作戦会議2
加筆をして、上げ直しました。最後に加筆部分が続いてます
「決まりだな」
明の表情を見て察したのだろう。奈緒が呟いた。
「まずは、その方法を試そう」
こくりと頷き、明は立ちあがる。
するとすぐに、その動きを制するように奈緒が声を上げた。
「待った。逸る気持ちは分かるが、この方法が失敗した時のことも含めて考えておかなくちゃいけない。それに、言っただろ? 今話していたものは全部、例え話だ。実際にその毒で『再生』スキルが阻害出来るのかどうかも分からないのに、命を賭けるにはまだリスクが大きすぎる」
「――――ッ、でも!! リスクのことばかりを考えても仕方ないでしょう!? 今までずっと、失敗してきたんだ。ほんの少しでも可能性があるなら、今すぐにでも試してみるべきです!」
「お前の言いたいことも、お前の気持ちも分かる。その上で、落ち着けって言ってるんだ。話はまだ終わっちゃいない」
言うと奈緒は、視線だけで明へと着席を促した。
その視線に、明は唇を噛みしめる。今まで散々、失敗してきた。出口の分からない暗闇の中で藻掻き続けていた。ようやく、光明が見えたのだ。ほんの少しでも可能性があるのなら、その方法に縋り、今すぐにでも動き出したかった。
「…………」
そんな衝動を、明はぐっと堪える。
深い、深いため息にも似た吐息を吐き出し、噛みしめていた唇を離す。
「すみません。焦りました」
静かに、明はそう呟くと再び元の場所へと腰を下ろした。
そんな明の様子を見つめていた奈緒は、一つ頷きを返してゆっくりと言葉を続ける。
「話を続けるぞ? さっきも言った通り、ゲームで言うところの状態異常に近い何かしらの方法で、『再生』そのものを阻害することが出来れば一番だ。……だけど、もしもその方法が通じなかった場合はどうする?」
「それ、は」
奈緒の問いかけに、明は言葉を詰まらせた。
そんな明の様子に、奈緒は小さなため息を吐き出す。
「思いつめると、視野が狭くなるのはお前の悪いところだよ、一条。作戦ってのは、それが失敗した場合の時のことも考えて立てておくべきだ。……まあ、それは『黄泉帰り』を持つお前からすればあまり関係ないことなのかもしれないが」
と言葉を口にした奈緒は、そこでふと声を止めた。
そして、気まずそうな顔になると続きの言葉を口にする。
「いや、その話は、今は関係ないな。……とにかくだ。むしろ、私が言おうとしていた内容はこれからが本命だ」
そう言うと奈緒は一度言葉を区切り、明の瞳を見つめた。
「『再生』スキルを阻害する方法は、もう一つある。それは単純なことだが、『再生』スキルによる回復を上回る速度で攻撃を行い続けることだ」
「……それは、ええ。分かります」
静かに、明は奈緒に向けて言った。
回復されるのなら、それ以上の攻撃力で回復そのものを捻じ伏せる。
それは、作戦とも呼べないほど恐ろしくシンプルで脳筋的な考えだが、実現すれば確実に息の根を止めることが出来る効果的な方法でもあった。
「だから、俺はそのためにレベルを上げたんです。多くのスキルを身に付けたんです。戦闘に関わる力を身に付けるため、何度も死んできたんです! ……でも、それでも俺は、アイツを殺すことが出来なかった。その方法は、とっくに試してるんですよ。でも――――」
「無理だった、と?」
奈緒は、まるでつまらない話を聞いたとでも言うかのように鼻を鳴らすと、明の言葉を遮った。
「それは、お前ひとりでの攻撃だろ? お前は今、何のために私たちに相談しているんだ? 話すだけ話して、また一人でギガントに挑むのか? ……違うだろ? 私たちみんなで、ギガントを倒すんだろ!? お前ひとりの攻撃で無理なら、私たちで攻撃するんだ!!」
「っ、で、でも!! 今の奈緒さん達が、俺と同じぐらいいきなり強くなる方法なんてあるはずが」
「方法はある」
きっぱりと、奈緒は言った。
「だけど、この方法を取れば最後、お前の言う固定化された『黄泉帰り』のスタート地点は無くなってしまう。最初で最後の、大博打だ」
「――――まさか、それって」
明は、奈緒の言わんとしていることを察して、呟いた。
奈緒はその言葉に頷き、ちらりとその視線を部屋の隅に座り込む彼女へと向ける。
「……ああ。柏葉さんのシナリオを終わらせる。そこで得たポイントを全て、製作スキルに使ってもらう。そうして出来た強力な武器を使って、全員で一斉に、ギガントに攻撃を仕掛けるんだ」
倒壊した家屋の並ぶ住宅街に、ゴブリン達の醜悪な笑い声が響いていた。
手に持つ石斧を素振りするように振り回し、黄色く濁ったその瞳をニタリと歪めて見せるその姿は、もはや見慣れたとはいえ薄気味悪い。
数は五匹。囲むように物陰から姿を現したゴブリン達に向けて、明は大きな息を吐き出すと、隣に立つ人物へとその視線を向けた。
「良かったんですか?」
「何がですか?」
とそう答えたのは柏葉だ。身に付けた毛皮の外套と、手に持つ狼牙の短剣を構えるその姿はどこかぎこちない。現れたゴブリン達へと向けて、震える切先を向けるその姿は非常に頼りなく、ふと何かの拍子ですぐに命を落としてしまいそうな、そんな危うさがあった。
明はそんな柏葉の姿を見つめて、少しだけ間を空けると言葉を続ける。
「シナリオを終わらせたことで貰うポイントを、本当に製作スキルにだけ使うことを決めて」
「……大丈夫です。一条さんの話を聞けば、武器が強力であればあるほど、みんなの助けになるのは確かみたいですし。それに、今の状況を聞けば聞くほど、七瀬さんの言うように誰かが強い武器を創り出す必要がある。それを今、私だけしか出来ないのであれば、私はそのポイントをみんなの為に使いたい」
言って、柏葉はその手に持つ短剣の柄を握り締めた。
「ギガントを倒さなければ、どっちみち死ぬんです。ポイントの使い方に迷いなんてありませんよ」
その言葉に、明は柏葉から視線を外した。
「……すまん」
明は小さく呟いた。その言葉に対して、柏葉が小さく笑う。
「一条さんが謝る必要なんか、どこにもないですよ。みんなで、勝ちましょう。みんなで、生きましょう。誰か一人が頑張るんじゃなく、みんなで」
「――――ああ。……そうだな」
ゴブリン達が嗤ってる。ゲラゲラと、耳障りな声を上げて。
目の前に現れた人間達が、この先何をどう頑張ろうと意味がないとでも言うかのように。
明は、そんな嗤い声を一蹴するように手にした斧剣を一度振り払うと、すっと正眼に構えた。
「それじゃあ、頼む。これから大変だと思うが少しだけ、付き合ってくれ」
「はい!」
明の声に、柏葉が頷く。
そして数秒後。一斉に動き出した明達の手によって、その住宅街に響いていた醜悪な声はなくなったのだった。