六十五度目
――結局、あれ以来三匹のボスを相手にしてもクエストは出現しなかった。
どうやらあの時に発生していたクエストが、明にとって最後のC級クエストだったらしい。
繰り返しの間に幾度かボスの元へと足を運び、その度に殺されて。
目が覚めた次の世界でまたボスの元へと足を運び、それでもなお発生しないクエストを確認し、殺されて。
それを三匹分試してからようやく、明は、自分自身がC級に値するモンスターよりも強くなったのだと理解した。
それからは、三匹のボス達は全員レベル上げの経験値に成り下がった。
他の人達ならまだしも、明にとって街に出現するモンスターは全て雑魚だ。
必然的に、明のレベリング相手は全てボスが相手になる。
魔力の回復を待つ間、『黄泉帰り』を行う度にボスを倒していると、いつの間にか明の総合レベルは100を越えていた。
レベル100と言えば、ゲームで例えるならば一つの節目だ。
当然、明もその節目に何か起きるのではないかと期待した。
しかし、結果としては何もなかった。いや、起きなかった。
当たり前のように次のレベルアップを示す画面が現れた時には思わず、明は呆れて笑ったがそれ以上の感情はなかった。
魔力の回復には予想以上に時間が掛かっていた。
これは、繰り返しの最中に分かったことだが、『魔力回復』スキルの回復速度は、スキルレベルが一つ上がる度にその回復速度が二倍になっているようだ。
Lv1のときは丸一日かけて魔力値1つの回復。それがLv2ならば半日ごと、Lv3ならばさらに半分と、スキルレベルが一つ上昇するごとに一応はその回復速度が目に見えて早くなっている。
繰り返す間に、明は貯め込んだポイント60を消費して『魔力回復』をLv4にした。
Lv4の魔力回復速度は三時間ごと。
そのおかげもあってか、以前とは比べ物にならないほどの速度で明の魔力は回復してはいるが……それでもまだ、遅い。
三匹のボスを相手に、およそ全体の半分ほども魔力を消費していた明が全ての魔力を回復させるには、一度や二度の死に戻りではとうてい時間が足りなかった。
だから明は、全ての魔力を回復させるまであれからさらに八度、世界を繰り返した。
全てはギガントという化け物を倒すために。
自らの命と感情を文字通り削り取って。
何度も、何度も同じ時間を明は繰り返した。
とはいえ、魔力を回復させる間、ただぼんやりと過ごしていたわけではない。
柏葉や奈緒に状況を説明し、インベントリで持ち込んだ製作した武器や防具を使い、より楽に、より速く簡単になった戦闘で柏葉のレベリングを加速させて、得たポイントを製作系のスキルレベルアップへと投じてもらい、さらにもう一段階上の武器や防具を創り出してもらったり、ハイオークやリザードマン、ハルピュイアといったボスが支配していた街の先へと探索がてら足を運んでみたりと、限られた時間の中で出来る限りのことは済ませた。
驚くべきは、武器と防具製作のスキルレベルが上昇したことで、これまで謎に包まれていた〝魔素の結晶化〟が何か分かったことだ。
柏葉曰く、結晶化した魔素は製作系の素材になるらしい。
試しに、これまで放置していたウェアウルフの死骸を使って結晶化した魔素を取り出そうとしてみたが、どうやらそれも、『解体』によるスキルがないと取り出せないようだった。
そこで明は、次の『黄泉帰り』で柏葉には『解体』のスキルレベルアップを中心に行ってもらい、その結晶化を取り出し調べてみることにした。
――結果。〝結晶化した魔素〟はどうやら、魔力を溜め込む性質を持つ物質だということが判明。
それを『豚鬼頭の鉄剣』と引き換えにインベントリへと登録して、次の世界で再び武器製作スキルのレベルを上げた柏葉に創ってもらったものが、〝魔弾〟と呼ばれる、魔力を込めて放つことが出来る銃弾だった。
さらにもう一つ、驚くべきことがある。
それは、探索がてらさらに先の街へと足を運んだ際に、キラービーに支配された街を見つけたことだ。
それは、信じられないことにあの男が語った光景そのもので、すべてが虚言かと思われていたその男の言葉の中に一つだけ真実が紛れていたことが分かって、明は複雑な感情に囚われた。
――――そして。
(……ようやく、魔力が溜まったか)
通算死亡回数、六十四回。
固定化された『黄泉帰り』を繰り返すこと、三十二回。
この世界にモンスターが現れてから五日目の、午後二時三十二分。
一条明は、長い、長い繰り返しを終えて。
「行くか」
すべての準備を整い終えた。
次回、ギガント戦