ゴブリンの宿敵
それから、約二時間。
黙々とゴブリンを討伐し続ける明の前に、ふいにその画面は現れた。
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E級クエスト:ゴブリンが進行中。
討伐ゴブリン数:50/100
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条件を満たしました。
ブロンズトロフィー:ゴブリンの宿敵 を獲得しました。
ブロンズトロフィー:ゴブリンの宿敵 を獲得したことで、以下の特典が与えられます。
・ゴブリン種族からの敵対心+20
・ゴブリン種族へのダメージボーナス+3%
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「……トロフィー、か。久しぶりだな」
言いながら、明はその画面の文字に目を通す。
(何々……。ゴブリンの宿敵? ゴブリンばっかり狙って倒していたからか?)
現状で、明のレベリングの相手はゴブリンだけだ。となれば、このトロフィーが出たのも、おそらくは一定数以上のゴブリンを倒したからだろう。
(敵対心の上昇は……よりヘイトを稼ぎやすくなったってことでいいのか? どのくらいヘイトが向くのか分からないけど、とにかくゴブリン達に狙われやすくなったってことだよな……。あ、でもダメージボーナスは嬉しい。単純に、攻撃の威力が上がるってことだろうし)
これまでのトロフィーはメリットしかなかったが、どうやら、今回獲得したトロフィーはメリットだけでなくデメリットもあるらしい。
(んー……。このダメージボーナスって、ステータスに表示されたりするのかな)
ゲームの種類にもよるが、ダメージボーナスが発生していれば大概、そういうものはプレイヤーに分かりやすく表示されているものだ。
(……そうだな。身体強化を取得してから、何度かレベルアップしてるし……。いい機会だ。一度、自分のステータスを確認しておこう)
明は、そう心で呟くとさっそく自らのステータス画面を開いた。
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一条 明 25歳 男 Lv5(7)
体力:9(+3Up)
筋力:24(+3Up)
耐久:23(+3Up)
速度:18(+3Up)
幸運:8(+3Up)
獲得ポイント:3
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固有スキル
・黄泉帰り
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スキル
・身体強化Lv1
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ダメージボーナス
・ゴブリン種族 +3%
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一時間ぶりに表示させたステータスには、新たな項目が増えていた。
明の思った通り、トロフィーによって獲得したダメージボーナスの数値を、今度からはステータス画面で見られるようになっていた。
明はその項目を見ながら、ふと思い出したことを呟く。
「そういえば、ゲームとかだと実績みたいな感じで、俺が獲得したトロフィーの一覧が表示されそうだけど、それはないのか?」
その、瞬間だった。
――チリン。と、再び聞こえた音と共に、ステータス画面は切り替わった。
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獲得トロフィー一覧
ブロンズ
・二度目の死亡
・初めてのモンスター討伐
・ゴブリンの宿敵
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「うおっ、出た」
切り替わった画面に、明が驚きの声を出す。
それから、表示される画面を見て、明は首を傾げる。
(……なんだ? 何かの言葉に反応して出てきたような感じだったけど)
明は一度手を振って、表示された画面を掻き消した。
それから、何もないことを確認して思い当たる言葉を呟く。
「トロフィー」
画面は表示されない。
「……トロフィー一覧」
やはり、画面は表示されない。
「……獲得トロフィー」
しかし、目の前にあるのは夜の闇に包まれる住宅街だけだ。
「どれも違うのか……。それじゃあ、実績」
その言葉を呟いた時だ。
再び、先ほどの画面は明の前に現れた。
(なるほど、実績がキーワードね。んー……、なんか、全体的にだけど。ステータスの時といい、今回の実績の時といい、何の言葉でどの画面が出てくるのか分からないのはキツイな。まあ、暇な時にゲームに関するそれらしい言葉を言っていくか)
心で呟きながら、明はつい今しがた思い浮かべた『ステータス』の言葉に反応して表示された画面を消して、ぐっと伸びをする。
(ゴブリンを倒しまくって、上がったレベルは3つ。獲得したポイントも3つ。身体強化のレベルアップまで、あと17レベル……。長いなぁ)
ゴブリン一匹を倒し、レベルが上がっていたのは最初だけだ。
引き継ぎされている括弧内のレベルを基準にして、レベル4からレベル5に上がるのに倒したゴブリンの数は5匹。その次のレベルに上がるのに倒したゴブリンの数は10匹。その次は20匹と、段々と要求される数が増えてきている。
この調子では、ゴブリンを百匹狩ってもレベルアップしない、なんてことになるのも時間の問題だろうと明は考えた。
「つっても、ここまで来ればクエストは終わらせておきたいし……」
ゴブリンを倒した際に表示されたクエストの進行は、ちょうど折り返しである五十匹の討伐を知らせている。
ここまで来れば、残りは一気に終わらせたいものだ。
(あの数を倒すまで、結構時間が掛かったんだよなぁ。クエストっていうからには、少なからず報酬はあるだろうし……。今のレベルでゴブリンを相手にすればレベルアップはほとんどしないだろうけど、それでも、このクエストだけは終わらせようかな)
レベリングとクエストの進行。
その両方を天秤にかけて、明はクエストの進行を選んだ。




