あの時の、絶望を越えて
「ふー……。さて、と」
明は呼吸を整えるように息を吐くと、へたり込むようにへし折れた電柱の上へと腰を下ろして、ステータス画面を開いた。
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一条 明 25歳 男 Lv6(89)
体力:136(+5Up)
筋力:299(+5Up)
耐久:295(+5Up)
速度:278(+5Up)
魔力:63【112】(+5Up)
幸運:88(+5Up)
ポイント:88
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固有スキル
・黄泉帰り
システム拡張スキル
・インベントリ
・シナリオ
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スキル
・身体強化Lv4
・解析Lv3(MAX)
・鑑定Lv3(MAX)
・危機察知Lv1
・魔力回路Lv2
・魔力回復Lv2
・自動再生Lv2
・集中Lv1
・剛力Lv1
・疾走Lv1
・軽業Lv1
・第六感Lv1
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ダメージボーナス
・ゴブリン種族 +3%
・狼種族 +10%
・植物系モンスター +3%
・虫系モンスター +3%
・獣系モンスター +5%
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リザードマンを倒したことによってようやく、一応は三匹全員を相手にしたクエストを終わらせたことになった。
これから先は延長戦。
いわゆる、最初に相手をしたハルピュイアを、『疾走』や『剛力』といったステータス補助のスキル無しで、魔法を使用してくるボスモンスターを倒すことが出来るようになることを目標とした、戦闘経験を積み重ねる修行の時間だ。
「そう言えば、いつの間にかレベルも80を超えてるんだもんなぁ」
明は、眼前に浮かぶその画面をぼんやりと眺めて呟いた。
――レベル80。
それはかつて、この世界に現れたミノタウロスが世界反転率によって一部の力を取り戻した際にステータス画面へと表示されていたレベルだ。あの時は、その数字を見ただけで心がへし折れ、先の見えない絶望に頭を抱えることしか出来なかった。強化されたそのモンスターには、勝つことが出来ないと本気で考えていた。
けれど、今やそのレベルを越えている。
それほどまでに強くなっている。
(なんだか、感慨深いな)
と、明は心で呟き小さく笑った。
それから気持ちを切り替えるように画面へと視線を向けて、思考を巡らせる。
「残りのポイントは88か……」
ハイオークやリザードマンを相手にするため、スキルレベルの上昇や新たなスキルで多くのポイントを取得したが、それでもまだ、手元に残ったポイントはかなり多い。
これだけあればまた、ギガントとの戦いで役に立ちそうなスキルを取得することだって可能だし、なんならもう既に取得しているスキルのレベルを上げたっていいだろう。
(『集中』を取得してから、魔力消費がかなり早いな)
リザードマンを相手にした繰り返しの中で、練習のために幾度か『集中』を発動した影響もあってか、ステータス上での今の魔力量は、総魔力量のおよそ半分だ。
魔力を回復させるために以前、『魔力回復』スキルをLv2にあげてはいるが、それでももう、消費に回復速度が追いつかなくなっている。
(今の回復速度は……だいたい12時間に魔力値1の回復だもんなぁ。そろそろ、魔力回復のスキルレベルも上げるべきか? っつか、そもそも魔力の回復速度が遅すぎるんだよ)
明は心の内でそう愚痴をこぼすと、深いため息を吐き出す。
この世界に現れたモンスターの強さと、魔力に関連したスキルの多さを考えても、明をはじめとする人間は、魔力という未知の力なしではモンスターに立ち向かうことすら出来ないのは間違いない。
逆を言えばそれだけ、魔力という未知の力が人間へと多大な力を与えているとも言えるのだが、それにしてももう少し、どうにかならないのかと考えてしまう。
(まあ、『魔力回路』っていうスキルで無理やり、元々存在していない魔力に適応する回路を身体の中に創り出しているようなものだし、それに対応した回復スキルが無ければ回復しないってのも分かるけどさ)
と、明はさらにそんなことを思うと、どうするべきかと考えた。
(『魔力回復』Lv3へとスキルレベルを上げるために必要なポイントは……40か。今の手持ちでも十分に上げることは出来るけど、わりと消費がデカいな)
しばしの間、明は考える。
それから、深いため息にも似た息を吐き出すと、明はゆっくりと指を動かした。
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魔力回復Lv2
・パッシブスキル
・時間経過に応じて、損失した魔力を回復する。魔力の回復に掛かる時間は、スキルレベルに応じて変動する。
ポイントを40消費して、スキルのレベルを上げますか? Y/N
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結局、明は魔力回復のスキルレベルを上げることに決めた。
こうして、自分自身を高めるために行う繰り返しの中でも時間は絶えず流れているのだ。だったら、その時間さえも無駄にしたくないと考えた結果だった。
『Y』を押して、取得する。
表示された取得を知らせる画面を手で払い、消して、明は大きく身体を伸ばした。
(ひとまず、これで。あとのポイントは、そうだな……)
じっと、残ったスキルと取得することが出来るスキルの一覧を見つめる。
〈受け流し〉や回避といった技術を身に付けた今、以前とは比べ物にならないほどの戦闘経験を積んでいるという自負はある。このままでも問題はなさそうだが、さらにもう一つ、技術を身に付けるとするならば武器や道具の習熟に関する技術だろうか。
(時間を掛ければ扱いには慣れるけど……。ボスモンスターがこぞって、それ関係のスキルを持っているのが気になるんだよなぁ)
もしかすれば、それらのスキルを取得することによって〝扱いの慣れ〟といった感覚を越えた何かが身に付いたりするのだろうか。
(前に、ウェアウルフが技名っぽいのも使っていたし、そっち方面のスキルを取得しておけば何か起きるかな)
解析スキルが最大になったことで、新たなスキルがスキル一覧に表示された前例がある。
新たなスキルを取得することで、さらにスキル取得の選択肢が広がることはまず間違いないはずだ。
(……だったら、取得しておくか)
心で呟き、明は20ポイントを消費して『斧術』を取得した。
「んー……。出来れば、もう一回ぐらいクエスト出ねぇかな」
総合レベルが89と大きく上昇してはいるが、ハルピュイアを相手にまだ、格下だと判定されれば、もしかすれば、もう一度ぐらいはクエストが発生するかもしれない。
そんなことを考えながら、明は目の前に現れていたすべての画面を消して再び気合を入れると、ハルピュイアの元へと足を向けたのだった。