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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
五章

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死霊憑依②



「だったら俺も、全力でお前を倒すだけだ。蒼汰(アイツ)の為になァ!!」


 叫び、龍一が動きだす。



「『疾走』!!」



 身に宿る魔力を速度に変えた男は、一息でアーサーの目の前へと滑り込んだ。

 速度値に差があり、身動きする暇もなかったのだろう。気が付けば懐で槍を構えていた男を目にして、アーサーの瞳が大きく見開かれた。



「――――っ」



 声なき声をあげて、回避しようと身動きするがその動きもすでに遅い。

 アーサーが動き出した時にはもう、龍一は次の行動へと移っていた。



「『神穿ち』!」


 神速の一突きがアーサーを捉えた。



「ごふっ!」



 槍の穂先はアーサーの腹を穿ち、貫通する。致命傷にもなりうる一撃だ。確実に入ったそのダメージの大きさに、龍一は勝利を確信した。

 ニヤリとアーサーが嗤ったのはその時だ。



「残念。仕留め損なったな」



 痛みに震えるその手が、龍一の握る槍の柄を捕まえた。

 瞬間、バキりと音が鳴る。

 まさか、手に掴まれただけで武器が砕かれるとは思ってもいなかったのだろう。龍一の瞳が大きく見開かれた。



「――ッ!? この力、まさか」

「その、まさかだ!」



 血を溢しながらニヤリと笑って、アーサーは砕けた槍から手を離して片手を握りしめた。



「今の私に、不用意に近づくべきじゃあ無かったな。『疾走』スキルで速度を上げた意味がない」

「『死霊憑依』……!!」

「正解だ!!」



 拳が、龍一の腹に振るわれた。



「清水さん!!」



 吹き飛ばされた龍一を見て、慌てて奈緒が動き出す。しかし、その動きもすぐに止まった。龍一が無事を示すように起き上がったからだ。



「つ、あァ……。だい、じょうぶだ」



 どうやら、拳が当たる寸前に後ろに跳んで衝撃をいなしたらしい。直撃は免れたがそれでもダメージを受けることは避けられなかったようで、龍一は、折れた肋骨を押さえながら血を吐き捨てると、痛みに耐えるように深い息を吐き出した。



「『死霊憑依』……。確か、他のスキルが一切使えなくなる代わりに、操る死霊のステータス分だけ自分のステータスが上昇するスキル、だったか?」



 その言葉に、奈緒はハッとした。

 なるほど、どうりであの男が他のスキルを使ってこなかったわけだ。

 明から聞いていた男の特徴からすれば、アーサーは柏葉と同じく『隠密』というスキルも持っていたはずである。そのスキルを使えばもっと攪乱させることも出来たはずなのに、真正面から堂々と戦っていたのはそれが原因だろう。



(でも、その理由が分かったからって、何の意味もない)



 オリヴィアは、アーサーによって筋力値特化のステータス配分がなされている。

 その力の全てが今のアーサーのものになっているのだとすれば、今のアーサーがスキルを使うことが出来ないからといって、安心することなど出来るはずもない。



「面倒だな」



 それは、龍一も同じ考えだったようだ。

 アーサーの操る死霊が筋力特化のステータス配分がなされていると知っていたのか、彼は、アーサーの動きを警戒するように睨み付けると手にした壊れた長槍を投げ捨てた。



「確かに、その力があれば他のスキルは必要ねぇ。まともに当たれば、一撃で相手を潰すことが出来るからな」



 呟きながら龍一は深く腰を落とす。

 次の行動に備えるように、その両足へと力を溜める。



「……だけど、だからどうした? 今のテメェが筋力値特化のステータスになっていようが、その攻撃が当たらなけりゃ意味がねぇ!」



 自分を奮い立たせるようにそう叫ぶと、龍一は再び動き出した。

 ドンと地面を蹴り滑るように駆け抜け、アーサーの懐へと入ると同時にお返しとばかりに腹を殴りつける。



「ふっ!」



 そして、すぐに地面を蹴って後ろに跳んだ。

 速度値に差があるからだろう。一拍遅れて、アーサーの拳が龍一のいた場所に振るわれた。それを見て、龍一は再び地面を蹴って近づくとがら空きとなったアーサーの顔へと蹴りを放つ。



「あの時、仲間だからって自慢げに力を見せびらかすべきじゃなかったな、アーサー!! タネさえ割れちまえばこっちのもんだ! アンタの速度じゃ、『疾走』状態の俺には敵わねぇよ!!」

「ぐ、ぅ……! ちょこまかと!」



 苛立つようにアーサーが手にしたナイフを振るうが、それも当たらない。

 詰めては離れて。攻撃を当てればまた逃げて。ヒット&アウェイの要領で龍一はアーサーへと蹴りや拳で乱打を放つと、トドメとばかりにアーサーの顔面を蹴りつけ、地面に叩きつけた。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。アーサー、神父の側近だったお前なら知ってるだろ?」


 荒い息を吐き出しながら、龍一は問いかけた。



「テメェらの言う依代とやらに、蒼汰がなった原因……。アイツの身体の中に入れられた『ヴィネの左腕』はどうやったら取り出せる? その方法はいったいなんだ? 答えろ。アーサー!!」

「く、ふふ……ふはははは!! 私がその方法を知るものか。それに、お前は私に勝った気でいるようだが……。それは少し傲りすぎじゃないか?」

「何言ってやがる。『死霊憑依』中のお前にスキルは使えない。さっきは油断してたが、今のお前じゃ俺には勝てない」

「……あぁ、そうだな。今の私は、な?」



 含みのある言い方だ。

 その言葉に、龍一がピクリと眉を動かした。その時だった。



「オリヴィア!!」



 ふいに、アーサーが叫んだ。



「『解除』だ」



 アーサーの身体からオリヴィアの身体が浮かび上がる。分離した霊体はアーサーの周囲にふよふよと留まるとニコリとした笑みを浮かべた。



「これで、元通り」



 ニヤリとアーサーが嗤った。

 その言葉が、どんな意味を指すものか考えるまでもなかった。


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