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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
五章

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自壊の一撃



「な……んだ……アレは」


 その異変に最初に気が付いたのは、マルコと呼ばれた異世界人だった。

 目の前で次々と組み上がり、巨大な人の姿を成していく瓦礫の様子に言葉を失った。

 組み上がる人形に気が付いたのは何もマルコだけではない。

 一人、また一人と。瓦礫が積み上がり人の姿が模られていくにつれて、その場に居た信者たちの瞳はその人形へと釘付けになっていく。



「ゴーレム……なのか?」


 信者の一人がぼそりと呟く。その言葉に他の信者が反応する。



「ゴーレム? あれがゴーレムだって!? そんなわけがあるか!! ゴーレムがこんなところにいるはずがない!! 山脈に生息するモンスターだぞ!? 平野のここに、いるはずがない!!」

「それじゃあ、アレは何なんだよ!!」

「ッ、待て!! あのゴーレムの肩! 誰かいるぞ!!」



 ハッとして、その場に居た全員が目を向けた。

 闇夜の中でもハッキリと分かる幾何学模様を全身に浮かび上がらせ、巨人を操るように両手の指を開いたその人物は――柏葉だ。


 その姿を見て、信者たちも巨人の正体を察したようだ。



「あれはゴーレムじゃない! あの女が操っている!! あの女……『人形師』だったのか!?」

「だとしたらあの女を止めろ!! 『人形師』の弱点は本体だ! アイツを狙え!!」

「どけッッ!! 俺がやる!!」



 一人の信者が前に飛び出した。



「『鷹の目(イーグルアイ)』『雷槍(サンダースピア)』」



 手にした長槍を構えて、上体を反らせる。その瞳が怪しく輝き、槍の穂先にバチバチと弾ける稲妻が凝集されていく。



「『筋力増加(ストレングスアップ)』!!」



 叫び、手にした長槍を投げ放った。

 空気を切り裂きながら弾丸のように飛び出した長槍は、狙い違わず柏葉へと飛翔する。しかし――。



「嘘、だろ…………?」


 呆然とした声が槍を放った男の口から漏れていた。



 槍は、確かに柏葉へと命中した。身に付けた〝火炎払いのローブ〟の耐久値を破り、柏葉が持つその身に宿した耐久値さえも貫き、急所とも言える心臓を確かに穿ち、貫き、大穴を空けていた。


 だが、それでも――柏葉薫は生きていた。


 全身に浮かぶ怪しげな紋様を輝かせて。口から血の泡を溢しながらも構えた十指を崩すことなく持ちあげて、しかと戦場を睨みながら瓦礫の巨人を操り続けていた。

 ふつふつと胸の大穴から肉芽があがり、傷が消えていく。『再生』スキル(ギガントの力)が、吹き飛んだ肉も、骨も、心臓さえも再生させて瞬く間に傷のない身体へと癒していく。



残骸の巨人(デブリス・タイタン)


 呟き、柏葉は両手の指を組んで持ち上げた。



 その動きに合わせて瓦礫の巨人もまた、その両手の指を組み合わせて持ち上げる。

 巨大な両腕に覆われて、闇夜に浮かぶ月が隠れた。

 光が消えて、落ちた巨大な影が戦場を黒く覆い塗り潰していた。



「マズイ! 逃げろ!!」


 巨人の仕草に、次の行動が分かったのだろう。慌てたように信者たちが一斉に動き出した。




「もう、遅いよ」


 そんな彼らへと向けて、柏葉は小さな声で囁き、




自壊の(クラッシュ・)一撃(インパクト)!!」



 組んだ両指を振り下ろした。




「ぅ、ぁああああ――――……!!」



 信者たちの絶叫が響く。その絶叫も、すぐに消える。




 巨人の質量を伴う一撃の威力に、地面が割れた。

 吹き上がる煙塵は街を覆い、衝撃は周囲の建物をなぎ倒して瓦礫に変えた。

 街が、世界が、大きく揺れた。

 その身を崩す決死の一撃は、街の区画を破壊する必殺の威力となっていた。





 ――――――――――――――――――

 レベルアップしました。

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 ポイントを3つ獲得しました。

 消費されていない獲得ポイントがあります。

 獲得ポイントを振り分けてください。

 ――――――――――――――――――




 巨人の一撃に、周囲のモンスターも巻き込まれたのだろうか。

 柏葉の眼前にレベルアップを示す画面が開かれた。



「――――――」



 直後、ガラリと巨人の身体が崩れた。

 叩きつけた両腕の衝撃に耐え切れず、崩壊したのだ。

 降り注ぐ瓦礫の一つ一つが、生きた人間を逃さないとしているかのように街に降り注ぐ。

 巨人の肩口に乗っていた柏葉の足場もまた、その崩壊に巻き込まれて元の瓦礫へと戻っていた。



「っ!」



 慌てて、柏葉は足場を確保しようと魔力の糸を手繰り寄せた。が、『人形師』のスキルが発動しない。



スキルの再使用時間(クールタイム)ッ!?)



 宙に投げ出された柏葉は唇を噛みしめた。

 創造次第でどんな力にも化ける『人形師』スキルだが、弱点がある。

 創り出した物の大きさや形に応じて、次にスキルが使えるようになる時間が決まるというものだ。



(〝残骸の巨人(デブリス・タイタン)〟が完全に壊れたから、スキルの発動が途切れたんだ!)



 ギガントを相手に戦った時には、次にスキルが使えるようになるまで五日を要した。

 今回、創造した人形の大きさはギガント戦で創ったものに匹敵する。再び、『人形師』のスキルを再び使えるようになるには同じだけの時間が必要だと考えるべきだろう。



(『再生』スキルは!? 時間があれば、この高さから落ちてもまだ生き残れるッ)



 ステータス画面を開いて、変化の水薬の残り時間を確認する。




 ――残り時間、0.42秒。




(…………さすがにもう、無理か)




 瞼を固く閉じて、落下による衝撃と痛みを覚悟した。

 身体を掴まれたのはその時だ。



「助かりました」



 優しい声だった。

 その声の主を、柏葉はすでに知っていた。



「こちらこそ、です。一条さん」



 呟き、笑う。

 目を向けると、明は片手に蒼汰を抱えていた。どうやら、柏葉が巨人を操り始めてすぐに蒼汰とともに範囲外へと逃げていたらしい。

 これほどの騒ぎの中でも覚醒する気配もなく、いまだに眠り続けている蒼汰に向けて柏葉は呆れたような小さな笑みを向けると、明に向けて言葉を続けた。



「すみません。あんな方法しか思いつかなくて……。蒼汰君のことも、ありがとうございます」

「大丈夫です。まあ、少しは手加減して欲しかったのが正直な感想ですけど」


 明は、崩れ落ちる瓦礫を足場にしながら器用に跳び移りながら笑みを浮かべる。


「巻き込まれるかと思ってヒヤヒヤしました」

「す、すみません」



 謝る柏葉に、明は声をあげて笑った。

 崩れ落ちる瓦礫の範囲外へと跳ぶと、そのまま地面に着地する。



「薬の効果、切れましたね」



 明は抱えた柏葉を地面に下ろすと、その全身を見つめながら言った。

 言われた柏葉も、自らの身体を見下ろしながら頷く。



「はい。副作用、と言っていいのか分かりませんが、代償はありましたが随分と助けられました」

「結晶化した魔素は……やっぱり、そのままですか?」



 呟くように言って、明は柏葉の額を見つめた。



「……そのまま、ですね」



 額に触れながら柏葉は呟いた。

 指先に伝う硬い感触にため息が漏れる。今のところ実害はないようだが、それでも、やっぱり気分としては良くはない。



「まあ、イボだと思って割り切ります」



 柏葉はそう言って手櫛で前髪を整えると、額に出来た結晶を覆い隠した。

 柏葉が割り切ったことで、話を蒸し返すのも無粋だと思ったのだろう。明は頷きとともに周囲へと視線を向けると、話題を変えるように口にする。



「それにしても……さすがの威力ですね。この様子なら、まず間違いなく連中は生きていないでしょう」



 仮に生きていたとしても、ダメ押しとばかりに降り注いだ瓦礫の山に生き埋めにされている。すぐに動くのは不可能だ。



「あの、一条さん」

「はい?」

「どうしてあの時……。私がまだ『人形師』のスキルを発動したままだって分かったんですか?」



 首を傾げて柏葉は問いかけた。

 その言葉に、明は「ああ」と訳知り顔で頷き答える。



「『魔力感知』スキルの影響です。柏葉さんの固有スキル、魔力が影響しているでしょう? だから、到着してすぐにスキルを発動していることが分かったんです」



 なるほど。言われてみれば確かにそうだ。

 『魔力感知』スキルを持つ明は、魔力に関わるスキルの発動を常に感知している。『人形師』スキルの発動に魔力が関わっていることは感覚的に確かなのだから、それを感知する明もまた、柏葉が伸ばした魔力の糸を感知していたのだろう。



「っ、騒ぎすぎましたね」



 瓦礫の山を見つめていた明が、小さな舌打ちを漏らした。

 視線を追いかけると、瓦礫を越えて集まり始めているイビルアイを見つけた。どうやら、戦闘音に釣られて集まってきたようだ。巨人による一撃で街の区画が破壊され、自分たちの縄張りが犯されたと感じているのか目玉が血走っている。


 興奮したイビルアイ達は戦場へと辿り着くと、すぐに瓦礫の隙間から信者の死体を掘り起こし始めた。



「――っ」



 一匹、二匹と。触手を蠢かしながら手に入れた()()()へとむしゃぶりつくその光景は、精神衛生上よろしくない。

 視線を逸らすと明も同じことを感じているようで、その眉間には深い皺が刻み込まれていた。



「移動しましょう。仮に生きている奴らが居たとしても、モンスター(あいつら)が処理してくれます。俺はこのまま奈緒さんの下に向かいますが、柏葉さんはどうされますか?」

「私も、行きます」



 明の言葉にしかと頷く。

 そんな柏葉へと向けて、明もまた力強い頷きを返したのだった。


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