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第一回! モンスター素材料理大会①

短編集です。三つのお話をこれから投稿する予定です。



1作目はエピローグ後のお話。全5話で終わる……はず(前後するかもですが)

 

「それじゃあ、ルールの説明をするぞ? 持ち時間は今から一時間。素材は『魔物料理』Lv1で調理可能なもの。一時間後、全員でお互いに作ったものを試食し合って、これからの()()を決める」


 呟かれる奈緒のその言葉に、柏葉が理解を示すように頷いた。

 その隣では彩夏がめんどくさそうに奈緒の話を聞いている。さらにその隣では何もかもを達観したような、諦めの表情となった明が立っていた。


 全員、エプロン姿だった。


 赤や黄色、緑に白と、色とりどりのフリルのついたそのエプロンが、雲一つない青空の下ではよく映えている。それらは全て、いったいどこから見つけてきたのか奈緒が持ってきたもので、明達は半ば強制されるような形でそれらのエプロンを身に付けていた。

 奈緒は、身に付けた赤いエプロンを風になびかせながら、胸の前で腕を組むと面と向かった三人に向けて威風堂々たる態度で言った。



「それじゃあ、第一回! モンスター素材料理大会の開始を、ここに宣言する!」

「おぉーっ!」

「はぁ、めんどくさ……」

「…………」



 奈緒の言葉に対する反応は三者三様だ。

 けれど、返されるそれらの言葉と反応に対して、声を一番に張り上げた奈緒は満足気な表情で頷いていた。


 ――ああ。なぜ、こんなことになってしまったんだろうか。


 明は目の前に並べられた食材……もといモンスターの死体を見つめながらため息を吐き出し、遠い目となって思い出す。

 事の発端は、数時間前に遡る。

 それは明自身が放った、ある一つの言葉から始まった。




 ◇ ◇ ◇




「一条、柏葉さん達の様子も見てきたが……。やっぱり、この辺りにはもう食べられそうな物が残ってないみたいだ」


 シナリオ【魂の誓い】を進めるために拠点とした街を出ることに決めて、旅の途中で必要になる食料の確保に奔走していた時のことだった。

 背後からかけられた奈緒の言葉に、明は瓦礫を漁る手を止めると振り返った。


「柏葉さんたちも見つけられてないのか……。分かりました」


 呟き、明は周囲を見渡す。


 辺り一面に積み重なる灰色の山。

 落ちた歩道橋に木片となった街路樹。砕けた舗装路、傾いた信号機。垂れ下がる電線。崩れたビルの傍には割れた窓ガラスが散乱し、地面に散らばる破片の一つ一つが陽の光を僅かに反射している。巨大な足に踏みつぶされ、スクラップされた車があちらこちらに点在しているその様子は、およそ現実の光景とは思えない。

 ……けれど、それがこの街の現状だ。

 瓦礫と埃にまみれたこの光景が、この街を襲ったすべての悲劇を物語っていた。


「…………」


 明はため息を吐き出し、瓦礫の中から見つけたばかりの菓子パンの袋を見つめた。

 倒壊した家屋の残骸から見つけだしたそのパンは、散らばる木片に潰された影響で包装が破けたようで、飛び出したその中身は砂と埃で汚れている。

 周囲の薄皮を剥がせばどうにかなるかも、と念のために皮を剥いで中身を確認してみたが、つい先日降った雨の影響もあるのか、その中身は泥水を吸い込んだかのように黒茶色に染まっていた。

 明は目にした中身に向けてまた深いため息を吐き出すと、元は菓子パンだったゴミを捨てて、汚れを払うようにその両手を擦り合わせて言った。



「もっと市街地に近い場所にある瓦礫を漁れば、まだ食べられそうな缶詰とか、カップ麺とか、そのあたりの保存が効く食料が出てきそうですけど……。俺たちがこの街の食料を独占するわけにはいかないですからね」



 この世界にモンスターが現れたあの日。世界は大きなパニックに陥り、たった一夜にしてありとあらゆるものを失った。

 家族や友人。恋人やクラスメイト。家と職場。大切な思い出と幸せな日常。その他、いろいろ。

 そして、それはこの街も例外ではない。モンスターが現れたあの日を境に、街と街を繋ぐ人の流れも、物流も、何もかもが途絶えてしまったのだ。

 物流が途絶えた街の中には限られた物資と食材のみが残された。

 生き残った人々にとって共有の財産とも言えるそれらの物資は、本来ならば街を出て行く人間に対してそう簡単に譲り渡すことなど出来るはずもない。にもかかわらず、これからこの街を出て行く明達が快く物資を譲り受けることが出来たのは、彼らがこの街にもたらしたある種の平和に対する褒賞でもあった。


 明達が譲り受けたものは、旅の途中で必要になるであろう日用品と、一人分にも満たないほんのわずかな食料、そして野営道具の一式。

 本音を言えば、食料をもう少しだけ多めに分けてもらいたかったのだが、彼らだって生き残るのに必死だ。こうして、貴重な物資と食料を文句も言わずに分けてもらえただけでもありがたいのに、それ以上の要求を口に出すことは出来なかった。



「この数日の間で、軽部さん達のところに生き残った人達がさらに集まってきてるみたいだし、軽部さん達も、食料の確保には頭を悩ませてるはずですよね」

「そうだな。ちょうど昨日、軽部さんとそんな話をしていたところだよ。人が増えるのはありがたいけど急に増えすぎて食料の確保が追いつかない、ってな。あの人はいつの間にか、生き残った人達に担ぎ上げられてこの街の代表者みたいになってるし……。当分、軽部さんの悩みが尽きることは無いだろうな」


 そう言って笑う奈緒の言葉に、明はここ最近になって忙しそうに昼夜問わず動き回っている男の苦労を想像して、小さく笑った。


「ですね。まあ、それでも楽しくやっているみたいなので、大丈夫だとは思いますが」


 と、明達が雑談をしていた時だ。「一条さん、七瀬さん」と声が聞こえて、別の場所で瓦礫を漁っていた柏葉と彩夏が合流してきた。



「ダメ。こっちは何もない」

 と彩夏がため息を吐き出し、


「そっちはどうですかーって、その様子だと聞くまでもないみたいですね」

 柏葉は、手ぶらの明達を見て苦笑するように笑った。


「ああ。瓦礫をどかして見つけたのは、泥水を吸ったパンのような何かだったよ。いざとなれば食えないこともないだろうけど、捨てたよ。これから旅立つのに、わざわざ体調を崩す必要もないし」


 言って、明は柏葉たちに向けて小さく肩をすくめる。

 すると柏葉は、明に向けて頷きを返すと口を開いた。


「そうですね。餓死の寸前ならまだしも……今はまだ、そこまで追い込まれてはいないので。変な物を食べて、体調不良となったままモンスターと戦うわけにもいきませんからね」

「そういうこと。……って言っても、この世界にモンスターが現れてからもう一週間以上が経過しているからな。元々、街の中にある食料も限られてることを考えると、いつまでそう言ってられるのか分からないけど」


 と、柏葉へと向けて言葉を口にしたその時だ。



 明は、積み重なる瓦礫の物陰から一匹のボアがふいに現れたことに気が付いた。

 明達とは距離があることも影響しているのか、現れたボアは明達に気が付く様子はない。

 ボアは呑気な顔でフゴフゴと鼻を鳴らしながら辺りを見渡すと、近くの瓦礫で何かを見つけたのか、前足を使ってせっせと瓦礫を掘り起こし始めた。

 その姿に、明は小さな舌打ちを漏らした。流れるような動作で腰のベルトに差し込んでいた〝ゴブリンの石斧〟を手にすると、大きく振りかぶる。



「俺たちの貴重な食料を奪ってんじゃねぇよ!」


 叫び、明は石斧を投げつけた。

 弧を描き飛んでいく石斧は狙い違わずボアの頭へと命中して、骨を砕く鈍い音をあたりに響かせる。


「ったく……。アイツらみたいに、この街に現れたモンスターもおやつ感覚で俺たちの食料を食べるからなあ」


 明は、地面に倒れるボアを見つめてため息を吐き出した。


「結局、今の状況をまとめるとさ。この街にある限られた食料を俺たちとアイツらで取り合ってるだけなんだよ」


 それは、何もこの街に限った話ではない。

 こうして話をしている今でも、隣街ではオークが民家やスーパー、コンビニなどを襲って残された食料を貪り食っているはずだし、別の街ではジャイアントバットが残された食料に齧りついているはずだ。

 これが熊や鹿、猪などといった害獣ならば駆除した後にその肉を喰らうことも出来るのだろうが、食料を奪い合う相手は害獣とも違う化け物だ。

 何があるか分からない肉など、口に出来るはずもない。

 明は痙攣を繰り返すボアから視線を外してその瞳を彼女たちへと向けると、冗談めかして笑った。


「アイツらは街にある食料の他に、俺たち人間を狙って食ったりしてるけど……。俺たちはアイツらを食えるわけじゃない。……俺たちもアイツらを食うことが出来れば、こんなことに悩まなくて済むのにな?」

「一条……。それはさすがに」

「いや、無いでしょ」


 と奈緒と彩夏が苦い笑みを浮かべたその時だった。



「え? 出来ますよ?」


 さも当然、それが当たり前であるかのように、きょとんとした顔で柏葉が言った。



「えっ?」


 とは明を含む奈緒と彩夏の言葉だ。

 明達は、揃って柏葉を見つめる。

 するとそんな明達の視線に柏葉は戸惑いの表情を浮かべると、慌てたように言った。


「え、えっ? 私、何かおかしなこと言いました?」

「おかしなこととと言うか……。驚いたというか……。もしかして、柏葉さんって冗談が通じないタイプだったり?」


 真っ先にそう言葉を返したのは彩夏だった。


「えぇっと……。柏葉さん? 今のは、一条(コイツ)の冗談だぞ」


 と彩夏に続くように奈緒が言う。その言葉の途中で奈緒は、親指を使って明を指し示していた。



「えぇッ!? どうしてそうなるんですか! 私はただ、一条さんの言葉に答えただけなのに!!」

「いや、だからその答えがおかしいんだって」


 彩夏が呆れた表情でツッコミを入れた。


「さっきの言い方だと、モンスターが食べられるみたいになっちゃうじゃん」

「分かってますよ! 分かった上で、モンスターを食べる方法があるって言ってるんです!!」

「は?」

「マジ?」

「嘘でしょ」


 明達の言葉が再び重なった。

 柏葉を除く三人はそれぞれの顔を見渡すと、もう一度その瞳を柏葉へと向ける。


「……もしかして、柏葉さん……アイツらを食ったのか?」


 みんなの疑問を代表するように、明が慎重に問いかけた。


「食べてないですよ!」

「それじゃあ、どうしてモンスターが食べられるって知ってるんです?」

「何でって――。え? 本当に? 本当に、皆さん()()()()()を知らないんですか?」

「スキル? どんなスキルですか?」


 ピクリと、明は眉を動かした。


「『魔物料理』スキルです」


 ……聞いたこともないスキルだ。

 そんな考えが顔に出ていたのだろう。

 柏葉は小さくため息を吐き出すと、明を見つめた。



「その様子だと、本当に知らないみたいですね。むしろ、私はてっきり皆さん知っていてあえて避けているとばかり……。他のお二人は知ってますか?」



 問いかけられる言葉に、奈緒も彩夏も揃って首を横に振った。

 どうやら、二人にとっても初めて耳にするスキルだったらしい。

 その様子を見て、明はふむ、と声を出して考え込んだ。



(固有スキルなんかの特別なスキルを除けば、俺たちに与えられるスキルはすべて平等だ。ポイントさえ支払えば、誰だって同じ効果の同じスキルを取得することが出来る。柏葉さんの言い方だと、『魔物料理』っていうスキルが固有スキルじゃないことは分かる。ポイントで取得するものだ。それを、俺や奈緒さん、花柳も知らないとなると……)


 思い当たる原因は一つ。『魔物料理』スキルを取得するための、前提となるスキルを取得していないからだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました! 200話ありがとうございます!
[一言] 解体がないと料理はできませんよね。
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