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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
五章

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最悪の目覚め

 


 明の身体から完全に魔力が抜けたのは、それからすぐのことだった。


「ぐっ」


 ずしりと重くなる短剣に、明の身体が悲鳴を上げる。


 ―――スキル:『巨大化(メガモーフ)』。

 それはギガントを討伐し、その素材を用いて作られた新たな相棒である〝巨人の短剣〟に与えられた武器スキルの名前だ。


 武器の大きさと攻撃威力を大きく上昇させるスキルだが、その効果には弱点がある。巨大化した武器は筋力要求値が高くなるため『剛力』状態でしか使用できないのだ。


(普段は必要筋力値が400なのに、『巨大化』中は筋力要求値が2000はもはやバグだろ)


 武器が巨大化するに伴いその質量も増えるのだから仕方がないと言えば仕方がない。

 そう思い直して、発動していた『剛力』スキルの効果が消える前にと〝巨人の短剣〟を元の大きさへと戻した明は、その剣を背中の鞘に戻して痛みで呻く人物へと目を向けた。



「ぐ、ぅうう……!!」



 ニコライは生きていた。否、明によって生かされていた。『魔力撃』を放つ直前、明はその斬撃の方向を空へと逸らしたのだ。

 それでも、地形を変えるほどの威力を持った一撃だ。凄まじい衝撃と斬撃はニコライの左半身を吹き飛ばし、息があるのも不思議なほどボロボロの状態になっていた。


「ニコライ」 


 明が近づき、声をかける。痛みによって意識が飛び掛けているのか、口の端からはだらだらと涎が垂れている。


「蒼汰を戻す方法は何だ」


 その声に反応したニコライが顔を上げた。そこでようやく、明の存在に気が付いたようだ。

 ニコライは怨嗟の如き唸りを漏らして言った。



「ありえない……。ありえないありえないありえないッッ!! お前のようなヤツがどうしてこの世界に存在しているッ! どうして『黄泉帰り』なんて神にも等しい力を持っている!! そもそもこの世界には能力が存在していないはずだ……。その力は、私達の世界にしかないもののはずだッ!! いくら反転率が進もうと、時間を巻き戻すだなんてお前たちの世界の人間が扱えるような力ではないはず―――」


 憎悪を燃やし、ブツブツと呟いていたニコライがピタリと止まった。


「まさかお前……〝座〟と繋がっているのか?」

「〝座〟?」


 聞き慣れない言葉に明の眉間に皺が寄った。

 だがニコライはそんな明の様子になど目もくれちゃいない。自分が口にした言葉に半ば半狂乱になると、声を荒げて叫び始める。


「そんな、なぜだッッ! なぜ『あの方』はコイツに肩入れしている!? 私達の世界を救ってくれると言ってくれたではないか!! まさか裏切るつもりか!?」

「一条?」


 明とニコライの戦いに巻き込まれないよう、龍一を連れて退避していた奈緒たちが戻って来た。

 彼女たちは、身体の半身が吹き飛びながらも意識があるニコライに驚くと、ついで半狂乱になって叫びをあげているその姿に怪訝な顔となって明へと問いかけた。


「なんだ? 何が起きてる?」

「それが俺にもさっぱり……。いきなり訳が分からないことを言い始めてて」

「痛みで発狂しちゃった?」

「その割には正常にも見えますけど……」

「明、蒼汰を戻す手段は聞けたか?」


 龍一が明に問いかけた。ニコライから奪われた寿命と体力が戻らないのか、その顔は以前として衰弱したままだ。

 明は龍一の言葉に首を振って答えると、ついでニコライへとその視線を向けた。


「ニコライ。蒼汰を元に戻す手段を言うんだ」

「ふ、ふふ……そうか、そういうことか。結局、私達は消される運命にあるということか。あなたはコイツらを選んだということか……!!」


 明の言葉に答えず、ニコライがうわ言のように呟く。


「ああいいさ、だったら私にも考えがある」


 そして、その視線がふいに明達へと――いや、柏葉が抱えていた蒼汰へと向いた。



「『影渡り』」



 地面の影に吸い込まれるようにして、ニコライの姿が一瞬にして消えた。

 次の瞬間、男が現れたのは柏葉の目の前だった。


「なっ!?」


 突然のことに驚き、柏葉の動きが止まった。

 慌てて距離を取ろうと柏葉が地面を蹴り出すが、それを逃がさんとしているかのように影が一斉に柏葉へと纏わりつく。

 そしてそのうちの一つが柏葉の手から蒼汰を奪い取ると、今度は別の影がニコライへと迫りその心臓を抉り抜いた。


 ついで、ニコライの操る影が抉り抜いた自らの心臓を蒼汰へと掲げて、握り潰す。

 バシャリとした水が弾けるような音が聞こえて、どす黒い血がボタボタと蒼汰に降り注いだ。

 それはあまりにも突然のことで、誰ひとりとして反応が出来ない一瞬の出来事だった。



「せいぜい足掻いてみせろ『黄泉帰り』」



 自らの手で右目を抉り、心臓を抉り、そして抉り抜いたその二つを自らの手で潰した男が明を見つめて嗤った。

 その身体がふらりと揺れて、地面に倒れる。

 五人の前に馴染みのある画面が現れた。



 ――――――――――――――――――

 ボスモンスターの討伐が確認されました。

 世界反転の進行度が減少します。

 ――――――――――――――――――




「え?」


 表示された画面の意味を、誰もが理解出来ずただただ見つめていた。


「ボスモンスター? アイツが? ちょっと待て、どういうことだ!? アイツは異世界人のはずだろ!!? それなのに、なんでボスモンスタ―だなんて……」


 混乱する呟きを発して、明はようやく気が付いた。


(血……。そうだ、コイツの血!! モンスターと同じ色をしているっ!)


 思えば、これまで手にかけてきた異世界人の中で、モンスターと同じ血を持っていたのはニコライが初めてだった。他の異世界人の血は、モンスターと同じではなかったのだ。



(ニコライは異世界人じゃなかった……のか? アイツはモンスターだった? いや、だとしたらどうして異世界人なんて名乗って――――)

「蒼汰ァ!」


 明の思考を龍一の言葉が遮った。

 龍一はふらつく身体でニコライへの死体へと近づくと、その下敷きになった蒼汰を助けだそうと躍起になっている。


(考えるのは後だ)


 明は思考を片隅に追いやる。

 それから蒼汰を助け出そうと動き始めたところで、その違和感に気が付いた。



「……?」



 ニコライの身体の下にある、蒼汰の身体がボコりと蠢いていた。

 まるで皮膚の下に何かが這っているかのようなその奇妙な蠢きは、次第にハッキリと大きくなる。

 ゾクリとした感覚。

 うなじが冷えたかのようにシンと軋み、確かな警告が明に気を付けろと叫びをあげた。



「龍一さん!!」



 咄嗟に明は走り出し、龍一を抱えて後ろに跳んだ。

 その直後だった。

 ぶぉん!

 直前にまで龍一が居た場所を、奇妙な触手が薙いでいた。その触手は蒼汰の身体から伸びたもので、びたびたと何かを探すように地面を這うと、やがて手あたり次第に周囲のものを破壊し始める。


「そう……た?」

「…………くそ」


 龍一が呆然として呟く。

 一方で、その光景に身に覚えがある明は小さな舌打ちを漏らしていた。


「嘘、だよな?」

「何あれ……」

「蒼汰くん?」


 目の前で姿を変えていく少年の姿に、青い顔となった奈緒たちが呟きを漏らす。


「ォオオオオオオオオオオオオオ…………」


 寝ていたはずの蒼汰が目を覚ました。

 その姿は、人間とはおよそ呼べない姿に変わってしまっていた。


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[良い点] 続きが気になる [気になる点] 龍一月どういう状態なのか全くわからん
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