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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
第一章 すべてのはじまり

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身体強化の影響



「げげっ」

「ぎゃぎゃぎゃっ!」


 二匹のゴブリンの悲鳴に返事をするように、鋭い呼気と共に振るわれる包丁の刃の軌跡が夜の闇に煌めいた。

 明は今、身体強化を獲得してから初めての戦闘の真っ最中だった。

 切先の折れた包丁を片手に、隙を見つけては地面を蹴って近づいて、ゴブリンの腹や腕、胸を斬りつけて確実にダメージを与えていく。

 闇の中に銀閃が煌めくたびにゴブリンの悲鳴があがって、赤黒い血がアスファルトの地面を濡らした。


(――――すごい。身体の奥から力が湧いてくるみたいだ)


 明は、包丁を振るいながらそんなことを思っていた。

 身体強化の影響で、筋力だけでなく速度も上がったからだろう。常に先手を取るようにして動いていく明は、初めて二匹同時を相手にした戦闘にも関わらず、さほど苦戦することもなく着実にゴブリンを追い詰めていく。

 斬っては反撃を避けて、また近づいては蹴りつけて。時には地面を蹴って受ける攻撃を回避しカウンターとしてまた、包丁を振るう。


 そんなやり取りが、幾度続いた時だろうか。


 何度目かの攻撃として、明が包丁の柄でゴブリンの脳天を力いっぱいに叩きつけた時。その威力に耐え切れず目を剥いて気を失い倒れた。



「げぎゃッ!?」



 それに驚いたのは、明ではなく相方のゴブリンだった。

 分かりやすいほどに慌てふためいたそのゴブリンは、地面に倒れたゴブリンと明の顔を見比べて、かと思えばくるりとその向きを変えて逃走しようとする。


「逃がすか!」


 叫び、明はぐっと力を込めて地面を蹴った。

 矢のように飛び出した明は、ぐんぐんとゴブリンの背中に追いつき、その背中に向けてスピードを落とすことなく跳び蹴りを与えた。

 十分な速度はそのまま威力へと変わる。ゴブリンは、バキバキと背骨を折る音を響かせながらゴロゴロと数メートルの距離を転がった。


「げ……、ぁ……」


 言葉を漏らして、ゴブリンがピクピクと痙攣した。どうやら、もう立ち上がる体力もないようだ。

 明はその胸を切り裂くと、その切れ目へと向けて無言で切先の折れた包丁を突き刺した。その衝撃で、包丁の刀身はバキリと折れてしまったが、それでもゴブリンの心臓は無事貫くことが出来たようだった。


 ゴブリンは、甲高い悲鳴を上げた後に身動き一つしなくなってしまった。


 明はリュックに突っ込んでいたゴブリンの棍棒を手に取ると、すぐにくるりと身体の向きを変えて、気を失い倒れていたゴブリンの元へと近づく。



「――――っ!」



 短く、息を吐いて。その手に持つ棍棒を全力で振り下ろす。

 棍棒は鋭い風切り音を鳴らしながらゴブリンの頭蓋に当たって、骨を砕く音を周囲に響かせた。

 しかし、それだけではゴブリンの息の根を止めることは出来ない。だから明は、間髪入れずに再び棍棒を振るう。

 骨を砕き、肉を潰し、やがて脳漿にまで棍棒が届き確実に潰れた頃。明は、ようやく棍棒を振り下ろす手を止めた。




 ――――――――――――――――――

 E級クエスト:ゴブリンが進行中。

 討伐ゴブリン数:3/100

 ――――――――――――――――――




「ふー……。意外と簡単に勝てたな。これなら、ゴブリンだけならもう少し集団でもいいかも」


 表示されるクエスト進行の画面を見て、明は呟いた。



(レベルアップは……今回は無しか。まあ、毎回上がるわけじゃないだろうし、しょうがないか)



 ひとまず、この調子でどんどんゴブリンを殺していこう。

 そう決意を新たにして、明はゴブリンの肉片がこびり付いた棍棒を手放す。

 それから、命を奪ったゴブリンへと目を向けると、その手に握られていた石斧を奪い取り、ふむ、と考え込むような声を出して事切れたゴブリンへとちらりとした視線を向けた。


(『身体強化』のおかげで筋力値も上がってるし、すぐに切れ味の落ちた包丁を使うよりかは、こっちの方がまだ使いやすいか)


 新品の包丁ならまだ会社にあるし、必要になったら取りに戻ろう。

 そんなことを考えながら、明は一度周囲を見渡し、他のモンスターが騒ぎで寄って来ていないことを確認するとまた、夜の街を歩きだしたのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで鉈とか斧とか買わなかったんだろう? ホームセンターにあると思うんだけど。
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