摩耗する心
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レベルアップしました。
レベルアップしました。
レベルアップしました。
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ポイントを4獲得しました。
消費されていない獲得ポイントがあります。
獲得ポイントを振り分けてください。
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C級クエスト:ハルピュイアが進行中。
討伐ハルピュイア数:1/1
C級クエスト:ハルピュイアの達成を確認しました。報酬が与えられます。
クエスト達成報酬として、ポイントが50付与されました。
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ボスモンスターの討伐が確認されました。
世界反転の進行度が減少します。
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「はぁー……。終わったか」
眼前に表示されるその画面に、息が漏れる。
けれど、苦労した割にレベルアップの回数は少ない。
それはつまり、それだけ実力が上がったことを示すのだが、それはそれで寂しいような気がするのはあまりにも身勝手なのだろうか。
(……まあ、クエストは発生してたんだし贅沢は言えないか)
と明は自分を納得させると、ステータス画面を開いた。
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一条 明 25歳 男 Lv5(94)
体力:140(+4Up)
筋力:303(+4Up)
耐久:299(+4Up)
速度:282(+4Up)
魔力:55【116】(+4Up)
幸運:92(+4Up)
ポイント:56
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固有スキル
・黄泉帰り
システム拡張スキル
・インベントリ
・シナリオ
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スキル
・身体強化Lv4 ・軽業Lv1
・解析Lv3(MAX) ・魔力撃Lv1
・鑑定Lv3(MAX) ・第六感Lv1
・危機察知Lv1 ・斧術Lv1
・魔力回復Lv3 ・魔力回路Lv2
・魔力感知Lv1
・魔力操作Lv1
・自動再生Lv2
・集中Lv1
・剛力Lv1
・疾走Lv1
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ダメージボーナス
・ゴブリン種族 +3%
・狼種族 +10%
・植物系モンスター +3%
・虫系モンスター +3%
・獣系モンスター +5%
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明は、そこに並ぶ数字を一度見つめると、やがてその視線を動かしスキル画面にあるそのスキルを見つめた。
「コイツが無かったら、勝つことは出来なかったな」
呟き、明は『魔力撃』のスキル名に触れてその詳細を呼び出す。
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魔力撃Lv1
・アクティブスキル
・自身の魔力を消費し、斬撃に魔力を纏わせ飛ばすことが出来るようになる。斬撃によるダメージは、スキルレベル、自身の筋力値、魔力値に比例して上昇する。
・現在、スキル使用に消費される魔力量は5です。
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おそらくだが、『斧術』と『魔力操作』を獲得したことによって新たにスキル一覧へと現れたのだろう。
消費する魔力は大きいが、その威力は想像以上。まさに、必殺の一撃と呼ぶにふさわしいものだった。
「魔力も消費するし、魔力そのものを攻撃に纏わせるからか〝溜め〟が必要だから、戦闘中にポンポンと出せるもんじゃねぇけど……。それでも十分だな」
切り札となりうる『剛力』や『疾走』。絡め手である〈受け流し〉に、戦闘中の瞬間的な判断と回避に使える『集中』と『軽業』。攻撃を事前に察知する『危機察知』に『魔力感知』と、この繰り返しを始める前に比べると随分と手札がそろってきた。
これだけのカードがあればもう、負けることはありえない。
あの化け物を相手に互角に戦うことも出来る。
(このままギガントに挑む……のは、さすがに出来ないな。魔力が全体の半分しかないし、しばらくは身体を休めるか? 『魔力回復』Lv3でそれなりに回復するようにはなったけど、それでも消費に追いついていない……。Lv4になるために必要なポイントいくつだっけ?)
明は心の内でそう呟くと、画面を操作して『魔力回復』の項目を開いた。
(――――……ポイント60か)
表示されたその数値を見て、大きなため息が漏れた。
あまりにも大きすぎる数字だ。もしもクエストによる報酬が無ければ、このスキルを取得するまで一体どれほどの時間を要するのだろうか。
(……いや、そもそもこうして何度も繰り返してると忘れがちになるが、この世界自体はまだ四日目だ。本当なら、このスキルレベルになるのだって数カ月、いや数年かけて達するものなんだろう)
数カ月、数年後にまだ人類が生き残っているのかどうかは分からない。
けれど、こうしてスキルやレベルが出現した今、一部の人間は何が起きたとしても必ず生き残っているはずだ。それが、全世界を合わせて何百万、何十万という数少ない人数だとしても。
(この時点で、このスキルレベルになってる俺がおかしいんだよなぁ)
と明は思わず自嘲の笑みを浮かべる。
それから、明は笑みを消してもう一度画面へと目を向けると、疲労を感じさせる深いため息を吐き出して画面を消した。
(魔力の回復待ちの間、もう少しだけ繰り返すか。もしかしたらまだクエストが発生するかもしれないし。発生しなくても、ボスさえ倒しておけばレベルは上がる。俺が取得してるスキルを見ても、魔力回復のスキルレベルを上げておいたほうがいいのは確かだしな)
度重なる繰り返しで、心が擦れて摩耗していくのを感じる。
それほど時間は経っていないはずなのに、あの赤い夜の日が遠い過去のように感じる。
(……大丈夫だ。俺はまだ、大丈夫)
この世界を変えると、あの涙に心から誓った。
自分が頑張らねば、誰があの未来を変えることが出来るというのだ。
大丈夫。
もう、大丈夫だ。
ミノタウロスから逃げるため、幾度となくこの世界を繰り返したあの時とは違うのだ。
背中を支えてくれる人がいる。
前を向き、歩き出す力はもうすでに貰っている。
だから――――
「もう少しだ」
もう少しで、全部が終わる。
この繰り返しに終止符を打つことが出来る。
その思いだけを胸に、明は再び世界を繰り返す旅に足を踏み出した。