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VS ニコライ④



「形勢逆転ですね」


 影はニコライの狂気を宿しているかのようにボコボコと沸き立つように蠢くと、瞬く間に巨大な手のような形を模った。よくよく見れば、影で作られた無数の小さな手が集まっているようだ。一本一本がまるで自立しているかのように奇妙に蠢いている。


「これで、あなたは私を傷つけることすら出来ないッッ!」


 叫びと共に、模られた巨大な手が明へと振り下ろされた。

 柏葉が操る瓦礫の巨人による一撃にも等しい攻撃だ。質量により威力を上げた柏葉とは違って、ニコライの一撃には純粋な魔力による補強が入っている。



(さすがにコレは避けないとマズイな)



 『危機察知』による警告を感じて、舌打ち混じりに明は心で呟いた。

 即座に地面を蹴ってその場を離れると、地面を砕きながら叩き潰した巨大な手が一瞬にして無数の手へと分裂し、明を逃さないと言わんばかりに追いかけ始めた。

 先ほどの触手とは違って、一本一本の腕が一撃必殺の威力を秘めた槍のように鋭い。当たればまず間違いなく、致命傷となるのは避けられないだろう。


「クソッ! 厄介な魔法を使いやがって!!」


 次々と襲い掛かってくる無数の腕を斬り払い、躱して、明が叫んだ。



「『水棲の泥沼』」



 次の瞬間、明の足に重たい泥が纏わりついていた。

 ニコライが放った魔法だ。どうやら地形そのものを変化させるものらしい。明が踏み込んだ地面が一瞬にして沼地に変わり、その泥に足を取られた明は一瞬、動きを止めてしまった。



「ッ!」



 そんな明の隙を逃すまいと、無数の影が一斉に襲い掛かる。



「が……ッ!!」



 左腕、右脇腹、右肩に左大腿。次々と刺さる影の触腕が明の身体を地面に縫い止める。まるで標本となった蟲のように身動き一つ出来なくなっていた明だったが、それも束の間のことだった。



「ぐ、ぅうッ!!」



 肉が裂ける音があたりに響いた。無理やりに身体を動かした明が、その拘束を逃れようと地面に向けて狙いを定めたのだ。



「ぅうううおおおおおおおおお!」



 雄叫びを上げて、明が足元の沼地へと握りしめた拳を全力で撃ち放つ。

 ドッパァン!

 まるで砲弾が着弾したかのように、激しい衝撃があたりに響いて足元の沼地が飛散した。

 衝撃で明を縫い止めた影の触腕も霧散したらしい。明は転がるようにしてその沼地から這い出ると、肩で息を切らしながらニコライを睨み付けた。


「狡い手を使いやがって」

「拳で沼地を吹き飛ばすような、規格外のあなたには言われたくありませんね」


 ニコライが明に向けて鼻を鳴らした。


「ですが、そんなあなたとの遊びもこれで終わりです」



 ニコライの呟きに応じるかのように、再び周囲の影が蠢き始める。



「『影閃刃』」



 影が巨大な戦斧となって地面を断ち斬った。明が剣を構えてその斬撃を受け止めるが、受け止めたはずの戦斧がその形を崩しまた無数に分裂して、触腕となって襲い掛かってくる。


(くそっ、キリがない!)


 襲い来る腕を躱しながら、明が心で呟いた。



(『魔力回復薬』を飲んで、すでに二十秒以上……。俺に残された時間はあと十秒もない。このままヤツの攻撃を躱し続けても、時間が無駄に過ぎるだけだ!)



 時間切れは、すなわち敗北を意味している。

 今なおこうしている間にも、体内に残された魔力は急速な勢いで減り続けている。


(柏葉さんに用意してもらった『魔力回復薬』は、あれで全部だ)



 となれば、もはや打つ手は一つだ。



(次で決める!)



 ダンッと地面を蹴って、明は反転した。

 急な方向転換に追いつけなかったのか、無数の腕が、明が切り返した場所の地面へと突き刺さっていく。明はその腕に気にもかけず、ぐんぐんとニコライへと迫りその懐に入ると、即座に手にした刃を払った。



「ぐっ!」



 刃の威力に押されて、ニコライの上体が浮いた。が、その身体にはダメージらしき傷がない。明にはもう攻撃手段がないと思っているのか、ニコライの顔に満面の笑みが浮かび上がる。



「無駄です。今の私には、ありとあらゆる物理攻撃は通用しない」

「ああ、そうかよ。だったら別の手段で攻撃するだけだ」


 息を吐き出し、明が呟いた。



「『巨大化(メガモーフ)』」



 残された魔力の全てを、明は一気に武器へと回した。

 その魔力に反応した武器が、身の丈を遥に超えた巨剣へとその姿を変えていく。



「なん……だ、それは」


 目の前で、瞬く間に巨大な武器へと姿を変えていくその剣を目にしてニコライが口を開いた。



「何なんだその武器は……ッ!!」

「何って、ただの剣だよ」


 身の丈を遥かに超える巨大な長剣を手にした明が、大きくその武器を振りかぶった。



「巨人を裂いて手に入れた、テメェら異世界に一撃喰らわすためだけに仲間が創ってくれたデカいだけの長剣だ」


 明が手にする剣の刃に、青白く輝く魔力が光り収束する。



「テメェにはまだ聞きたいことが山ほどある。安心しろ、殺しはしないさ」



 明がニコライへと言い放ち、


「―――『魔力撃』」


 地形を破壊するほどの一撃が、ニコライへと向けて解き放たれた。



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