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この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている  作者: 灰島シゲル
五章

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五日後


お待たせしました。五章(二部一章)開始です!

活動報告でもお知らせしていましたが、しばらくの間、金曜日と土曜日の0:00に定期更新をしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 


 ヒュンっ!


 風を切って振るわれる巨大な棍棒を、一条明は後方へと跳び退るようにして避けた。獲物を逃した棍棒は、その勢いのままアスファルト舗装の道路を砕き、周囲に石片を飛び散らせる。


 鬼を思わせるような二本の角と、筋骨隆々の巨大な体躯。


 亜人種特有の二足歩行で、憎悪に満ちた視線をギロリと向けてくるそのモンスターは、『解析』を使用して現れた画面によると、〝オーガ〟というモンスターだった。

 画面に表示されたレベルは77。その見た目通り、画面に表示されたステータスは筋力に偏ったもので、数値で言えば300を越えている。

 強化後のミノタウロスに迫るレベルと筋力を持つ、そんなモンスターが全部で五体。群れとなって襲い掛かってきたのは、これまでに拠点としていた街を出た二日後のことである。




 ひとまず、旅の目的を自身のクエストのクリアと定めた明は、まずは自らのシナリオ【魂の誓い】が示す次のボス――イフリートの情報を集めようと、他の街にもあるであろう生存者が集まるコミュニティへと向かうことにした。


 とはいえ、この世界にモンスターが現れてからすでにもう一週間以上だ。


 ボスが討伐された街ならまだしも、ボスが未だに健在している街で生き残っている人間など、そうそう見つかるはずもない。

 新たな街に足を踏み入れるたび、その街にイフリートと生存者がいるのかどうかを調べて、見つからなければその街を牛耳るボスを倒すという行為を繰り返しているうちに、明たちはいつの間にか県境を越えて、隣の県へと足を踏み入れていた。




「奈緒さんッ!」


 叫び、明は合図を送る。その手には、これまで手にしていた武器とはまるで違う鋼鉄の両手剣が握られている。

 〝巨人の短剣〟という名前のその武器は、〝ギガントの心臓〟と壊れた〝斬首斧剣改メ〟を素材に、柏葉が創り出した新たな武器だ。残念ながら『魔力回路』が壊れて、身体の内に溜まるはずの魔力が駄々洩れのこの身体では、その武器の性能を十二分に引き出すことは出来ないが、それでも攻撃力は斬首斧剣をはるかに越えている。


「ショックアロー!」 


 明の言葉に応えるように、明のすぐ傍を一本の閃光が走った。

 光は明の目の前に立つオーガへと直撃すると、すぐに大きな衝撃となって弾ける。その衝撃にオーガの身体がぐらりと揺れて、たたらを踏む。そこに、二つの影が踊った。



「フッ!」

「はぁッ!!」



 柏葉と彩夏だ。

 それぞれ手にした武器は短剣だった。見た目はどちらも同じだが、彩夏の持つ短剣のほうが柏葉に比べて僅かに長い。〝ツインダガー〟という名前のその武器もまた、これまでに手に入れた素材を元に柏葉が創り出した新たな武器だ。本来であれば雌雄一対の双剣だが、彼女たちはその二振りの短剣を一対の双剣として使うのではなく、互いに分け合い、それぞれ片手持ちの短剣として使用していた。


 柏葉と彩夏は、それぞれ示し合わせたように奈緒が狙ったオーガへと襲い掛かる。振るわれる刃のタイミングはほぼ同じ。二つの剣は、引き合うように急所となる喉元と胸部へとその刃を同時に突き刺すと、その白銀の刀身をオーガのどす黒い血で汚した。


「トドメ、よろしくぅ!」


 オーガの傍から離脱した彩夏が、入れ違いざまに声を掛けてくる。

 その言葉に、明はこくりと頷きを返すと両足に力を込めて跳んだ。



「おぉぉぉッ!!」



 叫び、手にした剣を振るう。煌めく銀閃は、真っすぐにその身体を袈裟懸けに切り裂く。

 明は、『軽業』を用いてすぐに空中で姿勢を整えると、そのまま、無理やり刃を返してオーガの首を斬り飛ばした。


「がぁああッ!」


 がら空きとなった明の背後を見て、チャンスだと思ったのだろう。どす黒い血を噴き出して倒れる仲間をよそに、すぐ傍にいた別のオーガが声を上げて、その手に持つ棍棒を振りかざす。



「チェインッ!」



 そんなオーガへと向けて、奈緒の声が飛ぶ。すると突然、オーガの足元から魔力で編まれた鎖が現れて、その大きな身体を縛り上げた。


「奈緒さんナイス!」


 背後で戦況を見渡す彼女へと声を掛けながらも、明の身体はすでに次の行動へと移っている。

 その場でステップを踏んで、独楽のようにぐるんと身体を回転させた明は、その遠心力を直接ぶつけるように剣を振るった。


「が――――」


 刃は、魔力の鎖によって動きを止められた背後のオーガを横一文字に両断した。

 短く響く断末魔には耳も貸さず、明は一撃で崩れ落ちるその巨体を残りの三匹へとぶつけるように蹴り飛ばすと、再び地面を蹴ってその場を明け渡す。

 するとすぐに、その空いた場所へと彩夏が飛び込んで来た。

 彩夏は、手にした剣を腰だめに構えると、スッと、三匹を見据えて叫ぶ。



「『魔力撃』!」


 瞬間、彩夏の体内で練られた魔力がその刃へと収束して青白い光となって輝いた。



「ッ!!」



 直後、声なき気合の言葉と共に刃が振るわれる。

 刃の軌道に合わせて飛ぶ斬撃は、彩夏の身体から放たれる魔力を纏い、その範囲を拡大させる。



「ガァアアアアッ!!」


 魔力を纏った刃は、三匹のオーガを切り裂いた。



 ――だが、それだけではオーガ達は倒れない。



 明が使用した時とは違って、彩夏自身が持つ魔力と筋力が少ないのだ。

 彩夏は、痛みに咆哮を上げるオーガ達へと短く「やっぱり、オッサンみたいにはいかないか」と舌打ちをすると、後退するべく背後へと跳んだ。

 そんな彩夏のすぐ横を、奈緒の放ったショックアローが駆け抜けていく。

 衝撃は立て続けに三匹のオーガへと炸裂すると、そのうちの一体の命を刈り取る。


 地面に倒れる仲間の屍と、立て続けにその身を襲う激痛に残る二体のオーガが怒りの声を上げて前に飛び出そうとした、その時だった。



「どこに行くんです?」



 ゆらり、と。

 オーガのすぐそばに、何処からともなく柏葉が現れた。

 まるで、空気から滲むように現れた柏葉の両手には、それまで握りしめていた短剣とは違って、紫黒色の細長い針が握られている。

 柏葉は、手にした針を構えると、残る二体へと向けてそれぞれ打ち込むようにして投げつけた。


「ぐ、が、ぁあ」


 狙い違わずに、打ち込まれた針の効果がすぐに現れた。

 柏葉が打ち込んだモノ。それは、〝猛毒針〟と呼ばれる武器だった。

 毒に苦しむ二匹のオーガは、地面へと血反吐を撒き散らして痙攣を始める。元々、残されていた体力が少なかったらしい。すぐに虫の息となったオーガに向けて、柏葉はトドメを刺すべく腰に帯びた鞘から再び剣を抜くと、無言で腕を振るった。


 ビチャリ、と。跳ねられた首と共にどす黒い血がアスファルト舗装を濡らす。




「はぁー…………怖かったぁ」



 そうして、オーガが二度と動くことがないことを確認してから、彼女はそれまで浮かべていた真剣な表情を崩して、気が抜けたようにほにゃっと笑った。



「まさか、足を踏み入れてすぐこんなに強いモンスターに襲われるとは思いませんでした」

「そうだな。ここ最近で相手をしたボス以外のモンスターの中で、一番の強敵だった」


 と柏葉の言葉にそう応えたのは奈緒だった。

 奈緒は、構えていた魔導銃を肩に担ぐと、周囲へと目を向ける。


「今のところ『索敵』には周囲のモンスターもこの街にいるモンスターも引っ掛からないが……。どうする? このまま、この街を探索するか?」


 最後の問いかけは、明へと向けられていた。

 明は、その視線と問いかけに考えこむように眉間に皺を寄せると、やがて首を横に振る。


「……いや、今日は止めておきましょう。ボスじゃない雑魚モンスターがこのレベルってことは、この街のボスは当然、コイツらよりも数倍強いはずですし。もう、夕方近くだ。そろそろ野営の準備をしないと」

「賛成ぇー。今日は朝から二つの街を攻略してるんだし、さすがにもういいでしょ」


 と、明の言葉に同意を示してきたのは彩夏だ。彩夏は、疲れた表情でへし折れた電柱に腰を下ろすと、両足を投げ出すように伸ばした。


 奈緒が呆れた表情となって口を開く。


「朝から二つの街を攻略したって言っても、どっちも今のモンスターと同じくらいの強さのボスだっただろ。そこまで疲れるような戦闘だったか?」

「それでも、一歩間違えば死ぬかもしれないって緊張感は普通疲れるでしょ。七瀬は『精神強化』を取得してるから、そのあたりがもう平気なのかもしれないけどさ」

「その言い方だと、私がおかしくなったみたいじゃないか」


 奈緒は、そう呟くと不満を訴えるように彩夏へと視線を向けるが、その視線に彩夏は鼻を鳴らした。


「実際そうでしょ。固有スキル(不滅の聖火)の効果を高めるためだか知らないけど、そのスキルを取得してから、大抵のことでは取り乱さなくなったって言ってたじゃん」

「そりゃ、そうだけど……。もう少し言い方をだな」

「まぁまぁまぁまぁ。二人とも、無駄話はそのぐらいにしてくださいね? このまま話し込んでいると、またオーガに襲われますよ?」


 二人の会話に柏葉が割り入り、奈緒と彩夏は確かにと頷き合った。


「一条。ひとまず、この街は明日攻略をするってことでいいんだな?」

「そうですね」


 と明は頷く。

 すると、その言葉を聞いた柏葉が、


「あ、だったら。今のうちにこの子達を『解体』しちゃいますね」


 そう言って、地面に横たわるオーガ達へと近づき、懐から解体用のナイフを取り出した。



 柏葉は、鼻歌混じりにオーガを解体していく。器用にナイフを操り、死体を切り分けて素材を取り出していくその作業は、見ていて惚れ惚れするほど鮮やかだ。

 そんな柏葉の様子を見つめながら、奈緒は途切れていた会話を再開させた。



「それじゃあ、ひとまず戻ろう。今朝倒したボス……ヘルハウンドを覚えてるか? 野営をするなら、あの街なんてどうだ? あの街にいるモンスターはレベルが10とか20の雑魚ばっかりだっただろ」



 言われて、明は思い出す。

 ヘルハウンドとは、全身が黒い毛並みに覆われた大型犬のモンスターだ。ブラックウルフとよく似た見た目をしているが、決定的な違いはその口から炎を吐き出す点だろう。さらには、ブラックウルフは嗅覚が鋭くなかったことに対して、こちらのモンスターは犬らしく嗅覚が鋭い。

 レベルやステータスもミノタウロスよりかは僅かに劣るぐらいで、ギガントを相手にする前であればまず間違いなく苦戦していたであろう相手だった。


(ヘルハウンドね……。今の俺たちからすれば相手にもならないモンスターだったから、あまり記憶にないんだよなあ)


 ギガントを討伐したあの日から、今日でもう五日だ。

 あの街の周辺に居座るボスは、ギガントから避難していた住民の移動を手伝う傍らですべて倒しているし、あの街を出た後もさらに多くのボスを倒している。これまでに倒したボスの数で言えば、軽く十は超えるだろう。


 その全てが、クエストの発生しないC級程度の強さだったために、明自身は大したレベルアップもポイントの獲得もしていないが、あの日を境に奈緒たちのレベルとステータスは大きく変化している。その、急激なレベルアップとステータスの上昇の原因はまず間違いなく、柏葉が製作した『武器製作』による武器の存在が大きいのだが、柏葉自身は「みんなが頑張っているからですよ」と謙遜していた。


(あれから、みんな本当に強くなったからなぁ)


 明はしみじみとした思いで心の中で呟くと、それぞれ順に三人へと向けて『解析』を発動させた。



次回。ステータス回


そして、お知らせです!

以前、本作『この世界がいずれ滅ぶことを、俺だけが知っている』の書籍化のご報告をさせていただきましたが、なんと、コミカライズも決定いたしました!!

詳細はまだお伝え出来ませんが、どちらも準備が進んでいます! あのシーンとか、あのシーンとか。めちゃくちゃ迫力があって、ビックリしますよ。続報をお待ちくださいね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでてとても恐ろしいことを思いついてしまった。 「名も無き英雄エンド」 旅の果てに過去のセーブ地点から黄泉返りできるようになって、ダンジョン化が始まったその時点で全てのモンスターを殲滅する…
[一言] 新章楽しみです! そして、コミカライズもおめでとうございます!
[良い点] 戦闘描写、表現の幅、また上がってませんか? 以前からもそうですが、どんな戦いをしているのか想像しやすくて読み応えあります [一言] コミカライズ、おめでとうございます どんな風に描かれるの…
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