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みんなで



 そんな会話をしながらしばらく休憩を挟んで、体調の戻った奈緒を連れて次のボスの元へと向かう。

 次に向かったボスは、リザードマンだった。

 とはいえ以前であれば苦戦をしていたそのボスも、今ではもう明の敵ではない。ハイオークと同じく、明が先手を打つように前へと飛び出し、少し遅れて奈緒が援護の魔法を放つ。ある程度攻撃を加えて、奈緒の魔法でも十分処理できるまでに痛めつければ、あとはもう明が手を下すまでもなかった。

 ハルピュイアに関してもそれは同じで、明がまずは一人で相手をしてから、奈緒にはそのトドメを任せた。


 そうして、休憩とボス討伐を繰り返し行っていると、あっという間に柏葉との約束の時間が迫って来る。



「そろそろ、戻りましょうか」


 と、明は息を切らした奈緒に向けて言った。



 この数時間の間に、明達が倒したボスモンスターは三匹。これまでの経験からして、一体を倒すごとに反転率の進行速度は半日ずつ遅くなっている。計算上では、今の進行速度は三日で1%の進行だ。当然、ボスを倒したことによって生じるインターバルと勝手に呼んでいる反転率の進行速度の停止も、以前とは比べ物にならない。おそらくだが、半日以上は反転率の数値が増えることはないだろう。


「もう、そんな時間か」


 と奈緒は乱れた息で明の言葉に反応した。


 レベルが上がり、『魔力操作』を取得した影響だろう。そのスキルを取得してからの奈緒は、魔法の発動による反動が軽くなったようで、連続して発動したとしても以前のように冷や汗を浮かべることは無くなった。とはいえ、それも一時的なものだ。休憩もそこそこに魔法を連発していれば、すぐに顔は青ざめて冷や汗を浮かべ始める。反動もなく魔法を使うには、もう少し『魔力操作』のスキルレベルは上げる必要があるようだ。


「レベル、いくつになりました?」

「今ので、71だな」


 言われた言葉に、明はそんなものかと考える。

 明の場合は、三匹を倒した時点で80を越えていた。けれど、奈緒は全てのボスを一人で相手にしているわけではない。奈緒も確かにボスへと攻撃を加えてはいるが、明が手を貸している分、経験値の取得はそれなりになってしまうのだろう。

 とはいえ、レベルアップによって取得したポイントは合計で30を超える。『魔力操作』と『魔力回復』を取得したとしても、奈緒に残ったポイントは17だ。それらを使ってステータスを上げることも、他のスキルを取得することも出来ることを考えれば十分と言えるだろう。



 病院へと戻ると、もうすでに柏葉がエントランスホールで待機しているところだった。その隣にはなぜか彩夏も一緒に居て、話し込んでいた二人は出入り口から戻った明達へと目を向けると少しだけ驚いた顔になった。



「どこかに行かれてたんですか?」

「奈緒さんのレベル上げも兼ねて、この辺りのボスを一通り倒してきました」

「えー、それだったら私も呼んでくださいよ。私だってレベルを上げたかったです」


 言って、柏葉は不満を露わすように明へと目を向ける。

 その言葉に、明は困ったように笑うと口を開いた。


「柏葉さん、あの時は相当疲れていたし無理させたくなかったんですよ。……それに、ボスに対して攻撃が通らなければ経験値なんて貰えないと思いますよ?」


 奈緒のように魔法を扱うならまだしも、柏葉は明と同じ近接主体の戦闘スタイルだ。攻撃を通すにはモンスターの耐久値を考慮しなければならない以上、今の柏葉ではあの三匹を相手にするのは無理だろう。



「まあ、そうですよね……」


 と、柏葉は奈緒の言葉にため息を吐き出した。



 明は、そんな柏葉から視線を外すと今度は彩夏へと目を向ける。



「それで、花柳がどうしてここに? 何かあったのか?」

「何かあったのか、じゃなくて。この街に、ヤバいモンスターが来てるんでしょ? どうしてそれを知っていながら、あたしには何も言ってくれなかったわけ?」


 ジロリと、彩夏は明に向けて視線を向けた。


「あたしだって、固有スキルを持ってる。手伝えることがあるなら手伝う」


 その言葉に、明は思わず視線を逸らした。

 頭の中にはあの夜の出来事がこびり付いている。死にかけた彼女が口にした言葉を、今でもまだはっきりと覚えている。

 手伝いたいという意思はありがたい。戦える人が一人でも増えるのはありがたいことだ。けど……。



「俺たちの手伝いをすれば最悪、死ぬかもしれない。お前は、この中でも一番若いんだ。まだ二十歳はたちにもなっていない。無理して俺たちを手伝う必要はないんだぞ?」

「は? なにそれ。今、こんな状況で年齢なんか関係ないでしょ」


 彩夏は明の言葉にムッとした表情となるとそう言った。


「戦える人がいるなら、戦うべきじゃないの」


 明は返答に詰まった。

 分かってる。頭の中では彩夏の言うことが正しいのだと理解している。花柳彩夏は、数少ない固有スキル持ちだ。そのスキルも、これからの戦いを考えれば活かすべきだと思う。でも、本当にそれでいいのか? 戦えるからといって年端もいかない少女をまた、死地へと連れ出してもいいのだろうか。彼女には、街の人達と一緒に避難してもらった方がいいのではないだろうか。

 そんな明の悩みを見透かしたのだろう。彩夏は、明へとその瞳をジッと向けると、呟くように言った。



「それに、今のこの世界で、アンタの傍以外に安全な場所なんてあるわけ?」



 その言葉に、明は彩夏を見つめた。

 そして、間を置いて明は笑う。


 あの夜を繰り返さないために力を身に付けた。もう二度と、あんな思いをしたくないと世界を繰り返すこの魂に誓った。

 彼女の死は、奮起するきっかけの一つに過ぎない。

 あの時、本当に悔しかったのは、誰も守ることの出来ない自分の弱さだった。

 自分一人で頑張るなと、奈緒に言われた。

 みんなで頑張ろうと、柏葉に言われた。

 それなのに、その()()()の中から彼女だけを省く意味は何一つない。


「いや、無いな」

「だったらいいじゃん。少なくとも、邪魔にはならないし」

「いや、頼りにしてるよ」


 そう言って、明は彩夏に向けて笑う。



 その笑顔に、彩夏はニヤリとした笑みを浮かべて、


「任せといて」


 と胸を張ったのだった。



 そうして彩夏を加えた四人で、明達は顔を突き合わせるとこれからのことについて打ち合わせをする。



「今、四日目の午後十一時三十七分です。ギガントがこの街へと来るのが五日目の午後九時なので、残り二十四時間もありません。それまでに柏葉さんには出来るだけモンスターを倒してシナリオを進めていただくことになります」

「今、そのシナリオってどのくらい進んでるわけ?」


 明の言葉に彩夏が首を傾げた。

 明は、彩夏へと視線を向けながら答える。


「だいたい、全体の十分の一が終わったところだな」

「…………間に合うの、それ」

「正直、微妙だな。間に合わなければ、最悪、俺がギガントの相手をしながら時間を稼ぐしかない」

「だが、そうなるとお前が死ぬ可能性が高くなるだろ」

「ええ、だからこれからの難易度は柏葉さん次第です」


 その言葉に、プレッシャーを感じた柏葉が硬い表情となって頷いた。

 圧を掛ける必要はないが、かといって現状の把握をしないわけにもいかない。

 明は、出来るだけ柏葉が不安にならないよう、淡々と現状の確認をするように言葉を紡いだ。


「残りの時間で、柏葉さんがどれだけモンスターを倒せるのかが鍵になってきます。問題は、どれだけ頑張ったとしても、このままモンスターを探し、正面から討伐していくという方法を取るには限度があるということです」

「まあ、探している時間がもったいないしな」


 と奈緒が明の言葉に同意するように頷いた。


 明は、奈緒に向けて頷くと言葉を続ける。


「そこで、俺と奈緒さん、花柳の三人は二手に分かれようと思います。一人は、柏葉さんの傍で戦況の調整をする役目。モンスターを相手にしている間、柏葉さんの身に危険が迫ればそれを防ぐ役割です。残りの二人は、いわゆるモンスターの釣り出し。一切の攻撃を加えることなく、モンスターを誘導して柏葉さんの元へと連れてくる役割をしてもらいます」

「分かった。戦力的に考えて、柏葉さんの傍には一条、お前が居た方がいいな。花柳は私と一緒にモンスターの釣り出しだ」

「オッケー」


 奈緒の言葉に、花柳は頷いた。

 明は、二人のやり取りにまた頷くと、言葉を続ける。


「ええ、俺もそれがいいと思います。あとは、モンスターの討伐速度を上げるのが一番ですが……。それを上げるために、柏葉さんにはあるスキルを取得してもらいます」

「あるスキル?」


 柏葉は明の言葉に首を傾げた。

 明は、柏葉へと視線を向けると口を開く。


「はい。そのスキルの名前は『隠密』。スキルを発動し、攻撃を加えるまでの間、気配を消すことが出来るスキルです」


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― 新着の感想 ―
軽部とか自衛隊の人たちは、あんなに真摯に民間人を守ろうとしているのになぜシナリオが発生しないのでしょうね。明との親密度の問題?
[一言] ここで繋がるのか… 隠密スキルはチート気味ですけどね笑
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