未来への一撃
「……始まりましたね」
瓦礫の巨人が、ギガントへと向けて歩み始めてすぐのことだ。
明と奈緒は、物陰に隠れて所定の位置へと移動しながら、地面を揺らし動き始めるその巨人の様子を眺めていた。
「上手くいくかな」
と奈緒が言葉を漏らす。
「大丈夫ですよ。俺たちは、あの二人を信じましょう」
と明は奈緒の言葉に答えた。
奈緒は、明の言葉に小さく頷くとその視線を瓦礫の巨人へと向けて、感嘆の声を上げる。
「それにしても、本当にすごいな。あの巨人、柏葉さんの固有スキルで作ったんだろ? 『人形師』って言ったっけ。使い方次第で、めちゃくちゃ有用なスキルじゃないか」
「そうですね。シナリオのクリア報酬で与えられる固有スキルが事前に分からない以上、どんなものかとヒヤヒヤしていましたが、この状況で使えるスキルで良かった」
言って、明は奈緒の視線を追いかけるようにその巨人を見上げた。
――固有スキル『人形師』。
石や岩、瓦礫や木の葉、木の枝といったごく限られたものを自由に組み立て、思いのままに操ることの出来るというそのスキルは、シナリオをクリアした柏葉に送られたもう一つの報酬だった。
スキルの発動時間は最長で十分と短く、操る物の種類や大きさ、数、組み立てた形に応じて次にスキルが使用できるまでの再使用時間が決まるというデメリットはあるが、それでも、使い方次第では非常に大きな戦力となる。
今回、柏葉にお願いしたのは固有スキル『人形師』によって創り出した巨大な人形でギガントを引き付けること。早い話が囮だった。
人形を創る素材はいくらでもあった。なにせ、ギガントが身動き一つすれば家屋が崩れ、ビルが崩壊していくのだ。
柏葉の操る巨人がギガントを引き付け、攻撃する。
目の前に現れた巨人へと意識を取られたギガントは、足元に控えた明達のことなど目にくれない。
作戦通り、上手い具合に柏葉の人形は囮として機能していた。
けど、それも長くは続かなかった。
「すとれんぐすあっぷ」
地の底を這うかのような低い轟き声が響き、ギガントの腕が膨張する。
(――――まずい)
と明が心の声を漏らした時には何もかもが遅かった。
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ビリビリと空気を震わせる咆哮と共に、ギガントが振り下ろされたその手刀によって柏葉の操る巨人が破壊される。
瞬時に、姿を崩した巨人の元へと周囲の瓦礫が集まりその姿を修復したが、それもまたギガントが振るった手刀によって砕かれた。
破壊と修復。
幾度となく繰り返されるその行為によって、明達の頭上に瓦礫の破片が雨粒のように降り注ぐ。明は、降り注ぐ破片を避けるように奈緒を引っ張って物陰へと身を隠すと、盛大に舌打ちを漏らした。
「マズいな。ジリ貧だ。あんな見た目でも、アイツには知能がある。このままだと巨人を操る柏葉さん達が気付かれるのも時間の問題だな。……奈緒さん、ここからギガントを狙うことは出来ますか?」
「……無理だな。あの、壊れかけたビルが邪魔だ。それに、もう少し近づかないとまだ魔導銃の攻撃範囲に入らない」
「それじゃあ、覚悟を決めるしかないですね。出来るだけ、傍に落ちる瓦礫は俺が払います。奈緒さんは足を止めず、真っ直ぐ走ってください」
「分かった」
言って、明と奈緒は頷き合う。
そして互いに呼吸を合わせると、一気に物陰から飛び出した。
「ふっ!!」
明は奈緒の速度に合わせるように前を走ると、手にした斧剣を振るい次々と降り注ぐ瓦礫を払い落していく。斧剣が間に合わなければ蹴りつけ、それでも無理なら殴りつけて。必死に、背後を走る奈緒を守り続ける。
奈緒は、そんな明を信じているかのように一度としてその速度を落とさず全力で破片が降り注ぐその場所を駆け抜けると、滑り込むように瓦礫の陰へと滑り込んだ。
「ゥオオオオオオオオオオオオオ!!」
ギガントが再び大声を上げたのはそんな時だ。
ハッとして目を向けると、怒り狂うギガントが柏葉の操る巨人の顔面を鷲掴みにしているところだった。
ギガントは、まるでその顔を覆う仮面を剥ぎ取るように。バキバキとした音を響かせながら巨人の顔を形作る瓦礫を剥ぎ取ると、その視線を柏葉達の居る丘陵へと向けた。
「――ッ」
これまで、何度もギガントに挑み敗れてきた明だ。魂に刻まれたその記憶と経験から、そのモンスターがこれから何をしようとしているのかがすぐに分かった。
「奈緒さん! ダメだ、作戦変更!! 今すぐ始めます!!」
「分かった!!」
声を上げた明の言葉に従うように、弾かれたように動いた奈緒は手にした魔導銃をすぐさま構えた。
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
巨人が叫び、手にした瓦礫を投げつける。
同時に、
「『装填』ショックアロー」
奈緒が呟き、手にしたその銃身が光り輝いた。
「『疾走』、『剛力』」
奈緒が魔導銃へと魔法を装填したのを見て、明もまたそのスキルを発動させた。身体に残る魔力が、瞬時に筋力値と速度値に変えられて爆発的にそのステータスを上昇させる。
「「ッ!!」」
明が足を踏み出すのと、奈緒が魔導銃の引き金を引くのはほぼ同時。
ドンッ、と音を響かせながら飛び出した明は、魔導銃から撃ち出される光の矢と並ぶようにギガントへと向けて地面を駆けていく。
――ドッ、パァンッッ!!
奈緒の放ったショックアローがギガントへと命中し、光の矢は凄まじい衝撃となって破裂する。
その威力に、ギガントの身体が大きく揺れる。
衝撃はすぐに音となって明に伝わり、ビリビリと鼓膜を大きく揺らした。
その振動を感じながらも、明はその崩れた体勢を支える軸足へと狙いを定めると、手にした斧剣を大きく振り上げた。
ミシミシと身体が悲鳴を上げる。
『剛力』と『疾走』に身体が耐えきれていない。彩夏の『回復』スキルを三回受けて、無事動けるまで回復出来たと思っていたが、急激なステータス上昇にまで耐え切れるほど身体が回復していなかったのだ。
とはいえ、あの場ではあれ以上の『回復』を受けるわけにはいかなかった。
彩夏の『回復』スキルは日に発動できる回数に限りがある。この戦いで誰かが命を落とすほどの傷を受けるかもしれない以上、あの場ですべての回数を使い切るわけにはいかなかった。
「『魔力撃』ッ!!」
悲鳴を上げる身体を無視して、明はスキルを発動させた。
すると、体内に刻まれた回路に廻る魔力によって全身が燃えるように熱くなる。
熱は力に変わり、明の手にした斧剣へと収束していく。
「崩れろぉおおおおおおおお!!」
叫び、明は手にした斧剣を振るった。
斬撃はギガントの足を斬り落とし、がくりとその身体を大きく揺らした。
――ドッ、パァンッッ!!
直後、衝撃がギガントを襲った。
衝撃は体勢を崩すギガントを後押しするかのように、その巨大な身体を押して尻餅をつかせる。
「ォオオオオオオオオオオオオオ」
ギガントが呻き、斬り落とされた足へと手を伸ばす。『再生』による立て直しを図るつもりだ。
「ッ、やらせねぇよ!!」
叫び、明は駆ける。ギガントの身体そのものを踏み台にするかのように、ギガントの前へと飛び出すと、ポケットへと手を突っ込み〝魔弾〟を取り出した。
「ッ!!」
魔力を注ぎ、放り投げるとすぐに物陰へと駆け込んだ。
ギガントの眼前へと放り投げられた〝魔弾〟は瞬時に暴発して、その視界を奪い取る。
「ゥウウウウウウウウウウウ」
ギガントが呻く。
しかしギガントは止まらない。
視界が奪われる直前に明の姿を見たのか、あたりを付けるように狙いを定めると、ギガントは大きくその腕を振り上げた。
「――――っ」
その腕を、横から割り込んだ瓦礫の巨人が抑え込んだ。柏葉だ。明は柏葉の居る方角へとちらりと視線を向けると、その口元を緩めて走り出した。
――ドッ、パァンッッ!!
三度目となる大きな衝撃がギガントを襲った。
怒りの咆哮をあげるギガントは腕を振るって瓦礫の巨人を崩すと、ギロリとその視線を奈緒へと向けた。
タイミングを見計らい打ち込まれる魔法を鬱陶しいと思ったのだろう。
ギガントはすぐ傍にある倒壊したビルの破片を手に持つと、奈緒へと目掛けて振り上げた。
「テメェの相手は俺だろうが!!」
叫び、明はギガントへと向けて飛び掛かる。
「『魔力撃』!」
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ギガントの悲鳴が上がった。
明が振るったその斧剣から飛び出した魔力の刃が、ギガントの右腕を斬り落としたのだ。
直後、四度目になる衝撃がギガントを襲った。
衝撃はギガントの左肩に命中し、四度目にしてぐちゃりとその肉を潰す。おそらく、これまで続けて打ち込まれたショックアローによるダメージが積み重なったのだろう。
(もう一回ッ)
心で呟き、走り出した明の身体がガクリとその速度を落とした。『疾走』の効果時間切れだ。続けて、全身にみなぎる力が萎むように失っていくのを感じると、明は苛立ちの舌打ちを漏らした。
「奈緒さんッ!!」
「分かった!」
張り上げた声に、遠くから奈緒の声が聞こえた。
その言葉だけで、事前に打ち合わせていた作戦を次のフェーズへと進めることを察したのだろう。
奈緒は合図を出すかのように、夜空へと向けて一度ショックアローを放つと、前へと飛び出してきた。
「どのくらい時間を稼げばいい!?」
「二分。……いや、三分だけ時間をください!!」
「分かった。頼んだぞ、一条。――『装填』ショックアロー!!」
呟き、奈緒はライフルのボルトを引くとその銃口をギガントへと向けた。
「こっちを向け、化け物ォッ!!」
叫び、奈緒が引き金を引く。
銃口から飛び出す光の矢はギガントの左肩へと命中して、その衝撃でさらにその肩口の肉を潰した。そんな奈緒をサポートするように、瓦礫の巨人がギガントの背中からその身体を羽交い絞めにする。
奈緒は、すぐさま走り出して位置を変えると、再びギガントへと向けて魔法を放った。
そうして、明からギガントを引き離すように距離を取っていく奈緒の姿に、明はゆっくりと息を吐き出すと手にした斧剣を正眼に構えた。
「……ッ、ふー……」
手足を動かすと激痛が走った。
おそらく、『疾走』と『剛力』を回復しきっていない身体で使用したからだ。
身体の関節に錆が浮いたかのように、ほんの少し身体を動かすだけでパキパキと細かく骨が鳴る音が響いた。
「――――『剛力』」
それでも明はもう一度、そのスキルを発動させる。
この戦いを終わらせるため。長く繰り返してきたこの時間を終えるために、明はそのスキルを呟く。
「『魔力撃』」
続けて、呟く言葉に合わせて身体が燃えた。いや、そう感じるほどの熱が体内を巡った。
手元の斧剣が魔力によって青白く光り始めるのを見つめて、明はすぐさま次の言葉を紡ぐ。
「『蓄力』」
それは、『武器製作』がLv3となって再び創り直された〝斬首斧剣〟に与えられた新たな効果。直前のスキルをキャンセルし、再び使用することによってそのスキルの威力を上昇させるという溜めのスキル。
呟かれた言葉に反応するように、斧剣の光は搔き消された。
それを確認して、明は再び口を開いた。
「『魔力撃』」
再び巡る魔力に、体内の魔力回路が熱を帯びた。全身の血が沸騰したかと思うほどの熱が体内を巡る。
熱は光へ変わり、さらに大きな光となって斧剣が輝いた。
「……『蓄力』」
それを、明は掻き消す。
より大きな炎を燃やすため、より大きな光を灯すため、その力を消して次の力へとつなげる。
「……ッ、『魔力撃』」
三度目。
熱は痛みに変わる。全身をナイフで突き刺されているかのような激痛が襲い始める。心臓が痛いほど暴れて、轟々と流れる血潮が耳元で鳴った。
熱は光に変わり、強く輝く。
それは、瓦礫となった街の中では異質なほど輝く魔力の光。当然、その光はギガントの目にも止まっていた。
「――――ッ、ォオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
本能的にギガントは悟ったのだろう。
あれは――あの光は、自らを滅ぼす光だと。今すぐにでも、あの光を放つ元凶を殺さねばならないと。
身体に纏わりつく瓦礫の巨人を振り払い、明へと向けて、ギガントは『再生』によって傷の消えた左の拳を振り上げた。
――ドッ、パァンッッ!!
瞬間、その動きを遮るように衝撃が襲う。
明の元へと向かわせまいと、瓦礫の巨人がギガントに向けて拳を振るう。
「『蓄力』!」
その攻防には目を向けず、明は自らの行為に没入するように次の言葉を呟いた。
全ては、この一撃でギガントを倒すために。
文字通り自らの命を燃やして、その力を次へとつなぐ。
「『魔力……撃』ッ!!」
四度目。
一度も放出されることなく体内で廻り続ける魔力の渦によって、刻まれた回路が悲鳴を上げた。
夜の帳が下りた瓦礫の街に輝く眩い魔力の光は、一瞬にして明の姿を覆い隠す。
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!」
その光に向けて、ギガントが怒りの咆哮を上げる。
奈緒による足止めの魔法がギガントを襲うが、対するギガントも必死なのだろう。その衝撃で一度大きく身体をふらつかせたが、それでも止まらず、その巨体で明を押し潰さんとするかのように突っ込んでくる。
それを、瓦礫の巨人が防ぐ。
その身体を砕きながら、それ以上前には向かわせまいと。ギガントの眼前に立ちふさがり、その進行を止める。
――が、それでもギガントは止まらない。
今ここで目の前に立つその男の息の根を止めようと、柏葉の操る巨人へと向けて腕を振るい押し退けると、その勢いのまま明へと向けて拳を放った。
「――――――」
ニタリ、と。ギガントが嗤う。
自らの勝利を確信し、目の前の男を守るものはもう何もないと油断する。
だから、ギガントは気が付いていなかった。
瓦礫の巨人を操る彼女の傍にいた一人の少女が、その掌を明の方角へと向けていることに。
「――聖楯ッッ!!」
少女の叫びと同時に、明とギガントの間に展開される青白い膜がギガントの拳を受け止めた。
「ッ!?」
ギガントの顔に驚愕に染まる。
その顔に向けて、再び飛来する光の矢が突き刺さり、衝撃となって弾ける。
「『蓄力』!!」
明は叫んだ。
これまで幾度となくこの世界を繰り返した。
たった一人でボスに挑む必要はないと教えてくれた。
みんなで、共に戦う術があることを教えてくれた!
もう、今は一人じゃない。
伸ばしたこの手を掴んでくれる仲間がいる!!
「『魔力撃』!!!」
バキリと、何かが壊れた音が聞こえた気がした。
それは、人という身体に刻まれた回路の壊れた音だったかもしれないし、一条明という人間を形作る骨格が壊れた音だったかもしれない。
体内を荒れ狂う魔力の熱は痛みに変わり、痛みはまた熱に変わって明の身体を廻り続ける。
一条明は気が付かない。
ギガントを見据えるその瞳から、体内で荒れ狂う魔力が焔のように噴き出していることに。
熱を帯びて暴走する魔力回路が、その全身に浮かび上がっていることに。
魔力は光となって明の斧剣に収縮する。
それは、さながら地上に落ちた小さな太陽のように。
モンスターが現れたこの世界をどこまでも照らす、青白い光の輝きだった。
「行け」
と彩夏が呟く。
「行け……!」
と柏葉が言う。
「行け、一条ッ!!」
と奈緒が叫ぶ。
「ッぁああ!!」
それらの声に応えるように。
一条明はその身に溜めた力を一気に解放するため、手にした斧剣を大きく振り上げた。
「ぶっ飛べ、化け物ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
叫び、全力で振り下ろす。
――――瞬間。世界が割れた。
解き放たれた荒れ狂う魔力は、明の放つ斬撃を飲み込み巨大な魔力の刃へと変わって、夜空ごとギガントを断ち切った。
そして、それからさらに一拍遅れるようにして。
ギガントを断ち切った魔力は一気に収縮し、ついで膨張し爆発すると、強烈な光となって辺り一面を白に染めた。
「ォ――――」
魔力の渦に飲まれて、ギガントの声が途切れる。
爆発する魔力は巨人の身を焦がし、削り、蒸発させて塵へと変える。
『再生』というそのスキルの癒しでも追いつかないほどの荒れ狂う魔力の奔流が、その巨人の命を奪い取る。
それは、目の前にそびえ立つ絶望を切り裂く未来への一撃。
一条明という男の命を燃やした、全身全霊の一撃だった。
――チリン。
光の中で、音が聞こえた。
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レベルアップしました。
ポイントを1つ獲得しました。
消費されていない獲得ポイントがあります。
獲得ポイントを振り分けてください。
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B級クエスト:ギガントが進行中。
討伐ギガント数:1/1
B級クエスト:ギガントの達成を確認しました。報酬が与えられます。
クエスト達成報酬として、獲得ポイントが100付与されました。
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条件を満たしました。
ゴールドトロフィー:巨人殺し を獲得しました。
ゴールドトロフィー:巨人殺し を獲得したことで、以下の特典が与えられます。
・体力値+50
・筋力値+70
・速度値+50
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魂に刻まれた困難を乗り越えました。
固有スキル:黄泉帰り のスキルに新たな効果が追加されます。
固有スキル:黄泉帰り の追加効果により、以下のシステム機能が解放されました。
・スキルリセット
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一条明のシナリオ【魂の誓い】が進行中。
特定モンスターギガントの討伐1/1
一条明のシナリオ【魂の誓い】の一部達成を確認しました。
報酬として、ポイントが与えられます。
・ポイント100が与えられました。
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シナリオ【魂の誓い】の内容が更新されます。
次に討伐するべきモンスターが表示されます。
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イフリート討伐0/1
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ボスモンスターの討伐が確認されました。
世界反転の進行度が減少します。
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濁流のように次々と現れる画面に、明は無意識のうちに止めていた息を吐き出す。
(…………良かった。これで、みんな助かる)
あの赤い夜の日に誓った想いは守られる。
それだけが、ただただ嬉しくて。
明はその口元に笑みを湛えながら、ゆっくりと瞳を閉じたのだった。
次回、エピローグ