えると、その先端に火を灯して長い煙を空に吐き出して、呟く。



「今回の出来事は、いろいろと考えることが多かったよ」

「考えることですか?」

「ああ。この世界にやってきたのはモンスターだけだと思っていたけど、そうじゃなかった。別の世界の人間……異世界人もモンスターと一緒にこの世界にやってきていた。なまじ知性がある分、そいつらは厄介で危険な存在だった」


 自分の考えを纏めるつもりなのだろう、独白する奈緒の呟きに明は何も言わなかった。

 奈緒も明の答えを求めていないのか、つらつらと言葉を紡いでいく。


「敵はモンスターだけじゃなかった。この世界とはまた違う、異世界そのものが私達の敵だったんだな」

「どうすれば、その敵に勝てると思いますか?」

「それを私に聞くのか?」


 奈緒はタバコの煙を吐き出して笑った。


「……正直、今回は何も出来なかったよ。アーサーを含め、異世界の連中相手には手も足も出なかった。殺されないように、生き延びることだけがやっとだったんだ。彩夏や柏葉さん、龍一さんが居なければ……とっくに私は死んでいた」


 奈緒が、どのようにしてアーサーと戦ったのかを明は後から聞いていた。

 その行為自体にもちろん眉を顰めたが、これまで無茶を重ねてきた自分がどうこう言えるような立場ではないと、奈緒に対して何も言わなかった。

 奈緒は明と同じく水面を見つめると、小さな声で呟いた。


「ギガントを倒して、自分でもどうにかなるって浮かれていたんだろうな。実際、あの時よりも強くなったし戦えるようにもなっている。けれど、それでもこの世界の理不尽に立ち向かうだけの力が私にはまだないんだ」

「奈緒さん」


 思わず、明は奈緒へと視線を向けた。

 すると奈緒は明に向けて小さな笑みを向けてくる。


「大丈夫。負けないよ、私は。何が何でもお前に食らいつく。置いて行かれるものか」


 奈緒が何かに気付いたかのように、明の背後へと向けて小さく手を挙げた。

 振り返ると、龍一がこちらに近づいてくるのが見えた。それと同時に、遠くから奈緒を呼ぶ声が聞こえてくる。

 奈緒はその声に気が付き小さく笑うと、手の中のタバコを携帯灰皿の中に落として背を向けた。


「それじゃあ、私は向こうで待ってるよ。『解体』スキルの無くなった柏葉さんの代わりに、モンスターの解体を頼まれてるんだ」


 軽く手をあげて、奈緒は仲間のもとへと去っていった。

 入れ替わるようにして、今度は龍一が明の傍にやってくる。


「邪魔したか?」

「いえ……ちょうどモンスターの解体を頼まれたみたいで」


 龍一が奈緒たちのいる方角へと目を向けた。

 どこから拾ってきたのか、柏葉が見慣れないモンスター――あれはおそらくトロールだ――の死骸を引き摺っており、それを見た彩夏と奈緒が騒いでいる。

 龍一はそんな彼女たちの様子に笑みを溢した。


「変わらないな、お前らは。あんな出来事があった後だっていうのに、いつものように振舞えている。本当に強い人っていうのは、お前らみたいなやつらのことを言うんだろう」


 龍一は息を吐き出すと、欄干に背中を預けた。

 空を見上げて、彼が口を開く。


「蒼汰は……アイツは子供にしてはおかしなヤツでな。いつも絵を描くときは決まって青色の空か海をどこかに入れるんだ」


 言われた言葉に明は思い出した。

 たしかに、あの子が描いた絵にはどこか決まって青い海か空が入っていた。


「好きな色も、青色だって言ってましたね」

「ああ。きっと、沙耶が言ったんだろうな。『この青は、君の名前の色なんだよ』って」


 明は龍一の視線を追いかけるように空を見上げた。

 いつの間にか、夜が明けようとしていることに気が付いた。

 深い群青色に染まっていた夜空は朝の陽ざしを帯びて、色が薄く染まり始めている。


「俺はダメな父親だった。アイツを助けるためだとはいえ、一度はアイツを置き去りにした父親だ。恨まれてもしょうがない。だけど」


 龍一が息を吐き出した。


「だけど、最後は……。最後だけは、俺はアイツの父親でいられただろうか」


 小さな呟きが、群青よりも淡い空の青に吸い込まれて消えていく。

 龍一がその答えを求めていないのが分かっていた。

 それでも、明は言わずにはいられなかった。


「あの子は、どんな時でもあなたの事を父親だと思っていましたよ」


 頭上にはどこまでも、どこまでも続く彼の色が広がっている。

 あの子が好きだと言った蒼が、そこにある。






これにて五章本編の終了です。

途中、連載が途切れて長い期間が空いたりしましたが、ここまでお読みくださり本当にありがとうございました。

短いですが最後に1話を投稿し、五章はすべて終わりとなります。

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