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蒼汰の父親

7/24 加筆にともない分割しました。



※奈緒視点から始まります。


 

 明がサハギンチーフの元へと飛び出してからすぐの事だ。

 その後ろを追いかけようとした奈緒は、突然、見知らぬ男が飛び込んできたことによって物陰から飛び出すタイミングを見失っていた。


「七瀬、どうするの」


 と、奈緒と同じく様子を見ていた彩夏が呟く。


「どうするも何も、様子を見るしかないだろ。誰なんだアイツは。見たところ、かなり動けるみたいだけど」

「動けるっていうか、強い? 下手したら、オッサンと同じぐらいじゃない?」


 まさか、と奈緒は笑った。

 けれど、その彩夏の言葉もあながち間違いでないことも早々に気付かされた。



「『神穿ち』ッッ!!」



 男がスキルを叫び、その姿が一瞬消える。

 かと思えば、轟音と共にサハギンチーフの胴体が吹き飛ばされて、絶叫が辺りに響き渡る。


「……凄い」


 男の放ったその一撃に、七瀬奈緒は言葉を漏らした。



(本当に、あの一条と同じ……。いや、今の一条が〝魔力漏れ〟を患っていることを考えると、一条よりも強いかもしれない)



 ギガントを倒すために死力を尽くしたことで、明はその身体に魔力を溜めることが出来なくなっている。万全の状態でないことを考えると、魔力に関するスキルを使うことが出来るあの男の方が強いだろう。


(あの男のステータスが気になるところだが……。私たちの中で『解析』スキルを取得してるのは一条だけだからなぁ)


 わざわざ同じスキルを持つ必要はないと、あえて取得しなかったことが悔やまれる。

 とはいえ、どうせあの一条のことだ。きっと『解析』スキルで男のステータスは確認しているはず。あとで教えてもらえばいい。


 そんなことを考えて、奈緒は思考を切り替える。



(それにしても、だ。急に飛び出して来た時は何事かと思ったけど、あの人は味方……で、いいんだよな?)



 サハギンチーフを見つけたあの時。ボスの周囲には他モンスターが居ないということもあって、『索敵』スキルの発動を止めていた。それもあって、近くに居たはずの男の存在に気が付かなかった。

 結果的に、明が助けられた(?)形になったのだから感謝はしているが、それでもあの、異常とも言える強さには警戒せざるをえない。


(アクティブスキルの悪いところだな。判断を誤ると、そのツケがすぐに回ってくる)


 彩夏も『索敵』を持っていたはずだが、何も言わなかったことを考えると、同じく発動を止めていたのだろう。



(……今のところ、他に人の気配はないな)



 奈緒は一度、『索敵』を使って周囲を探り、誰も居ないことを確認すると再び思案する。



(それにしても……。あれだけ強いとなると、真っ先に思いつくのはやっぱり固有スキルだな)



 この世界にモンスターが現れた当初から固有スキルを与えられている人間は、選ばれたとでもいうべき特別な人間だ。他の人にはない、特権とでもいうべき特別なシステムが与えられている。

 その中でも、注目すべきシステムはやはり、クエストシステムだ。


(クエストを終わらせれば、それに応じた報酬が貰える。一条のクエストはポイントによる報酬だが、花柳のクエストは経験値らしい。人によって違いがあるみたいだけど、あの男の様子を見るに、一条のようにポイント報酬型のクエストか?)



 思い当たる可能性としては、それが一番大きいだろう。



(……いや、でも。急激に力を付けるとなると、もう一つ、可能性としてはあるか)



 ちらりと、頭の中に()()()の顔が思い浮かんだ。



(リリスライラの信者が持っている『ヴィネの寵愛』というスキル。それによって、ステータスが底上げされている可能性もある……か)



 実際に、そのスキルが表示された画面を見たわけではない。そのスキルの存在だって、奈緒は後々になって明から聞かされたものだ。

 幾度となく『黄泉帰り』を繰り返す一条明に並ぶ効果を持つスキルだなんて、眉唾物もいいところだろう。


「でも、情報源はあの一条だ。アイツがそう言ったなら、そのスキルは確かにある」


 奈緒は小さく呟く。絶対の信頼の元に、その言葉を口にする。

 そして、『ヴィネの寵愛』が存在しているという前提で考えを巡らせる。



(これで、もしも……。一条を助けてくれたあの男が、リリスライラの信者だったら――その時は)


 と、奈緒が心で呟き、魔導銃を握るその手に力を込めたその時だった。



 ふいに、隣に座る蒼汰が立ち上がった。



「蒼汰?」


 思わず、奈緒は呟く。


「どうした? 危ないから座って――」

「お父さん」


 ぽつりと、蒼汰が言葉を溢した。


「え?」

「お父さん……。お父さんだ!」


 声をあげて、蒼汰が駆け出す。


「蒼汰君!?」

 突然のことに、柏葉が慌てた声をあげた。


「あ、おい!」

 と彩夏が叫ぶ。


 だがそんな彼女たちの言葉など聞こえていないのか。蒼汰は、その足を止めることなく真っすぐに、明を助けた男へと向かっていく。



「七瀬、どうすんの!?」



 判断を仰ぐように彩夏が言った。

 その言葉に、奈緒は逡巡する。

 もしもあの男がリリスライラの信者だったならば、ここで姿を現すのはあまりにもリスクが大きい。もしも目を付けられ、この中の誰か一人でも殺されでもすれば一条明はまた、自分を殺してでも過去に戻るだろう。


(けど、だからってあの子を放置するわけにも――――。ああ、もう! 仕方ない!!)


 迷い、答えを出した。明から任されたあの子を、最初から見捨てることなんて出来なかった。



「追いかけるぞ」



 奈緒が口に出した言葉に、柏葉と彩夏の返事が重なった。




            ◇ ◇ ◇




「アンタはどれだ? ただの馬鹿か、それとも……」


 男の問いかけは、返答の間違いを許さないような、そんな冷たさが滲んでいた。


「俺は……」


 と、明は言葉を紡ぐ。

 その先の言葉をどう答えるべきかと考える。



 背後から声が聞こえたのは、そんな時だった。



「お父さん!」



 幼い声があたりに響いた。

 目を向けると、物陰から飛び出した蒼汰が真っすぐにこちらへと駆け寄ってきている。その後ろでは、奈緒たちが物陰から飛び出してくるのが見えた。


「お父さん!!」


 もう一度、蒼汰が叫んだ。



(『お父さん』? ってことはやっぱり、この人は蒼汰の父親だったのか)



 蒼汰の言葉に、明は自分の考えが間違いではなかったことを確信する。


 明はそっと、蒼汰の父親――清水龍一の顔を見た。



「…………ッ」



 龍一は、言葉を失っていた。

 いや、どちらかと言えば彼は次に発するべき言葉を必死に探しているようだった。

 驚いた顔で口を開き、口を閉じて。さらにもう一度口を開き、やがてゆっくりとため息を吐き出すと、やがて苦虫を噛み潰したような表情へとその顔つきが変わる。



「まさか、アンタら……。蒼汰を――あの子をこの街に連れてきたのか」


 そうして、絞り出すように呟かれた言葉には静かな怒りが込められていた。



「へっ?」

「なぜだ……。どうして、あの子を連れてきたんだ!!」



 龍一の怒声が辺りに響き渡る。突然の大声に、明は訳が分からずぽかんと龍一の顔を見つめた。



「何でって……。いや、何をそんなに怒って?」

「帰れ。この街に、あの子の居場所はない。アンタらも、あの子を連れて早く出て行くんだ」


 龍一は吐き捨てるようにそう言った。


「……っ」


 あまりにも身勝手な言葉だ。こちらの都合など何一つとして考えちゃいない。まるで、蒼汰を連れてきたお前たちが悪いと言わんばかりに、一方的な怒りをぶつけてくる。

 明は湧き上がる怒りを抑えるように、大きく息を吐くと口を開いた。



「あのなぁ……。何があったのかは知らねぇけど、そっちの都合で蒼汰は捨てられたんだろ? 俺たちは、アンタが捨てた蒼汰を保護してる。感謝されることはあっても、怒られる筋合いはないと思うんだけど?」



 出来るだけ感情を押さえて、優しく。笑顔で言ったその言葉に、龍一は耳を貸さなかった。



「これ以上、アンタに話すことは何もない」


 そう言って一方的に会話を打ち切ると、明を拒絶するようにくるりと背を向けた。



「あ、おい! どこに行くんだよ!! せめて、蒼汰に謝るぐらいはしたらどうだ!?」

「話すことは何もないと言ったはずだ。いいか、すぐにあの子を連れて街から出ろ。そして、あの子には俺のことは二度と思い出すなと言っておけ」



 振り返ることなく龍一は言った。

 かと思えば、すぐにその両足へと力を込めて、地面を蹴り空へと高く跳び上がる。その勢いのまま、傍にある建物の屋根へと着地する。



「せめて蒼汰を捨てた理由ぐらいは教えろよ!!」



 慌てて、明は声をあげた。

 しかし、龍一はその声に足を止める素振りすら見せなかった。まるで、その場から逃げるように。次々と屋根の上を飛び移ると、あっという間にその場から居なくなってしまう。



「っ、クッソ、何なんだよアイツ……。そりゃ、子供を捨てた手前、その本人に会うのは気が引けるのも分かるけどさ」



 龍一がとった身勝手なその言動に、心の底から沸々とした怒りが湧いてくる。明は、舌打ち混じりに頭の後ろをガシガシと掻くと、大きくため息を吐き出した。


(ホント、何なんだよ……。あれだけ強いなら、蒼汰ひとりぐらい守ることだって出来るだろ! 俺たちにまともな説明も無いし、蒼汰にだって声も掛けずに立ち去るだなんて)


 あまりにも露骨すぎる拒絶だ。捨てられた蒼汰の気持ちも、こちらの気持ちも何一つとして、あの男は考えちゃいない。まるで、はっきりと拒絶の意思を示すことで、蒼汰を含めた全員から嫌われようとしているかのように感じる。



「街から追い出してまで会いたくねぇのかよ。だからって、別に怒らなくても……」



 ぶつぶつと文句を口に出して、ふと、去り際の龍一の言動に違和を覚えた。



(ん? あれ? そう言えば何で、あの人はこの街に蒼汰を連れてきたことを怒ったんだ? というよりも、やたらとこの街から俺たちを追い出したがっていたような……。何か理由があるのか?)



 心で呟き、考える。

 その答えは簡単だ。蒼汰を、この街に入れたくない理由があの男にはあるからだ。



(蒼汰をこの街に入れたくなかった理由? なんだ?)



 明は、男が消えた先を見つめた。



(リリスライラに蒼汰が見つからないようにするため? いや、レベル帯からして蒼汰はリリスライラに狙われない。もしも狙われてるのだとしたら、レベル以外の理由があるってことになるけど)


「……ああクッソ! 何も分かんねぇ!!」


 考えが纏まらない。与えられた情報の一つ一つが断片的で、綺麗に繋がらないのだ。



「はぁ……」



 明はガシガシと頭の後ろを掻き毟る。

 蒼汰に関することで、また一つ、考えるべきことが増えてしまった。思ったよりも、あの少年にまつわる一連の出来事は厄介なのかもしれない。


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[一言] いくらなんでも思い込みで勝手に動きすぎだろこのお父さん 今まで色々あったであろうあれこれをよそ者に八つ当たりみたいにされてもなぁ ろくに説明もなしじゃ知らんがなっていうw
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