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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
五章

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245/351

誘導役は?②

246話から移動



「蒼汰を全員で抱える? どういう意味だ?」


 明が発した突飛な言葉を聞いて、四人を代表するように奈緒が言った。



「ひとりひとりが蒼汰の手足を持って移動するってこと?」


 彩夏がため息を吐きながら言う。



「それ、する意味ありますか?」


 と柏葉が呆れた視線となって明を見つめた。



 明は、そんな三人に向けて「違う違う」と手を振ると、慌てて言葉を継ぎ足す。



「より正確に言えば、誰が蒼汰を抱えているのか分からなくさせる、だ。――……蒼汰を入れて俺たちは六人。二人ずつペアを作れば、ちょうど三つのグループが出来る。別れた俺たちはそれぞれ、相方になった人を抱えた状態で布を被り、一斉に連中の前に姿を現して逃げるんだ。……そうすれば、連中は誰が蒼汰を抱えているのかが分からなくなる」

「なるほど。確かにその方法なら連中の分断が確実に可能、か」


 考え込むように奈緒は言った。

 その言葉に明は頷く。


「はい。それに、この方法を使えば『索敵』の対策にもなる」

「『索敵』の? どういうこと?」


 不思議そうな顔で彩夏が首を傾げた。

 明は、ちらりと彩夏へ視線を向けると解説をするように言葉を続ける。


「『索敵』スキルの優秀な点は、効果範囲内のモンスターと人間の気配が分かることだろ? だけど、逆に言うとそれは、効果範囲内の気配が分かるだけってことになる。『索敵』は、直接目で確かめないかぎりその気配が誰のものなのかが分からないんだ」



 『索敵』スキルを普段から使用しているから分かるのだろう。奈緒は小さく頷いた。



「そうだな。『索敵』スキルでモンスターや人の気配が分かっても、そこに居る気配の主がどんなモンスターなのか、どんなヤツなのかは実際に見てみるまでは分からない。……『索敵』スキルは、便利なスキルではあるけど痒いところに手が届かないスキルだからな」

「はい。だから、今回はそれを逆に利用する」

「――――ぁ、そうか。だから二人一組で姿を隠すのか」



 彩夏は明が言いたいことが分かったのだろう。得心いったように頷いた。



「姿を隠していれば、『索敵』スキルで気配は分かってもそこに誰が居るのかが分からないもんね」

「ああ。さらにもう一つ言えば、連中の勝利条件は()()()()()()()だ。なら、俺たちがいくら誘導と囮で画策しようにも、そこに蒼汰がいないと分かればまず間違いなく連中は引っ掛からない。『索敵』というスキルがあるからこそ、囮が囮として上手く機能しない可能性が高い」

「……なるほどな。言われてみれば確かにそうだ」


 龍一は明の言葉に大きなため息を吐き出した。


「俺が連中の前に出たところで、そこに蒼汰が居ないと分かれば連中は見向きもしないわけか」

「ええ。……結局のところ、囮としての一番は蒼汰をあえて連中の前に晒すことです。でも、それはあまりにも危険すぎる」



 明の言葉に龍一が頷いた。



「当たり前だ。蒼汰を奪われれば全てが終わるんだ。護り切ることが出来れば良いが、俺たちとアイツらじゃあ地力が違いすぎる。あっという間に奪われるぞ」

「分かってます。だから、蒼汰を誰が抱えているのか分からない状態にさせた上で、俺たちが一斉に別れるんです。スキルで判別しようにも、逃げる気配はどれも二つ。そうなれば、連中がその場で取れる手段は一つだ」

「分断して、別れた私達を追いかけるしかない……か」



 小さな声で奈緒が呟いた。



「はい。現状、出来る手段があるとすればこれがベストかと」



 明は奈緒の言葉に頷いた。

 奈緒は、しばらく考え込むように視線を彷徨わせていたが、やがて考えを纏めるように口を開く。



「…………モンスターハウスはどうする? それに、その方法だと誰か一組のグループに敵の戦力が集中するかもしれない。リスクは大きいぞ」



 もっともな話だ。奈緒の言うように、この作戦にはリスクが存在する。

 龍一や彩夏もその答えが気になるのだろう。彼らは明の答えを待つようにジッと視線を向けていた。

 明は、そんな三人の顔を順に見つめると、静かな口調で問いに応えていく。



「モンスターハウスに関しては、逃げた三グループの最終合流地点をモンスターハウスにすることで対応できます。比重に関しては……。正直、対策はありません。ですが、連中を確実に分断し、かつ、罠に嵌めようとするならこの方法が一番――――」



 明の声が、ふいに止まる。

 かと思えば、その顔つきが見る見るうちに険しくなっていく。



「一条?」


 急に表情が変わったからだろう。奈緒が怪訝な顔で言った。



「どうした?」

「…………『魔力感知』スキルに反応がありました。外で、誰かが魔力系統のスキルを使っているみたいだ」

「はぁ? 誰かって、この街にあたしたち以外誰もいないでしょ? そんなのいったい誰が――――ッて、まさか」



 明の言葉に怪訝な表情で彩夏は言って、ハッと気が付いたように息を吸い込む。

 彩夏だけじゃない。奈緒も、柏葉も、龍一も。全員が全員、明の言いたいことに気が付いたのだろう。一瞬にして濃い警戒の色をその顔に浮かべた。



「リリスライラか?」


 全員を代表するように、龍一が言った。



「おそらく」


 と明は呟く。



「奈緒さん、花柳。『索敵』に反応はあるか?」

「……いや、ないな。範囲外みたいだ」

「あたしも。『索敵』には反応ないよ」

「……ってことは、遠目からこちらの様子を見ている段階か」



 唇に手を押し当てながら、考え込むように明は言った。

 連中が、何のスキルを使用しているのかは分からない。けれど、断続的に何度も『魔力感知』が反応しているところからして、連中が使っているスキルは『初級魔法』などといった攻撃系統のスキルではないようだ。



(攻撃系統のスキルじゃない、ということは何かしらの補助系統か?)



 心で呟き、考える。

 すると、そんな明へとそっと奈緒が問うてくる。



「逃げ出せそうか?」

「……いや。多分だけど、囲まれてるでしょうね。今から逃げようとしても、もう遅いのかもしれない」



 前々回のことを思い出しながら明は言った。

 あの時は〝魔弾〟の暴発を利用して包囲網から抜け出すことが出来た。が、それでも大きな痛手を負ったことは間違いない。〝魔弾〟を使ってもいいが、あの時のように上手くいかない可能性だってある。



「一条、どうする?」



 そっと、指示を仰ぐように奈緒は言った。

 その言葉を聞いて、明はさらに思考を巡らせる。



(また襲撃を受ける可能性は予想できた。前々回とは違う行動をとってはいるけど、どこかしらで連中に見つかっていれば、遅かれ早かれ襲撃を受けるからだ。だから、急いで連中を罠に嵌める準備を進めた。あとは、どう実行するのかだけど……)



 今、全員へと説明していた作戦はメリットもあるが大きなリスクもある。

自分のもとに連中の比重が偏ればいいが、他のメンバーへと比重が偏れば逃げることすら出来ないかもしれない。



(……けど、これ以上の話し合いをする時間はもうない)



 時間をかければ、連中に先手を打たれるような状況だ。

 出来れば、こちらから先に仕掛けたい。



(やるしかないな)


 心で呟き、明は全員の顔を見渡した。



「今、説明していた作戦でいきましょう。誰かのもとに比重が偏る可能性はありますけど……。でも、こうなった以上、もうやるしかない」

「そう、だな。覚悟を決めるか」



 呟き、奈緒は頷く。

 他の三人も同じ気持ちだったのだろう。奈緒に続くように深い頷きを返してきた。



「それで、姿を隠すものなんですけど。無難にカーテンか、シーツのような大きな布で姿を隠せないかと思ってて」


 と明がそう言ったその時だ。



 ふいに、柏葉は何かを思い出したように「あっ」とした声をあげると慌てたように自分のバックパックの中身を漁り始めた。



「そうだ、それならちょうどいいものがありますよ! 今回の戦いに向けて、ついさきほど創ったものです!!」


 そう言って、柏葉はバックパックの中から丸められた一枚のフード付きローブを取り出した。


「これは?」


 呟き、明は柏葉が取り出したローブを見つめた。

 全身をすっぽりと覆うような大きめのローブだ。赤黒い見た目をしていて、表面の毛皮がなめされている。手に触れてみると、表面はほんのりとした熱を帯びていた。



「〝毛皮の外套〟と〝地獄犬(ヘルハウンド)の火炎袋〟、あとは『調合』で出来る〝耐火の水薬〟の三つの素材で創ったものです。効果は……。まだ分かりません」

「見てみます」


 即座に明は『鑑定』を発動させた。





 ――――――――――――――――――

 火炎払いのローブ

 ・装備推奨 ―― 筋力値100以上

 ――――――――――――――――――

 ・魔素含有量:%

 ・追加された特殊効果:火炎耐性・中

 ――――――――――――――――――

 ・耐久値:250

 ・ダメージボーナスの発生:なし

 ――――――――――――――――――





「火炎耐性か」


 呟き、ふと、明はリリスライラに囲まれたこの状況から抜け出す方法を思いついた。



「っ、そうだ。これがあれば、この場から抜け出すことが出来るかも!」

「どんな方法?」


 首を傾げて彩夏が言った。


「古今東西、敵の不意をつくのに昔から使われてきた方法だよ。一瞬で敵の気を引けて、混乱を生み出すことも出来る」

「混乱を?」



 眉間に皺を寄せながら彩夏は言った。

 明は、そんな彩夏へと含みのある笑みを浮かべてみせると、ついでその視線を龍一へと向ける。



「龍一さん。確か、ガレージの中にまだ傷のない車がありましたよね? あの車って、まだ動かすことが出来るんですか?」

「あ? ああ、まあ出来るんじゃないか? 鍵は玄関のところに置いてあったし……って、まさか!!」


 龍一は明の言いたいことを察したのだろう。ハッとした顔で明へとその瞳を向けた。


「お前――ッ、車に残っていたガソリンを使って、爆発させるつもりか!?」

「正解です」


 明はニヤリと笑う。



「このローブは耐久値も250とかなり高いし、火炎耐性もついている。今の俺たちのステータスなら、このローブを身に付けてさえいればガソリンの爆発程度で死ぬようなことはないでしょうし、派手に爆発させて、その隙に逃げ出してやりましょう」


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